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43 フレイ2(前編)

 


 オレはフレイ。竜人族だ。

 今はスターダストっつうシルバーランクのパーティーに所属していて、リーダーのアテナ、エルフのミリアリア、ダルのおっさ……お兄さんと一緒に冒険の旅に出ている。


 というのも、魔神が出ちまったせいで当分の間、中級の迷宮に入れなくなっちまったからだ。

 これからって時にマジでつまんねー事をしやがったぜ、あのクソ魔神の野郎はよ。


 迷宮に入れなくてどうするかって悩んでいる時に、ダルが冒険者なら冒険の旅に出ればいいじゃねーかと提案してきた。


 冒険か……冒険者になってからモンスターを倒して強くなり、金級ゴールドランクになることばかり考えていたが、それも悪くはねぇな。

 つーことで、オレ達スターダストは王都バロンタークを目指して旅に出たんだ。


 旅の道中、ダルはオレに色々な課題を与えてくる。


 まずは料理を作れるようになれってやつだ。

 そんなもんオレには必要ねぇよと言ったんだが、この先ずっとスターダストでいる保証はない。一人になるかもしれねぇし、他のパーティーに入ることだってあるかもしれない。そういった時に最低限のことはできるようにしておけってのが理由だ。

 超面倒だしこれっぽっちもやりたくもなかったが、仕方なく料理に挑戦する。


 ただ、実際に自分で飯を作るのは初めてで、どうにも上手くいかねぇ。

 オレは今まで、腹が空いたら野生の獣を狩って丸焼きにして食ってたし、美味いもんを食いたきゃ店に行けばいいだけの話だった。


 食材を切って加工したり、調味料を使ってまともな料理なんかしたことは一度もない。だから初めて作った料理はデキがヒデーもんだったぜ。美味くなるどころか不味くなってたしな。


 日を追うごとに多少はマシになってきたが、やっぱり作るのは面倒だし、オレには向いてねーって気付いたぜ。


 その次は、身体強化の鍛錬だった。

 ダルが言うには、オレは魔術の制御が下手で常に百しか出せないらしい。それじゃ燃費が悪いんだとか。なんとなく出来ていたからやってたけどよ、魔術ってのはそういうもんじゃねーのか?


 そう思っていたが、どうやら違うそうだ。

 ダルの魔術講義を聞いている内に、身体強化の可能性に気付く。


 ただ漠然と肉体を強化するだけじゃない。拳や足といった部分的な強化もできるし、視覚や聴覚、反応速度みたいな感覚すら強化できる。

 それを聞いてワクワクしたぜ。本当にそんな事ができるなら、戦いの幅がもっと広がるんだからな。


 だけど、ダルが言うにはそこまで出来る奴は中々いない。今のオレじゃ無理って言ってきやがった。すげームカついたが、オレ自身もなんとなく分かる。


 既にアテナは身体強化の微調整が出来てるっていうのに、オレは常時百パーセントしかできないんだからな。


 だからまず最初にやるのは、身体強化の操作に慣れること。その第一段階として、四六時中身体強化を発動していろって言ってきやがったんだ。料理を作ってる時でも解いてはいけない。


 これには体力に自信があるオレでさえキツイもんだった。昼を越えたあたりにガス欠しちまう。

 それに身体強化をしてる所為で力加減が上手くいかず、道具をぶっ壊しそうになっちまう。料理すらできねーのに、道具すらまともに扱えないってどうしようもねえだろーが。

 クソ……ダルの野郎はマジで性格がひん曲がってやがるぜ。


 最後の課題は、“受け流す”っていう防御方法だ。

 これは相手の攻撃を真正面から防御するんじゃなくて、威力を殺して極力ダメージを負わないやり方。かつ、相手の体勢をも崩すことができる。


 ダルにも実演してもらったし、なんとなくイメージはできんだけど、実際にやってみるとマジで難しい。下手したら普通に防御するよりもクリーンヒットを貰っちまう。

 やっている内に力の流れってもんが分かってくると言っていたが、全然ピンとこねーんだよな。


 受け流しについては、アテナも一緒に鍛錬をすることになった。

 お互いに相手に攻撃してもらい、ひたすら受け流す鍛錬を続ける。オレが受ける時はアテナは格闘で、アテナが受ける時はオレが木刀を振ってアテナに攻撃する。それを交代でやるんだ。


 アテナはオレと違い、やっていく内に徐々にモノになっていった。

 オレは全然できねぇのにズルいぜ。やり方を教えろって言っても、感覚の問題だから上手く伝えられない。クソ……分かっちゃいたが、やっぱりアテナは天才だぜ。


 身体のスペックだけは勝ってるが、戦闘能力は断然こいつの方が上だ。

 負けらんねぇ、アテナにだけは負けらんねぇよ。

 オレは闘志を燃やして、より一層鍛錬に励んだ。


 そんな調子で鍛錬をしていると、旅に出てからあっという間に一か月ぐらいが経った。

 時の流れがいつもより早く感じられた。それは恐らく、鍛錬をすることに無我夢中になってたからだろうな。


 お蔭さんで料理も多少はマシになったぜ。

 つっても、凝ったものではなく焼いたり煮込んだりと簡単なもんしか作れねーからな。ミリアリアもオレと同じくらいで、アテナに関してはドンドン上手くなってたな。


 意外なのはダルだ。あんな面をしてる癖に料理が上手い。まぁ料理に関しちゃ、パーティーハウスに居る時からほとんどダルが作ってたからな。できる事は知ってたが、一緒にやってみると手際の良さが目に留まる。それがムカつくっていうか、なんか釈然としねーんだよな。


 身体強化の操作についてはかなりデキるようになった。

 まだ全力と、省エネの二つまでだが、一日中身体強化を続けられるようになったぜ。


 これに関しては慣れだな。ずっとやり続けていたら、コツというか身体が覚えてくるんだ。要は感覚だな。頭でやってる訳じゃねぇから、オレには合ってたみたいだ。


 最後に“流し”の防御だが、これについては全然上手くならねぇ。

 力を流すって感覚がいまいち掴めないんだよな。やろうとしても、癖で普通の防御をしちまうし。


 そんなオレと違って、アテナは流しをモノにしつつある。こいつに出来てオレに出来ないのが悔しくてたまらなかった。だから余計に焦っちまって、前よりもおかしくなっちまう。ドツボにハマっちまってる事が自分でもよく分かった。


 アテナと鍛錬していると嫌でも気付かされる。

 こいつは天才で、オレは凡人だってことがな。でも、だからといって投げ出す訳にはいかねぇ。


 ダルはオレが強くなるのに必要な技術だと言ってるし、オレ自身も流しを習得できれば一段階上の強さを手に入れられることが本能で分かっていた。

 だから、できるようになるまで何がなんでも喰らいついてやる。


 そんな風にガムシャラに鍛錬をしながら旅をしていると、山の麓にある町についた。どうやらここの山を越えると、バロンタークはすぐ目の前らしい。ダルが言うには山を越える前にここで一休みし、物資を調達するそうだ。


 小さな町の割りには人が多いし、栄えて賑わっているように見える。それと、同じような格好をしている奴等ばかりだった。


 ダル曰く、そいつらは武芸者というらしい。そんで武芸者ってのは武術を極めるために道場という鍛錬場所に集まって、同じ戦い方の者同士で鍛錬する奴等なんだとか。


 それを聞いて、オレは久しぶりに勝負をしたい気持ちに駆られたが、今は自分の鍛錬に集中しなきゃなんねーから我慢することにした。

 チッ、折角腕試しできそうな奴等がいるってのによ。前のオレだったらきっと我慢できずに誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けていただろうな。

 ちったぁ大人になったってことなのか? わかんねーや。


 茶屋で飯を食ってると、破天流とかいうチンピラみたいな客に店員が絡まれちまう。見るからに口だけ威張ってる奴等だったぜ。


 気に入らねぇ……折角美味い飯と団子を食って機嫌が良いってのに、ムカつく野郎共だ。どれ、一丁鍛錬の成果を噂の破天流とやらで試させてもらうとしますか。

 一応アテナ達に“やっていいか”尋ねたら、全員から許しを得られた。


 へっ、久々に暴れてやるか。

 と息巻いたんだけどよ、こいつら弱すぎて話になんなかったぜ。マジで腹ごなしにもなんなかったわ。本当に武芸者なのか?

 チンピラ共を追っ払ったお礼に、飯代をタダにして貰った。ラッキーだったぜ。


 その後は、ダルが知り合いを紹介したいっつうからついて行き、山の中に入って長い階段をひたすら登る。

 結構距離があって、途中でダウンしたミリアリアをおぶる事になった。

 本当にこんな山ん中に人が住んでんのか? と半信半疑でいたら、小さな道場に辿り着いた。


 だけど中には人が誰もいなくて、どうなってんだと思っていたら、突然誰かに尻を揉まれる。全く気配を感じられなかったが、いい度胸だ。誰の尻を無断で揉んでるのか分からしてやると裏拳を放つが、躱されちまった。

 嘘だろ……オレの拳を避けやがった。


 俄かに信じられず驚いていると、そいつは道場の中に居た。

 どうやらこの爺さんがダルの知り合いらしい。見た目はただのヨボヨボのジジイだが、オレの本能が警戒している。このジジイは只者じゃねぇってな。


 へっ、面白ぇじゃねぇか。さっきのチンピラ共じゃ物足りなかったんだ。


 悪いが相手になってもらうぜジジイ。

 とモチベーションが上がっていたら、土足で中に入るなって怒られちまった。んだよ、一々靴を脱がなきゃなんねーのかよ面倒臭ぇな。

 ぶつぶつと文句を垂らしながら今度こそ上がり、ジジイに攻撃を仕掛ける。

 だが――、


(クソったれ、全然当たらねぇぞ!?)


 オレの放った攻撃は全て躱されちまった。宙を舞う葉っぱのようにひらひらと避けられ、一向に攻撃が当たらない。それどころかこのジジイ、避けながらオレやアテナの尻を揉んでやがる。なんてエロジジイだ。


 終いには訳も分からず投げ飛ばされちまった。どう投げ飛ばされたのかも全然わかんねぇ。ダルと勝負をした時の感覚を思い出した。

 確かあん時も、何をされたか分かんなかったんだよな。


 オレはまだやりたかったが、ジジイが腰が痛いとか抜かすからこれ以上できなかった。


 それからダルが爺さんと話をしていると、突然獣人族のガキが現れてダルに飛びついてきた。

 ガキの名前はメイメイ。ミリアリアと同じくらいのチビでめっちゃガキに見えるが、これでもオレたちと歳が同じらしい。全然そうには見えねぇぞ。


 メイメイもダルとは旧知の仲だそうだ。昔を懐かしみながら楽しそうに話している。

 そういえばオレ、ダルの事はよく知らねーんだな。まぁ、別に興味もねーからいいんだけどよ。


 話の流れでメイメイと勝負する事になった。

 こんなチビに負ける訳ねーと思っていたが、いざ戦ってみると強ぇ。


 オレの打撃をいとも容易く受け流してやがる。こいつはオレが覚えようとしている技を、完璧に使い熟してやがったんだ。

 だけどオレだって今まで呑気に遊んでた訳じゃねぇ。頭だって使うようになったんだぜ。


 オレの攻撃が決まり、メイメイが吹っ飛ぶ。だけどクリーンヒットせず、威力を殺されちまった。よくあんな空中でできるな。マジでデキるぜこいつ。

 はは、楽しくなってきやがった。


 今度はメイメイから攻めてくる。オレは鍛錬の成果を試す為に、不格好ながらも受け流しをやろうとした。へへっ意外とできるもんだな、やっぱオレって実践向きだわ。


 内心で喜んでいると、突然メイメイの姿が目の前から消えた。と同時に訪れる浮遊感。気付けばオレは投げられ床に叩きつけられていた。

 クッソ……またかよ!!


 乗っかってきたメイメイに拳を突き付けられ、勝負は終わりオレの敗北となる。

 まさか負けるとは思ってもみなかった。余裕で勝てると思ってたからな。


 それは見た目だけで強さを判断したオレの愚かさが招いた結果だ。悔しいっちゃ悔しいが、不思議と苛つくことはなく、素直に敗北を認められた。


「オレの負けだ」


「ありがとうございますっす」


「お前……強えんだな」


「はいっす! フレイさんも強かったっすよ! 拳打が重くて手がヒリヒリしてるっす!」


「チッ、お前と話してるとなんか調子狂うぜ……」


 勝った筈なのに、オレに敬意を払ってくる。

 こんな清々しい奴は今まで会ったことがなく、変な気持ちだった。


 それから客室で話しながら、ダルが弟子が居ないことを追及する。

 ジジイは話したくなさそうだったが、メイメイが説明した。


 どうやらリュウっていうろくでもねー奴が他流派の技で人を殺しちまったらしい。ジジイが追放すると、リュウは他の弟子を唆してメイメイ以外の奴を全員破天流に引き抜いたそうだ。


 それに関してはオレはどうも思わなかった。強くなるためにどうするかは自分次第だしな。

 オレだって強くなれるなら破天流に鞍替えしたかもしれねぇ。まぁ、リュウがクソったれなのは変わらねぇがな。


 するとダルの野郎が、突然こんな事を言いやがった。


「なぁ爺さん、少しの間でいいからフレイを弟子にしてやってくれねぇか」


「ハァ?! テメエいきなり何ホザいてんだ!! 何でオレがそんな事しなくちゃならねぇんだよ!!」


 冗談だろ? オレがこの道場の弟子になるってか?

 ていうーか、オレは今お前が課した鍛錬をしている最中じゃねーかよ。そっちはどうんすんだ。

 そう問い詰めると、ダルは真剣な表情でこう告げてくる。


「まぁまぁ、俺も適当に言ってる訳じゃねえぞ。今のお前に必要だと思うから言ってんだ」


 オレに必要だと? 本当か? 単にオレの鍛錬に付き合うのが怠くなったとかじゃねえのか?

 でも、こいつは意外と適当な事は言わねーからな。何か考えがあるんだろ。


 クソったれ、やってやるよ。

 見てやがれ、絶対強くなって今度こそテメエにリベンジマッチしてやるからな。


誤字脱字報告ありがとうございます!!

本当に助かってます!!

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[気になる点] 〉 オレの放った攻撃は全て躱されちまった。宙を舞う葉っぱのようにひらひらと避けられ、一向に攻撃が当たらない。それどころかこのジジイ、避けながらオレやアテナの尻を揉んでやがる。なんてエロ…
[一言] せっかくいい感じに読んでたのに、同じ内容の話を何度も繰り返されて読む気が失せてきた。正直視点変えただけの話は全く要らない。邪魔。
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