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58 金華

 


「うわああああああああああああああ?!?!」


「何で町中にモンスターなんかがいるんだよぉ!!」


「誰か助けてくれぇぇ!!」


 町は阿鼻叫喚に包まれていた。

 突如大量のモンスターがやってきては、次々と町の人を襲い始めたのだ。

 それも、野生にいるようなモンスターではなく、ダンジョンに出現するような強力なモンスターまでいる。


 町民が慌てて逃げ出す中、武芸者や偶然町にいた冒険者が応戦していた。


「そいや!!」


「なんのなんの、モンスターがなんぼのもんじゃい!!」


「へっ、武芸者とやらも案外やるじゃねぇか!!」


「そっちこそ、威勢が良いだけじゃなかったな」


「ガハハハッ、当たり前だ。こっちはモンスターを倒して(これ)で食ってるんだぞ。舐めてもらっちゃ困る!!」


 武芸者がゴブリンの腹部に拳打を繰り出し、冒険者が大斧でレッドボアを真っ二つに叩っ斬る。

 武芸者と冒険者は、互いに協力しあってモンスターを屠っていた。

 それにより、町の被害は最低限に抑えられている。


 だが、彼等が凌いでいられるのも下位のモンスターだからであった。

 モンスターと戦い慣れている冒険者ならまだしも、武芸者は対人戦に特化していて、モンスターとの戦闘経験は皆無に等しい。低レベルのモンスターならまだしも、強力なモンスターには歯が立たなかった。


「俺達破天流がいる限り、この町は安全ぎゃあああああああああああああ!!」


「おい、全然技が効いてねぇじゃねえか!? こんなんでどうやって倒せって言うがああああああああああああああ?!?!」


「ま、待って……お願いだから助けぐああああああああ!!」


「こ、こんな強いモンスターが出るなんて聞いてないぞ!? 弱いモンスターを倒して俺達がヒーローになるんじゃなかぎゃあああああああああああああ!!!」


「ゲラララララララッ!!」


 オーガ、ハイオーク、ミノタウロス。

 ダンジョンでも中位に属する強力なモンスターによって、破天流の武芸者が次々と惨殺されていく。


 その光景を目の当たりにし、果敢に戦っていた武芸者や冒険者の表情が絶望に染まり、戦意を根こそぎ奪われてしまった。


「クソったれ、なんでこんな所にオーガやミノタウロスなんかがいやがるんだよ!?」


「駄目だ……勝てる気がしない」


「いや、来ないで……誰か助けてっ」


「「ゲヘヘヘ」」


 強力なモンスターの存在に武芸者や冒険者が脅える中、一人の女性がゴブリンに襲われそうになっていた。


 その女性は、ダル達が立ち寄った茶屋の女性店員だった。

 恐怖心で足が動かない女性に、ゴブリンが下卑た嗤い声を上げながら凶手をかけようとした――その時。


 ――金色こんじきの光が瞬いた。


「はっ!!」


「「ギャアアアア!!」」


 高速の斬撃により、ゴブリンの首を刎ねる。

 剣に付着した血を払いながら、震える女性に手を差し伸べながら声をかけた。


「もう大丈夫ですよ」


「あ、あなたは……あの時の冒険者さん……」


「はい、覚えていてくれて光栄です」


 そう、女性の窮地を救ったのはアテナだった。

 ダル達と別れたアテナは急いで町に降り、目に付くモンスターを片っ端から斬り捨てていたのだ。

 そして、ゴブリンに襲われそうになっていた女性を間一髪救ったのである。


「ブモオオオオオ……」


「……ミノタウロスか」


 モンスターとしての本能だろうか。

 アテナが自分達の脅威であると悟ったミノタウロスが、鼻息を荒くしながら近づいてくる。


 二メートルを優に超す巨体に、はち切れんばかりの強靭な肉体で、おどろおどろしい牛の頭。

 ミノタウロスの脅威度は中位の部類に入るが、その中でも一線を画すモンスターだ。強い個体の中には上位に届くものもいる。


 その上、眼前にいるミノタウロスは片手斧を携えていた。武器まで所有しているミノタウロスを倒すのは、アテナ一人では困難な相手だ。


(だが、そんな事言っていられないだろう!)


 例え敵が凶悪なモンスターだろうと、襲いかかってくるモンスターはこの手で倒す。

 子供の時、モンスターに襲われた村を救ってくれた青年のように……ダルのように、今度は己が人々を救うのだ。


「ブモオオオオオオオオ!!」


 つんざくような雄叫びを上げながら、ミノタウロスが猛進してくる。


 アテナはその場を動く事ができない。

 何故なら、後ろに動けない女性がいるからだ。下手に動けば、女性が巻き添えになってしまう。

 ならば、ここを一歩も動かず倒すしかない。その為の鍛錬を積んできたのだから。


『アテナ、お前の回避能力は神がかってるまでに天才的だ。他の誰よりも優れていると思う。だがな、もし後ろに動けない仲間がいた時はどうする? 回避すれば仲間が襲われてしまう。されど、お前の防御力じゃ耐えられないほどのパワーがある敵だったらどうする?』


「ブモオオッ!!」


 肉薄してきたミノタウロスが、真上から片手斧を振り下ろしてくる。

 身体強化をしているとはいえ、アテナの細腕ではまともに受けてしまえば剣を真っ二つにされ、そのまま胴体を切断されてしまうだろう。


(だからこそ、この技を磨いてきたんだ!!)


『そんな時こそ、流す技が必要になるんだ。攻撃を逸らし、体勢を崩したところを攻める。良い手だと思わないか?』


「はぁあああああああああ!!」


 アテナは絶叫を上げ、渾身の一閃を放つ。

 斜め横からミノタウロスの斬撃に対し、速度、タイミングを寸分の狂いもなく合わせた。力の流れを支配し、その軌道を外へと受け流した。


「ブモ!?」


(ここで決める!!)


 訳も分からず攻撃を受け流されたことに、ミノタウロスは驚愕した。それだけではなく、アテナの受け流しによってミノタウロスの体勢は大きく崩れていた。


 絶好の好機。叩くのならこのタイミングしかない。

 だがアテナの攻撃力では、鋼の耐久性を持つミノタウロスを仕留めきることは不可能だろう。


 “今までのアテナであったなら”。


『怒りの感情を解放させる事を、俺は『情動』と呼んでいる』


 ダルは言った。

 人が力を発揮する感情は、怒りであると。


 そして怒りの感情を任意で解放させる事で、力を最大以上に上昇させることを『情動』という。


 ダルから教えてもらってから、アテナはずっと情動の鍛錬に励んでいた。だが普段から落ち着いていて怒りからほど遠いアテナにとって、怒りを爆発させるのは難しかった。

 それでも、彼女に不可能の文字はなく、完全ではないが情動を習得したのだった。


「はぁああああああああああああああああああああああ!!」


 怒声を上げ、アテナは『情動』を発動する。

 怒りの根源は、町を暴れ回るモンスターに対してだ。人々に恐怖をもたらすモンスター共を、決して許すことはできない。


 全ての怒りを乗せた全力の刺突は、ミノタウロスの硬い筋肉を越え心臓を貫いた。

 それだけではない。情動によって破壊力が増した刺突は衝撃波を発生し、ミノタウロスの胸部に大きな風穴を空けたのだ。


「ブ……モ……」


 命を絶たれたミノタウロスは、白目を剥いて背中から倒れる。

 凶悪なモンスターが倒されたところを目撃した武芸者と冒険者は、信じられないといった表情でアテナを見つめていた。


「おいあの女……一人でミノタウロスを倒しちまったぞ」


「し、信じられねぇ……」


「ちょっと待て! 黄金の髪に、冒険者にしては綺麗なツラ……もしかしてクラリスで噂になってた【金華】って奴じゃねえか!?」


「ま、間違いねぇ!! 一度だけだが俺も見たことあるぜ、確かスターダストっつうパーティーのリーダーだ!! 名前はアテナだったぜ!!」


「おい、あの女性はそんなに有名なのか?」


「ああ、まだ出てきたばっかの冒険者だが、冒険者おれたちの中では有名だぜ。とんでもなく避けるのが上手くて、剣技もピカ一なんだよ」


 アテナの事を知っていた冒険者達が騒めき出す。

 アテナを知らない武芸者が怪訝そうに問いかけると、冒険者達は興奮しながら彼女がどれだけ強いか説明した。


 ミノタウロスを倒したことで、彼等が戦意を取り戻しつつあると気付いたアテナは、ここぞとばかりに剣を掲げる。

 声に魔力を乗せ、高らかに叫んだ。


「私はスターダストの【金華】、アテナだ! 強力なモンスターは私が倒す。冒険者や武芸者の方は、自分が倒せるモンスターの相手をしつつ、町の人達を守ってくれ!!

 今、私の仲間が事態の解決に向かっている。それまで、共にこの窮地を乗り越えよう!!」


「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 その言葉は熱く、勇気が溢れてくるものだった。

 折れかけていた心に熱が灯り、戦う者達は一斉に鬨の声を上げる。

 絶望が、希望に変わった。


「さぁ、行こう!!」


 金色こんじきの長髪が靡く。

 人々を導くカリスマが、今まさに開花しようとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 熱い展開のはずなのに、ハムみたいな二つ名だな って思ってしまう
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