05 前途多難
エストを追放し、メンバーが三人になった俺たちスターダストは冒険者ギルドに訪れていた。
迷宮に行かずギルドを訪れたのは、新たな仲間と会うためだ。
どうやらリーダーのアテナが、元ドラゴンヘッドのエースアタッカーであるフレイを勧誘したらしい。
フレイの影を探していると、テーブルで飯を食っていた。それも皿が積み重るほどの量を食ってやがる。
流石竜人族……燃費がよろしいことで。
俺たちは食事中のフレイに近づき、アテナが声をかける。
「やあフレイ、待たせてしまったようで悪いな」
「おうアテナ! 気にすんな、ちょっと早めに来ちまっただけだ。朝飯を食い忘れてよ、話は食いながらでもいいか」
「ああ、構わないよ」
「そら助かるぜ。突っ立ってないでお前らも座れよ」
フレイは大きな骨付き肉を豪快に食いちぎりながら催促してくる。
俺たちは空いている席に座った。
フレイのことを観察する。
耳の上あたりに二本の角が生えていて、背中には竜の翼、腰の下あたりには赤い尻尾が生えていた。
紅い髪は短く乱雑に切り揃えられている。肌は白く人間っぽいのだが、実は全て竜の鱗だ。
勝気な目は吊り上がっていて、瞳は金色で蜥蜴のように鋭い。
顔は上玉と言っていいだろう。ただこいつは女の色気とかは皆無だけどな。
フレイのことはよく耳にしている。
個人ランクはシルバーで、ドラゴンヘッドという竜人族のみで構成されたパーティーに所属していた。
格闘士で、接近戦に強い。実力だけみたらこいつはゴールドランクでもおかしくはなかった。
が、フレイはとにかく素行が悪かった。
他の冒険者とすぐに喧嘩するし、自分から喧嘩をふっかけることもあるし、酒に酔って暴れることも多い。
あまり良い噂を聞かない。というか悪い噂しかなかった。
ドラゴンヘッドを追い出されたのも、なにかの揉め事だって聞いたしな。
要するに、問題児というやつだった。
アテナからこいつを仲間に加えると聞いた時は冗談だと思ったぜ。
ぶっちゃけて言えば、こんな問題児をパーティーに入れるのは俺は反対だった。
ただリーダーが決めたことだから、従うしかなかったけどよ。
本当に大丈夫か~? といった心配は拭えない。
「おっ、今日はあの腰巾着がいねぇじゃねえか。やっと切ったのか?」
フレイは俺たちのことを見回しながら問うてくる。
腰巾着というのはエストのことだろう。
「ああ、昨日パーティーから抜けてもらった。それとフレイ、エストのことを侮辱するのはやめろ、不愉快だ」
険しい表情でアテナが言うと、フレイは舌打ちして、
「けっ、腰巾着に腰巾着と言って何が悪いんだよ。あいつは身の程を知らずお前らに縋りついていたクソザコだ。
そう思ってるのはオレだけじゃねえ、ここにいる冒険者ならみんな思ってたことだぜ。強者のおこぼれを拾うハイエナだってな」
フレイの言っていることは間違ってない。
実際エストの評判は悪かった。
実力に見合わないやつが何でスターダストにいるんだよってな。それも陰口じゃなく、どいつもこいつも面と向かって言ってやがった。
中にはエストに喧嘩を売るやつもいたしな。
まあそいつらは俺とアテナで返り討ちにしたけどよ。
「その点オレはお前を認めてるんだぜアテナ。お前の強さはオレと遜色ねえ、だからお前の誘いに乗ってやったんだ」
「誘いに乗ってやった? ドラゴンヘッドから追い出された奴がやけに上から目線じゃねえか」
「うるせえ、オレのせいじゃねえよ。あいつらがオレの力についていけねーって言うもんだから仕方なく抜けてやったんだ。
てかダル、オレはお前も認めてねーからな。十年も冒険者やってる癖にシルバーランクのままでよ、スターダストに入るまでは初級の迷宮に入り浸ってたそうじゃねえか。プライドってもんがねえのかよ。お前もあの腰巾着と変わんねえんだよ、オレに指図するなおっさん」
「おっさんって……」
俺まだ二十歳なんだけど。
せめてお兄さんと呼べよ、おっさんはやめてくれ。
「フレイ、これ以上仲間への侮辱は許さない。次言ったら勧誘の件はなかったことにする」
「ほ、本気にすんなよ。ただの冗談だろ? 今度はマジな話なんだけどよ、このおっさんも追い出して新しいパーティーを作ろうぜ。
オレたちならすぐにゴールドにだってなれるって。あっ、ミリアリアは居てもいいぜ。お前の強さはオレもよく知ってるからな」
「ダルじゃないけど上から目線がムカつく。言っとくけど、アタシはアナタが嫌い」
「おーおー、言ってくれるねぇ。オレは真正面から言ってくるお前みたいなのは好きだぜ」
「ウザい……こいつ苦手」
おぉ……あの屁理屈ミリアリアが言い負けるとは珍しいもんを見たぜ。
この少しの短時間でフレイの性格がよく分かった。
こいつは口も悪くガサツでワガママだが、良くも悪くも実力主義なんだ。
強い奴には対等に接するし、弱い奴には興味を示さない。
弱肉強食の王である竜の血が流れていることがよく分かるわ。
「ダルはこのパーティーに必要な存在だ。ダルのことが気にいらないなら入らなくてもいいぞ」
「ちょっと待ってくれよ、入るって。おっさんのことは仕方ねーから目を瞑ってやる。おっさん、感謝しろよ」
「お前マジで一発殴っていい?」
「おっやんのか? いいぜ、早速パーティー内の序列を決めておこうじゃねえか」
「何言ってんだよ、冗談に決まってんだろ」
拳を作ってポキポキ骨を鳴らしているフレイに、あははと笑ってそう言うと、ミリアリアがジト目を向けてくる。
「ダラしない。男だったら言われたままでいるな」
あっそういうの男女不平等って言うんだぞ。
っていうか、こんな力馬鹿とまともに喧嘩しようなんて奴いねえだろ。
絶対やりたくないわ。
俺たちのやり取りを見守っていたアテナが、深いため息をついて、
「ひとまずこのパーティーで迷宮に行こう。よろしく頼む、フレイ」
「おお! 大船に乗ったつもりでいな!」
元気に声を出すフレイ。
(大丈夫かねぇ……)
心の中でため息を吐き出す。
俺はすでに新しいパーティーに前途多難を感じていた。
はぁ……かったりぃな。