46 アテナ2(前編)
私はアテナ。スターダストのリーダーだ。
魔神出現の影響により拠点にしていた中級迷宮に入れなくなった私達は、王都バロンタークを目指して旅をする事になったんだ。
旅の途中、ダルは私達三人に色々な課題を与えてくる。
ミリアリアとフレイは料理のスキルを上げること。ダルが言うには、この先ずっとこのパーティーでいられるとは限らず、一人でもできるようになっておいた方がいいとのことらしい。
これに関しては私も考えていたことだ。
今のスターダストのご飯状況は、私とダルが交代で作るか外食にしている。けど、いつまでもそれでは駄目だと思うんだ。
例えば私とダルが病気か怪我をした場合、料理を作る者がいなくなってしまう。そういう時に、二人にも簡単な物でもいいから作ってくれると物凄く有り難い。
最初は二人とも苦戦していたようだが、一か月毎日やっていると多少は上達している。
お世辞にも美味しいとは言えないが、十分食べられるようにはなっていた。
ミリアリアは個人鍛錬で瞑想というものをやっている。
瞑想とは主に集中力を高める事なのだが、ミリアリアの場合その場で魔力を回復することができるらしい。これは世界中に溢れる魔力との干渉力が高いエルフだから成せるそうだ。
正直、魔力を回復させられるなんて羨ましい。
魔力を回復させるには、基本ご飯を食べて眠るか、値段が高い魔力回復薬を飲まないといけない。
しかし、瞑想さえできれば戦闘中でさえ魔力を回復できるんだ。これは凄いことだよ。
フレイは料理の他に、身体強化魔術を持続できるようにと言われている。
それを行うことで、身体に流れる魔力をより感じられるようになり、操作が上達するからだ。
私は普段強化はしていないが、ダンジョンの探索中は常に発動し続けている。
それも、移動時、モンスターとの戦闘時、強力なモンスターとの戦闘時と、三段階に分けていた。というのも、私は魔力量が二人に比べて少ないので、消費を抑えなければならないからだ。
ダルの身体強化の講義では、操作の技術を上げることで一か所を重点的に強化したり、視力や聴力、反射速度などの感覚系さえも強化できることを教えてもらった。
それを聞いて興味を抱いた私は、その日から時間を見つけて感覚強化の鍛錬を行っている。
さらに私とフレイは、ダルからもう一つ課題を与えられた。
それは“流し”という技術。
流しとは簡単に言うと、相手の攻撃の威力を殺すように受け、外側に流すことだ。攻撃を流すことで、次の動作への時間が短縮される。
それに加え、上手くやれば相手の体勢を崩すことができるんだ。私も一度ダルに実践して貰ったが、自分の身体が勝手に動き、気付いたら体勢を崩されていた。この技を習得できれば、私はまた一歩強くなれるだろう。
だが、膂力がない私は防御ではなく回避をしていた。避ける能力に関して、他の者よりも優れていると自負している。
しかし回避ばかりしていたことで防御――流しをすることが難しくなっている。
でも、時々ダルに教えて貰えるし、ずっとやっていると徐々にコツを掴めてきた。防御の選択肢が増えたことにより、私はまた強くなれただろう。
フレイはまだ苦戦しているようだがな……。
そんな調子で旅を続けていると、山の麓にある小さな町に辿り着いた。
山を越えると王都はすぐそこなので、この町には山越えのために一休みする冒険者が多くいる。それと冒険者以外でも、武術を極めんとする武芸者と呼ばれる者たちが沢山いた。
ダルが私達に紹介したい人も、武芸者らしい。
途中で立ち寄った茶屋でひと悶着あったが、私達は山を登って古風な道場に着く。
しかし中には誰も居らず不思議に思っていると、突然誰かにお尻を触られる。気配もなく急の事で驚いてしまったが、フレイが間髪入れずに不届き者に裏拳を放つ。だが裏拳は空を切り、不届き者は宙を舞って道場の中に入った。
その不届き者こそダルの知り合いで、パイという名の老父だった。パイさんは木影流の師範でもあるそうだ。
パイさんに土足を窘められたフレイが靴を脱ぎながら道場に上がり、攻撃を仕掛ける。だがパイさんは軽やかに攻撃を躱しつつ、フレイのお尻を触るという余裕を見せる。
この老人、変態だが只者ではない。相当なやり手だ。
結局フレイが投げ飛ばされてしまった。しかも、どうやって投げたのか皆目見当もつかない。
それから別室で話を聞いていると、突然獣人族の女の子が現れる。
女の子はメイメイといって、ダルと昔馴染みらしい。ダルにひっついて嬉しそうに昔話を聞いていると、なんだか胸がモヤモヤしてくる。
(ダルとは私の方が早く出会ってるのに……まぁ、本人に聞いてないから確かではないけど)
ダルが魔神と戦う姿を見た時、私は気付いたんだ。
私が子供の時、襲ってきたモンスターから村を……私を助けてくれたかっこ良い冒険者はダルなんだと。でも、その事についてはまだダルに聞いていない。
恐いんだ……ダルがそうであって欲しいと同時に、もしそうじゃなかったらと考えたら躊躇ってしまう。
いや、別にダルがあの時の冒険者でなくても別にいいんだ。ただ、まだこの幻想を壊したくない、真実を知りたくないと思っている。私自身もよくわかってないけどな。
話の流れでフレイとメイメイが勝負をすることになった。
メイメイは身体が小さく、フレイの重い打撃に耐えられるのかと心配していたが、いざ戦ってみるとフレイの攻撃を全て受け流していた。
凄い……ダルが教えてくれた受け流しを完璧に使い熟している。あれが受け流しの完成形なのだろうと瞬時に理解できた。フレイも成長していて、随所に使ってはいるがメイメイと比べて練度が低い。
結局、フレイが投げ飛ばされたことによってメイメイの勝利となった。
本当にフレイに勝ってしまうとは……世界はまだまだ広いことを改めて思い知らされるな。
その後、メイメイの口から木影流の弟子達がいなくなった理由を聞かされる。
どうやら道場から追放したリュウとやらが破天流に移籍し、木影流の弟子達を唆して全員破天流に鞍替えさせたらしい。
その話を聞いた時、怒りが沸いた。
技を教えて貰えないからといった理由で勝手に不貞腐れ、一般人に迷惑をかけるどころか殺人の罪まで犯し、今まで世話になった木影流を出て破天流に移籍し、あまつさえ木影流の弟子達まで巻き込むとは。
リュウにも腹が立つが、ちょっと言葉に乗せられたからって木影流から破天流に移籍した弟子達にも頭にくる。彼等にはパイさんに対して恩も何もないのか。
腸が煮えくり返っていると、突然ダルがフレイを木影流の弟子にさせて欲しいと言い出す。
驚いたが、ダルには何か考えがあるのだろう。彼がただの思いつきでさせる訳がないからな。
きっとフレイは、弟子になることで壁を超えるだろう。
私も負けていられないなと、気合を入れ直した。