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57 妖しい女

 


「よぉフレイ、調子はどうだよ」


「調子もクソもあるかよ、オレはいつも通りだぜ」


「はっ、お前らしくて安心したぜ」


 木影流の看板を賭けて、メイメイの代理で破天流と勝負する事になったフレイ。


 もし負けてしまったら木影流が消えてしまうという事で、流石のこいつでも気張り過ぎてんじゃねーかと思っていたが、どうやら俺の思い過ごしのようだ。

 やる気は十分、されど心は落ち着いている。最高のコンディションだ。


「すまないっす……アチキがリュウに負けなかったら、こんな事にはならなかったのに」


「しょぼくれてんじゃねー。大体リュウって奴も卑怯な手で勝ったようなもんじゃねーか。最初から一人で戦わず、下っ端共に削らせてたんだからな。だからいつまでもメソメソしてんじゃねーよ」


「痛っ……ちょっとフレイ、アチキは怪我人なんすよ、もっと労わって欲しいっす」


 頭を軽く叩いたフレイに、唇と尖らせながら文句を漏らすメイメイ。


 一晩眠り、メイメイも立ち上がれるほどに回復した。

 身体の至る所が骨折しており、本来なら喋るのも辛いはずなのだが、メイメイは意外とケロっとしている。

 やはり獣人族のタフさは驚嘆ものだな。


 メイメイの身に何があったのかは、俺達は既に本人から聞き出している。

 町での用が済み、帰ろうとしたところを破天流の弟子達に待ち伏せされて、襲われてしまった。撃退するも、後から現れたリュウとの戦いで敗北し、重傷を負ってしまったらしい。


 メイメイから話を聞き終えた後、今度は俺達がその後にあった事を教えた。


 倒れているメイメイをフレイが発見し、連れてきてアテナとミリアリアが回復魔術で回復させたこと。


 その後すぐに破天流師範のタオロンがやってきて、流派の看板を賭けて弟子同士が決闘することになった。


 だが木影流唯一の弟子であるメイメイが戦える状況ではなかったので、代わりにフレイが戦うことになったんだ。


 タオロンって奴は頭が回る上に相当タチが悪いぜ。

 予めメイメイを排除し、その上で弟子同士の勝負を持ち掛けてきたんだからな。だが奴にとって誤算だったのがフレイの存在だろう。

 メイメイ以外の弟子がいるとは露程思わなかっただろうしな。


 それは俺も同じだ。

 本人には悪いが、正直フレイが自ら名乗り出るとは思わなかったぜ。メイメイと木影流への恩返しかどうかは知らないが、誰かの為にその力を使えるようになり、俺は嬉しさを感じていた。


 決闘は本日の正午、あと数時間後だ。

 対戦相手は十中八九リュウだろう。今度こそ自らの手で決着をつけに来ると思われる。

 あいつが今どれだけ強くなっているかは分からねぇが、恐らくメイメイよりも実力は上だろう。


 大勢の相手をして体力を削られていたとはいえ、やられ方が一方的だった。負けた本人も自分より強いってはっきり言ってるしな。


 問題なのは、メイメイを負かしたリュウにフレイが勝てるかどうかだ。

 フレイは一度メイメイに負けている。そのフレイが、果たしてリュウに勝てるか……。


 あれからフレイも成長しているとはいえ、ギリギリの勝負になるのは間違いないだろうな。


「まっ、俺達も応援してやっから、頑張れよ」


「卑怯な真似をする相手なんかに負けるんじゃないぞ」


「チッ、言われなくったってオレが負けっかよ」


 俺とアテナの激励に、フレイがウザったそうに舌を打つ。

 それを横目に、俺はさっきからずっと難しい顔を浮かべるミリアリアに問いかけた。


「おいミリアリア、さっきから何考えてんだよ。フレイ一人で作った朝飯を食って腹でも壊したか?」


「違う……さっきから精霊がおかしい、なんか恐がってる」


「恐がってる? それって――」



 ――ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!



「「――っ!?」」


 ミリアリアに続きを聞こうとしたその時だった。

 突如、けたたましい獣の叫びが響き渡ってくる。身体の芯が震えるような、重苦しい叫びだ。


「な、なんだ今の声は?」


「わからねぇ、外の様子見てみるか」


 気になった俺達は一旦外に出て、町の様子を窺う。

 すると――、


「町から煙が上がってるぞ!?」


「それだけじゃない……モンスターもいる」


「なんだって!?」


 ミリアリアの話は本当だ。

 町の中でモンスターが暴れ回ってやがる。


 身体強化を目に集中させて見てみると、朧気だがモンスターらしき生物が人を襲い、民家を破壊している。

 それも一匹や二匹じゃねぇ、両手で数えれ切れないほどいるぞ。


 いったい何がどうなってやがる……。

 町にモンスターが出現するなんてあり得ねーぞ。しかもあんな数……どっから湧いて出てきやがったんだ。

 疑問を抱いていると、ミリアリアが別の方向を指して慌てながら、


「見て! 山からどんどんモンスターが町に降りてってる!」


「なんすかあれ……何が起こってんすか!?」


 ミリアリアの手を追いながら見てみると、モンスターの大群が山から町に向かって猛進していた。


 ふざけろ……なんだよあの数、十や二十じゃ収まらねぇぞ。百は軽く越えてるじゃねーか!

 って驚いてる場合じゃねぇ、すぐに動き出さないと町がモンスターの大群に潰されちまう。


「お前等、今すぐモンスターをどうにかするぞ。アテナは町に降りてモンスターを倒してくれ。俺とミリアリアは山に行って足止めをする」


「分かった!」


「面倒臭いけど、しょうがない」


 この陣営にしたのは理由がある。

 小回りの利くアテナは町で町民を助けつつモンスターを撃破する。

 逆にミリアリアは、町の中だと力を発揮できない。誰も居ない山の中で広範囲魔術を使った方が断然効率が良いからだ。


 そして俺は、この不可解な現象の原因を止める。

 迷宮でもない山の中から、突然大量のモンスターが自然に現れるなんてあり得ねぇ。必ず何か原因がある筈だ。


 俺の経験というか、嫌な予感が訴えかけてくるんだ。

 この問題はヤバい件だってな。


「おい、何テメエらだけで行こうとしてんだよ! オレも行くぜ!!」


「駄目だ、フレイはここに残って爺さんとメイメイを守ってくれ。もし道場にもモンスターが来たら戦える奴がいなくなっちまう。

 それに、勝負の前に負傷してもケチがつくからな。もっと言えば、もし時間オーバーしたら不戦敗になっちまうかもしれねぇ。あの糸目野郎は平気で言ってきそうだぜ」


「んぐ……ギギギ!!」


 納得いってない表情で歯軋りするフレイの肩に手を置き、「心配すんな」と言って、


「パッパッと終わらせて、皆で応援してやっから」


「チッ、いらねーよそんなもん。さっさと行けや」


 俺達は早速行動に移す。

 俺とミリアリアは山へ、アテナは町に降りる。その前に、アテナには一言声をかけた。


「アテナも無理だけはするんじゃねぇぞ」


「ふっ、心配するな。私は世界一の冒険者になるまでは死ねないからな。ダル達も気をつけろよ」


「ああ」


 アテナとは別れ、俺とミリアリアは山に入る。

 山の中は様々なモンスターで溢れかえっていた。ゴブリンやオークといった下位から、オーガにゴーレムと中位のモンスターまでいやがる。


 やはりおかしい、野良で現れるモンスターじゃねぇぞ。ダンジョンに出てくるようなモンスターばっかりだ。


「ミリアリア、ちっとばかし厳しいことを言うかもしれねぇが、お前一人でここを任せたい。全部倒さなくていい、時間を稼ぐだけでいいんだ。できるか?」


「誰に言ってんの、あんな雑魚何匹いようが問題ない。さっさと原因を止めてきて」


「頼もしい限りだぜ。いいか、お前も無理するんじゃねぇぞ。今までにない事態だ、この先何があるか分からねーからな」


「くどい、ダルに心配される程アタシは弱くない」


「頼りにしてるぜ。じゃあ、行ってくる」


 ミリアリアにモンスターの大群を任せて、俺はさらに先へ進む。身体強化を全力で発動し、モンスターを素通りしながら高速で山を駆け登っていった。


(強い魔力を上から感じる。きっとそこに何かがある筈だ)


 既に俺は探知魔術を広範囲に発動し、違和感があるところを探し当てていた。


 かなり上の方から強い魔力反応を感知している。モンスターも上から降りてきている事だし、原因があるのは間違いないだろう。


「この辺にある筈だ……あれは――っ!?」


 反応が強い場所に辿り着き、目当てのものを探していると、あるものを見つけて吃驚する。


「まさか……魔門ゲートか!?」


 眼前にあるのは、山の風景に似合わない漆黒の空間。大きくて丸い形をした闇が、激しく渦を巻いている。さらにその空間から、次々とモンスターが這い出てきていた。


 間違いねぇ……あれは空間魔術だ。

 しかも高等魔術の空間魔術の中でもさらに超高等の魔門ゲート

 ゲートは異なる空間――場所を繋げる魔術だ。あの魔術があれば、離れた所でも一瞬で移動する事ができる。


「おいおい、なんでゲートがこんな所にあるんだよ。それもモンスターが出てきてるって事は、ゲートが繋がってる場所はダンジョンじゃねえか。誰がやったか知らねぇが、ふざけた真似しやがって。今すぐ叩っ斬ってやる」


 鞘から剣を抜き放ち、魔力を全開に解き放つ。

 大きく振りかぶり、ゲートに狙いを定めた。


「戦そ――」


「あらぁ、邪魔しないでくれるかしらぁ」


「――っ!?」


 剣を振るおうとしたその時。

 背後から強烈な殺気を感じ、咄嗟に剣を構えた。剣と剣がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。


 危なかった……気付くのが一瞬遅かったら頭が斬り飛ばされていたぞ。


「あれぇ、おかしいわねぇ。今ので殺せると思ったのにぃ」


「お前がゲートを出した本人だな」


「あらあら、バレちゃったわねぇ」


 バレたんなら少しぐらい焦りを見せろよクソったれ。

 余裕な態度見せやがって、気に入らねぇな。


 俺を襲い、恐らくゲートを出現させたこの元凶は怪しげな女だった。


 腰元まで伸びている、ウエーブのかかった長い黒髪。綺麗な顔をしているが、白い肌に真っ赤な唇で、垂れ目の奥の瞳は狂気が孕んでいる。


 背は高く細身だが、胸は凄い大きい。良い乳してるじゃねぇか、こんな出会いじゃなかったら鼻の下を伸ばしてただろうな。


 格好は冒険者と魔術師を足して割ったような感じだ。水着のような黒い胸当てを着け、臍は丸出し、下半身を覆い隠す長いスカートを履いている。全体的にそそるようなエロい格好だ。


 だが、エロい服装に似合わず両手には漆黒の短剣を携えている。それでこいつが双剣使いだという事が察せられた。


 怪しいというよりは、妖しい女。

 妖艶という言葉が心底似合うような女だぜ。


 美しいが、うっかり触れば刺される薔薇のようだ。

 いや、刺される程度じゃ済まないだろう。この女から溢れ出る邪悪で禍々しい雰囲気オーラが、只者ではないと伝えてくる。


 はっきり言っちまえば、この前倒した魔神よりもヤバい気がするぜ。なんでこんな化物がこんな所にいるんだよクソったれ。


「誰だよお前、こんな所でゲートなんか開いて何が目的なんだ」


「あらあら、せっかちな人ねぇ。折角こうして出会ったのだから、もっと色気のある話をしましょうよ」


「そうしたいのは山々なんだけどよ、こっちも急いであのゲートをぶっ壊さないといけねーんだわ」


「それは困るわねぇ、アナタを殺さないといけないわ。うふふ、じゃあこうしましょうか。私を愉しませてくれたら教えてあげる。私が誰なのか、その目的も」


 不気味に嗤いながら、女は剣を掲げる。

 悪いアテナ、ミリアリア、ちょっとばかし時間がかかるかもしれねぇ。俺がこいつをぶっ殺すまで、なんとか持ち堪えてくれよ。


「さぁ、私と踊りましょうか」


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