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44 フレイ2(中編)

 


「起きてフレイ、起きるっす」


「んがぁ……うるせぇなぁ」


 ぐっすり眠っていたら、誰かに揺り起こされる。

 まだ眠いんだから起こすんじゃねぇと無視していたら、さらに強く身体を揺さぶられた。

 流石に鬱陶しくなり、目を開けるとメイメイがすぐ側にいる。


「ンだよ、テメエか。なんだってんだいったい」


「早く起きて一緒に朝の掃除に行くっすよ」


「掃除だぁ? 何でオレが掃除なんかしなきゃいけねーんだ」


「掃除やご飯の仕度など、道場に関する雑務は全て弟子がやってるんす。フレイはお師匠様の弟子になったんすから、掃除するのは当たり前っす」


 クソったれ……そういや昨日成り行きで弟子になることになっちまったんだ。


 ふぁと大きな欠伸を溢しながらゆっくりと起き上がる。外はまだ暗く、朝日も昇っていなかった。まだ全然暗ぇじゃねーか、何もこんな時間から掃除なんかしなくてもよくねーか?


「働かざる者食うべからずっす。ほら早く行くっすよ」


「それを言ったら何でオレだけなんだよ。だったらこいつらも起こせや」


 そう言って、すぐ側で布団で眠っているアテナとミリアリアを指す。

 働かざる者食うべからずってんなら、こいつらにもやらせるべきだろーが。

 そう言うと、メイメイは「いえ、フレイだけっすよ」とふざけた事をぬかしてきやがった。


「アニキ含め、アテナもミリアリアもお客様っす。お客様にそんな事させられないっす」


「だったらオレだって客だろーが!?」


「何言ってるっすか。フレイは弟子であってお客様ではないっす。ほら、ぐだぐだ言ってないで起きるっす」


 腕を引っ張られ、強引に起こされる。

 それからメイメイと同じ道着を着せられ、バケツと雑巾を持たされた。何でオレまでこんなダセー服を着なくちゃならねーんだよ。つーか、こんなもの持って何するってんだ?

 疑問を抱いていると、やる気に満ちた表情を浮かべながらメイメイが説明してくる。


「さっ今から道場を隅々まで磨くっすよ」


「ハァ!? 朝っぱらからそんな事しなきゃならねーのか!?」


「そうっすよ。日々使わせて貰ってることに感謝して磨くんす。道場を磨くことで、自分の心を磨くんすよ」


 そう言って、メイメイはバケツに溜まった水に雑巾を浸し、ぎゅっと締め上げる。


 おいマジかよ、隅々まで磨くって……この道場古びてるが結構広えんだぞ。それを朝の内にするってのか? そもそもこいつは、今まで一人でやってたってのかよ。


 唖然としていると、既に廊下を磨き始めているメイメイが遠くから催促してくる。


「なにしてるっすか~早く始めるっすよ~」


「チッ……わーったよ。やりぁいいんだろやればよ」


 文句を吐きながら、バケツの中に雑巾を放り込む。

 ったく、何でオレがこんな雑用やらなくちゃならねーんだよ。



 ◇◆◇



「おい、これでいいかよ」


「ちょっと雑っすけど、まぁ最初はこんなもんすね。それじゃあ次は周りの落ち葉を掃除するっすよ。はいこれ」


 雑巾掛けを終わらせると、今度は箒を持たされる。

 つい受け取っちまったが、ハッとしたオレは箒を地面に叩きつける。


「ざけんじゃねー! まだやらせる気かよ!?」


「当たり前っす、やる事はまだまだあるっすよ。これが終わったら朝ごはんの仕度っす」


「ハアアアア!?」


 どこまで雑用をやらせる気だ。ふざけやがって……やってられっかよ。

 ムカついたオレは、踵を返してそのまま中に入ろうとする。するとメイメイが挑発交じりの声音でこう言ってきた。


「フレイって案外根性無いんすね」


「……ああ?」


「今は居ないっすけど、小さな子供でもずっとやっていた事っすよ。それを面倒だからと簡単に投げ出せるんすね。勝負した時は骨のある人だと思ってたのに、正直ガッカリっす」


「クソったれ……やればいいんだろやればよ!!」


 声を荒げながら、投げ捨てた箒を拾う。

 雑用なんかやってらんねーけど、こいつに舐められるのはなんだかムカつくぜ。

 自分でもよく分からない怒りを抱きつつ乱暴に落ち葉を掃いていると、メイメイはこっちを見ながらニコニコしてやがる。


「おい、何笑ってんだよ気色悪いな」


「いえ、何でもないっす。そういえばフレイ、さっきからずっと身体強化の魔術をし続けてるっすね」


「まあな、ダルの野郎に魔術操作の技量を上げられるからって言われてやってんだよ」


 今じゃもう癖になってるっていうか、習慣になっちまってんだよな。

 朝起きてからはすぐに強化を発動してる。それも、もう無意識の内にやっていた。そのお蔭で身体に流れる魔力の流れがなんとなく理解わかってきたし、一日中強化をやり続けられるようにもなった。


「流石アニキっすね。身体強化を常に発動し続けるのは大事なことっす。アチキは見ての通り身体も小さくて腕力も無いっすから、強化をしていると色々便利なんすよ。それに突然何かに襲われたりしても、怪我もしないっす」


「何かに襲われるって……どうしたらそんな事起きるんだよ」


「山の中には凶暴な動物もいるし、たまに魔物もいたりするんすよ。修行してる最中に不意に襲われたりするっす。それに町中でも、アチキを見た目で判断して絡んでくる冒険者もたまにいたりするっすね」


 なるほどな。確かにオレも、山ん中にいる動物に奇襲をかけられる時があった。


 あいつら、巧妙に気配を消しやがるから警戒してないと中々気付けねーんだよな。オレの場合は素の状態でも防御力はそれなりに高いから初撃を貰ったとしても痛くも痒くもねーが、メイメイみたいな細っこい身体じゃ致命傷になっちまうかもしれねぇ。


「身体強化を常に発動していることを『常鋼ハガネ』と言うんすけど、武芸者にとっては基礎中の基礎なので、できるようになって損はないっすよ」


 それを聞いて驚いちまう。

 メイメイだけじゃなくて、武芸者ならできて当然の事だったのかよ。まぁアテナも探索する時は常にやってるって言ったし、できる奴はできるのか。


 ん、待てよ? じゃあやっぱり破天流のチンピラ共は武芸者じゃねーじゃねえか。常鋼をしている様子もなかったしな。


「いけない、ついお喋りに夢中になってしまったっす。フレイ、早く終わらせて朝ごはんの仕度をするっすよ」


「あいよ」


 それからオレたちはささっと落ち葉の掃除を終わらせ、調理場で朝飯の仕度に取り掛かる。

 包丁で野菜の皮を剥いていると、鍋を煮込んでるメイメイに驚かれた。


「ビックリしたっす。フレイって見た目や性格からして料理とかは苦手だと思ってたんすけど、案外こなれてるんすね」


「あ~、ぶっちゃけ最近まではそうだったぜ。料理これもダルにできるようになれって言われたんだ。別にやりたかねーけどな」


「へぇ~、フレイはアニキに気に入られてるんすね。羨ましいっす……」


 羨ましいだぁ? 単にあいつが自分でやりたくないからオレに教えてるだけだろ。鍛錬についても、オレたちが強くなればその分自分がサボれるからって魂胆じゃねーのか。


 それに気に入られてるっていうのは逆だろ。どっちかっていうとあいつはオレの事をウザがってると思うぜ。

 まぁ……それは初対面から勝負するまでの間に、オレがガキのような態度で接してたからなんだろーけどな。


「そういやお前、昔あいつと会ってたんだよな。どんな奴だったんだ?」


 ちょっと気になって聞いてみると、メイメイは顔を輝かせて食い気味に伝えてくる。


「めちゃくちゃかっこ良かったっすよ! 今も渋い大人な感じがしてかっこ良いっすけど、アチキは昔のアニキの方が好きっす。明るくて気さくで優しくて、凄く頼れるお兄さんって感じなんす。冒険の話をしてくれたり、一緒に遊んでくれたりしたんすよ。アチキもそうっすけど、他の皆もアニキに懐いてたっす。

 それにお師匠様もアニキを気に入って、無理矢理鍛錬に誘ってたっす」


「ダルが明るくて気さくで優しくて凄く頼れるお兄さん……だぁ?? 冗談言うんじゃねーよ」


 完全に別人じゃねーか。今のあいつを見て誰がそんな想像できるってんだ?


 オレの知ってるダルは、不格好で「かったりぃ」が口癖なやる気の無い怠け者で、毎日昼間っから酒を飲んでいる“終わってる奴”だ。

 メイメイが言うダルのイメージとは何一つ当てはまらねーぞ。


「冗談じゃないっすよ、アニキはかっこ良くて尊敬できるお人っす。なんていうんすかね、オーラがあるというか、人を惹きつける魅力があるんすよ。アイシア姉さん達も好きだったすけど、やっぱりアニキが一番っす。

 アチキもアニキに憧れて、日々強くなろうと精進してるんす」


「おいおい……マジなのかよ」


 昔を懐かしみながら喋るメイメイ。その表情からはとても冗談を言っているようには思えなかった。


 だとしたら解せねぇ……どうやったらこいつが言うようなかっこ良いダルが、あんな駄目人間に変わっちまったんだ? その間に何があったってんだよ。


「フレイ、手が止まってるっすよ」


「お、おう」


 考えていると、メイメイに叱られちまった。

 まぁいいか、昔のあいつがどうだろーがオレには関係ねーことだしな。



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