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49 ミリアリア2(後編)

 


 長い野宿生活が終わり、やっとまともな町を見つける。

 この山を越えるとバロンタークはすぐ目の前らしいから、山越えの前にこの町で一息つくそうだ。


 立ち寄った茶屋でご飯を食べていると、破天流とかいう三下っぽい奴等が店員に絡んでくる。

 折角の良い気分が台無しだ。三下共はフレイが成敗したけど、予想以上に弱かった。この町にはあんなバカが沢山いるのだろうか。


 その後、ダルの知り合いに会うため山に登る。

 中間辺りでへばってしまい、フレイにおぶって貰うことになった。旅に出る前よりは多少体力もついたと思うけど、この急な石の階段を登るのは流石に辛い。


 道場に着き、パイというお爺ちゃんとフレイがなんやかんやあって、その後獣人族のメイメイがやって来て、今度はメイメイとフレイが戦うことに。


 正直アタシから見てもメイメイじゃフレイの相手にはならないと考えていたけど、その予想は裏切られフレイが敗北してしまった。

 ふ~ん、見た目の割りに中々やるじゃん。


 勝負が終わってから別室で話し、木影流と破天流のいざこざを聞かされる。アタシとしてはどうでもいいことなので、半分聞き流していた。だけど面白いことに、突然ダルがフレイに木影流の弟子になれと言う。


 フレイはふざけるなと怒っていたけど、最終的には弟子になることにしたらしい。

 多分だけど、フレイもダルには何か考えがあるのだろうと勘付いているのだろう。ダルとの勝負に負けた時から、フレイは精神的に少〜しだけ大人になって頭を使うようになったし。


 次の日の朝。

 朝ご飯を食べようと広間に行くと、道着を着ていたフレイを見掛ける。

 ぶふっ……全然似合ってない。違和感ありまくりだった。

 どうやらフレイはアタシ達よりも早く起きて、道場の雑務を手伝っていたらしい。

 うん……アタシ達の分まで頑張ってね。


 朝ご飯を食べた終えた後、ダルに連れられてアテナと一緒に山の中に入る。

 どうやらアタシとアテナは別の鍛錬をするそうだ。

 はぁ~折角のんびり休めると思ったのに、また鍛錬か。


 いい加減にして欲しいとため息を吐いていると、ダルがアテナにレクチャーする。詳しくは分からないけど、簡単に言えばわざと怒って力を上げるといったものだ。

 怒りの感情でパワーが上がるのはわかるけど、果たしてやろうと思ってできるものだろうか。


 疑っていると、突然ダルから信じられないほどの殺気が迸る。魔神と対峙した時とはまた別種の恐怖が込み上げ、身体が竦んでしまう。


 これほどまでの怒りを、そういった状況でもないのに生み出せるものなのだろうか……。ダルはそのまま剣を持ち、強化もしていない一振りで岩を粉砕してしまった。


 やっぱりこいつはただの冒険者じゃない。

 疑惑が確信に変わった。魔神を倒したのはきっと、ダルだ。


 薄々勘付いてはいた。ただの冒険者にしては、実力も知識も豊富過ぎる。


 モンスター・武術・魔術。

 ダルは多くの知識を持っている。『同調』も、普通の冒険者では知り得ないことだろう。上位精霊のトムでさえ、その事は教えてくれなかったし。

 経験だと言われればそれまでだけど、銀級程度の冒険者が知っている知識量じゃない。


 だからこそ解せない。何故本来の力を隠すような真似をするのだろうか。その力があればとっくに金級ゴールド……いや、世界に数人しかいない白金級プラチナランクにだってなれるかもしれないのに。


 誰もが羨む富と名誉を手に入れられるのに、どうして銀級シルバーなんかに甘んじているのだろか。

 まぁ……本人が言いたくないのなら詮索はしないけど。

 どうしても知りたいってほど興味がある訳でもないし。


 アテナには自分の鍛錬を任せ、アタシとダルはそこから移動する。

 結構歩いたところで、突然ダルの足が止まる。


「そんで、アタシには何があるの?」


「そりゃ決まってんだろ? 地獄の体力トレーニングだよ」


 厭らしい笑みを満面に浮かべるダル。

 嘘でしょ……また疲れることをしなくちゃならないの?


「やることは簡単だ、俺と鬼遊びをしてもらう」


「鬼遊び? なにそれ」


「えっ、お前鬼遊びも知らねーのか? 参ったな~最近のガキは鬼遊びも知らねぇのか。まぁエルフだからってのもあるだろーけどよ。いいか、鬼遊びってのはな――」


 ダルは鬼遊びの説明をしてくる。

 要約すると『鬼』と『逃げる側』がいて、鬼に捕まえられなかったら逃げる側の勝ち。逃げる側を捕まえたら鬼の勝ちという、至ってシンプルな遊びだった。


「そんな遊びが鍛錬になるの?」


「ああ、ミリアリアにとって必要なことだ。これは体力強化と状況判断能力を養う鍛錬になる」


 本当にそうなのだろうか?

 いまいちピンとこないけど。

 乗り気でないアタシの態度に、ダルはこんな提案を吹っ掛けてくる。


「俺が鬼で、ミリアリアが逃げる側な。俺が追いかけながら軽い魔術を放つから、お前はそれを撃ち落としながら制限時間まで逃げきってくれ。制限時間タイムリミットは五分にするか。

 そうだな、モチベーションを上げる為にも賞品を設けるか。もし俺から時間一杯逃げきる事ができたら、一つだけ何でもお願いを聞いてやるよ。勿論、俺ができる範囲内だけどな」


「へぇ……いいね。その話、乗った」


「おっ、やる気が出てきて何よりだ。攻撃魔術と空に飛ぶことは禁止な。それ以外は何をやってもいいぜ。さっ、よーいドンだ」


 ダルが鬼遊びの合図を出した刹那、アタシは山の中を駆け巡る。

 五分間逃げ切るだけでいいなんて他愛もない。自信があるようだけど、ダルはアタシを舐め過ぎている。最近威張られてたのもあるし、ここらでアタシの力を思い知らせてやろう。


(さて、あいつは今どこにいるかな)


 風魔術による索敵を行う。波紋のように飛ばすと、自分の位置からすぐ側で引っかかった。


(もうこんな近くに!?)


 意外とすぐ側にダルの反応を捉え驚いていると、何かが飛来してくる。咄嗟に風の障壁を展開し防いだ。


「砂……? いや、泥団子か」


「はいタッチ」


「――っ!?」


 泥団子に気を取られている内に、背後から接近してきたダルに頭を触られる。


 やられた……泥団子を風の障壁によって破壊したことで砂が散りばめられ、目隠しになったんだ。飛んできた方向に注意を向けていたけど、ダルは投げた時には既に動き出していたのか。


「おいおいミリアリアちゃん、まだ三十秒も経ってねぇぜ。お兄さん拍子抜けしちまったよ」


「……もう一回」


「おう、何度でも付き合うぜ」


 再戦を望む。今のは油断しただけ。次からは本気でやってやる。


 アタシはその場から逃げ、索敵を行う。最初から最後まで索敵をしておけば、ダルを見失うことはない。アタシなら並行して魔術を使うこともできる。


 すぐにダルが追いかけてくる。ちゃんと位置を把握してるし大丈夫だ、問題ない。


(おかしい……なんで近づいてこない)


 さっきとは打って変わって、ダルは一定の距離を保ったまま近づいてこない。一体何を考えているのだろうか。

 訝しんでいると、突然猛スピードで接近してくる。


「きた!」


 目視できる所にダルが来ていた。アタシは逃げながら、土魔術によって大きな壁を作る。障害物に加え、私の姿が見えなくなっただろう。今の内に距離を稼がせてもらおう。


 予想通り、ダルは大きく迂回して壁を避けながら追いかけてくる。


「これでどうだ」


 アタシは逃げながら幾つもの大壁を展開する。これならば容易に近づけないだろう。この手段をやり続ければ時間一杯まで逃げ切れる。

 ――そう思った瞬間だった。


「うわ!?」


 突然足を踏み外し、落下してしまう。崖かと思ったけど、すぐにお尻が地面に着く。

 これは……。


「落とし穴だよ。まんまと引っかかったな」


 頭上から声が降ってきて、見上げるとダルが手を差し出してくる。アタシは仏頂面になりながらその手を取り、引っ張り上げてもらった。


「いつの間にこんなトラップを仕組んでたの?」


「これだけじゃねぇぜ。実はこの辺一帯に今のような簡易トラップを仕掛けておいたんだ。

 俺は魔術はそれほど得意じゃないが、この程度の罠を作るのは朝飯前だからな。そんで、お前が罠がある所に逃げるよう誘導しながら追い込んでいたんだよ」


「ぐぬ……卑怯な」


「卑怯もクソもあるか。戦場には何があるか分からないんだぞ。それはダンジョンの中だって同じだ。さっ、どうする? ギブアップするか? それともまだ続けるか?」


「やるに決まってるじゃん」


 頭にきた。こうなったら絶対ぎゃふんと言わせてやる。

 間髪入れずにそう告げると、ダルは嬉しそうに微笑んで、


「そうこなくっちゃな」



 ◇◆◇



「はぁ……はぁ……」


「まっ、今日のところはこんなもんか」


 疲れ果てて大の字で寝転がってるアタシを見下ろしながら、ダルは満足そうに言う。

 結局、何度やっても最後まで逃げ切ることはできなかった。色々な方法を試したけど、ダルは余裕で突破してくる。


 ネックなのは頭を非常に使うことだった。

 常に索敵魔術を発動しながらダルから逃げつつ、時々飛んでくる攻撃にも対処しなければならない。それにダルは、意地の悪い追い詰め方を多く使ってくる。


 それにやればやるだけ体力が失われていき、後々になっていくにつれタッチされる時間が短くなってしまう。

 平坦な道でランニングするよりも、山の中を走るのはとても疲れるし。

 というか、なんでこいつはこの山の中であんなに速く動けるのか理解に苦しむ。


 今回で分かったのは、疲れると頭が回らなくなるということだ。


「どうだ、楽しかっただろ?」


「どこが……疲れたのと、ひたすらストレスが溜まっただけ」


「はっはっは、そりゃ良かった。でもいい鍛錬だと思わないか? 体力のトレーニングにもなるし、敵の思考を読む力と状況判断も養えるしな」


「まあ……色々な体験をできるのは勉強になる」


 今までは、こんなに頭を使いながら戦うなんてなかった。モンスターは知能が低いし、人間同士で争うことなんてこともない。知能戦っていう感じで新鮮ではあったよ。負ける度にむかついたけど。


「明日は必ず逃げきってやる」


「おう、楽しみしてるぜ」


 ふん、今にみてろ。すぐに終わらせて、アタシの言うことを聞かせてやるんだから。

 どんな願いを頼むか考えながら、一歩も動けないアタシはダルに背負われて山を下りるのだった。


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[一言] 『アタシとミリアリア』じゃなくて、アタシとアテナ、な
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