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04 エスト(後編)

 


 スターダストを結成した僕らは、中級の迷宮にチャレンジしていた。


 中級の迷宮でも快進撃は止まらず、僅か三か月間で踏破してしまう。

 その頃にはスターダストの名は冒険者の間に知れ渡り、期待の新星パーティーといった良い噂が流れる。


 特にリーダーのアテナは、実力もさることながら見た目も麗しく、金色の髪を靡かせ華麗にモンスターを蹴散らすことから【金華】という二つ名をつけられた。


 そしてさらに、中級の迷宮を踏破した功績でスターダストはブロンズからシルバーランクに昇格した。

 今やスターダストは飛ぶ鳥を落とす勢いで迷宮を攻略している。


 しかし。


 そんな名声とは裏腹に、僕はパーティー内でお荷物となっていた。


 中級迷宮でも、上層あたりのモンスターは力のない僕でもなんとか戦えていた。

 だけど中層、下層と進むにつれモンスターの強さは上がっていき、もう僕の力では通用しなくなってしまう。

 必然的に、僕は仲間に付与魔術をかけて戦いを眺めるだけの木偶の坊となってしまった。


 自分が惨めで、哀れで、悔しかった。

 幼馴染のアテナが階段を二段飛ばしで駆け上がる勢いで強くなっていく一方で、僕は冒険者になったその日から成長していないのだ。


 焦っていた。

 パーティーの中で、僕は完璧にお荷物だ。それは他の冒険者から眺めてもそうで、「なんであんな役立たずがスターダストのメンバーなんだよ」とか「俺とあの腰巾着を入れ替えてくれねーかな」という陰口が増えていく。


 彼らの言っていることは間違っていない。

 正直言って僕はスターダストに見合っていなかった。

 だけど自分からパーティーを抜けるつもりはないし、なによりアテナと離れたくなかった。


 だから僕は自分ができることを必死にやった。

 荷物持ちを志願し、物資集めや料理などの雑用、迷宮でも傷ついた仲間をすぐに回復できるようポーションを備える。

 それは冒険者ではなく雑用を行う下働きのようだけど、とにかく皆の役に立ちたかったのだ。


 それでもなんとか上手くいっていた。

 スターダストが上級の迷宮に挑戦するまでは。


 上級の迷宮は上層のモンスターでも強く、アテナたちでも苦戦していた。

 そんな時、アテナとダルをすり抜け、一体のモンスターが僕に襲い掛かってくる。僕は逃げることすらままならず、モンスターの攻撃を受け重傷を負ってしまった。


 意識を取り戻した時はギルドの病室にいて、側にアテナがいてくれていた。

 僕が目を覚ました時にアテナが涙を流してくれて、不謹慎だけど凄く嬉しかった。


 僕がモンスターにやられてピンチになった後は、ダルがモンスターを倒して窮地を脱したらしい。


 アテナ曰く「ダルがあれほどやれると知らなかった。あいつめ、力を隠していたな」と、不満気な表情だけどどこか嬉しそうにダルを褒める。

 そんな彼女に、僕は嫉妬してしまっていた。


 僕はもっと強くなろうと思った。

 強くなれる方法がないか、戦える術がないか、パーティーに役立てるなにかを改めて探そうと決心する。


 そんな風に前向きにいこうとしていた時、アテナの口から信じられない言葉が放たれる。


「エスト、お前にはスターダストを抜けてもらう」


 アテナが僕に、パーティーの追放を宣告したのだ。


「え……スターダストを抜けろって……僕が? そんな、ははは、なにかの冗談だよね……アテナ?」


「残念だが冗談ではない、これはパーティー全員で決めた決定事項だ」


 パーティー全員で決めた?

 それじゃあミリアリアもダルもパーティーから僕を追い出すのは賛成なのか?

 なにかの冗談だと言ってほしくて二人に聞いてみたら、普段しない真面目な顔で賛成の意を唱えた。


 なんで……なんでなんだよ。

 なんで僕が追放されなくちゃならないんだ!?


「嘘だ!! そんなはずないよ! これまで上手くいっていたじゃないか! スターダストもシルバークラスに上がってこれからもっと頑張ろうって時に、なんで僕がパーティーを追放されなくちゃならないんだ!?」


 納得がいかず絶叫を上げて問いただすと、アテナは淡々と理由を説明する。

 要約すると、上級迷宮の戦闘についていけない僕は役立たずだという話だった。


 は、ははは……そうだよね。


 分かってた、分かってたよ。

 いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていたよ。

 パーティーからいらないと、いつ言われるか怖くて脅えていたよ。

 でも、本当に言われるとは思ってなかったんだ。

 幼馴染のアテナが、僕を見捨てるはずがないと高を括っていたんだ。


「僕はお払い箱ってことかよ」


「ああ」


「そっか……分かったよ! こんなパーティー、こっちから出て行ってやる!!」


 怒りに身を任せた僕は、アテナに向かって怒声を放つ。

 大量にお金が入った小袋を渡してきたが、恵んでもらうようなお金なんかいるかと叩き落とした。


「いるかよそんなお金! 僕を追放したこと、あとで後悔しても知らないからな!!」


 そんな捨て台詞を吐いて、僕はパーティーハウスから逃げるように飛び出したのだ。



 ◇◆◇




 パーティーハウスを飛び出した僕は、その足で中級の迷宮に訪れていた。


「僕は強くなる。絶対に強くなってやるからな!」


 一人だって戦える。一人だって強くなる。

 そして僕を追放したあいつらに見返してやるんだ。


 怒りのままモンスターと戦った僕だったが、あっけなくボロボロにされてしまう。

 だが死にそうになったその瞬間、僕は“目覚めた”。


「あれ、なんだこれ……力が沸いてくる。全身に力が漲ってくる! もしかしてこれって……付与魔術か?」


 僕の付与魔術は他人にしかかけられず、自分にかけることはできなかった。

 だけど今、僕は自分に付与魔術をかけることができていた。

 しかも付与魔術は、何故か分からないけどこれまでのよりも上位の魔術だ。


【筋力強化】も【防護強化】も【命中強化】も【加速強化】や、新しく覚えた【自動回復】や他の付与魔術も全て自分にかけることができた。


「ははは、なんだよ。僕って……こんなに強かったんだ!! みんなズルいじゃないか、こんなに強い付与魔術をかけてもらってたなんて! そりゃ強くなるってもんだよね!」


 付与魔術で強化した僕は、中級のモンスターなんて相手ではなかった。

 あれだけ影で脅えていたモンスターを、今では思う存分殴り殺せる。


「ははは! はははははは!」


 笑いが止まらないとはこのことだろう。

 僕は強くなった。今ならアテナと肩を並べるだろう。いや、もしかしたらアテナよりも強いかもしれない。


「そうだよ……今の僕ならスターダストにいてもおかしくない。アテナもきっと僕を認めてくれる!!」


 スターダストに……いやアテナに未練があった僕は、迷宮から出てパーティーハウスに急いで戻る。


 早く僕が強くなったことをアテナに伝えたい!

 君と一緒にまた世界一の冒険者を目指すんだ!


 そんな幻想を抱いてパーティーハウスに戻った僕の目には、信じがたい光景が映っていた。


「そ……んな……」


 信じられないことに、ダルがアテナのことを押し倒していたのだ。


 しかもアテナは全く抵抗する様子を見せない。

 それどころか顔は紅潮していて、潤んだ瞳でダルを見つめていた。


(なんだよこれ……なんだよこれ!?)


 あんな“女”のような表情、今まで見たことなかった。

 アテナはあんな顔、僕に一度も見せたことなんてなかった。


 いつ? いつだ?

 いつから二人はあんな関係になっていたんだ?

 最近か? それともずっと前からか?


(ダル……僕を裏切ったのか!!)


 僕はアテナのことが好きなことをダルに相談していた。

 そしてダルも応援してくれていたんだ。

 なのになんだよこれは、なんでダルがアテナを寝取っているんだよ。


 アテナもアテナだよ!

 世界一になるまでは恋愛とか興味が無いと言ってた癖に、ちゃっかり恋愛してるじゃないか!

 アテナも僕のことを好きでいてくれていると思ったのに!!


(嘲笑ってたのかっ! 本当はアテナと関係を持っていたのに、僕を嘲笑っていたのか!?)


 頼れる兄貴だと思っていたのに。

 まさかお前にアテナを寝取られるとは思わなかった!!


 この後の情事を目にしたくなくて、僕はその場から逃げ出した。

 夜の街を泣きながら全力疾走した。


「許さない! 許さないぞ! 絶対にあいつらより上に行って、僕を追放したことを後悔させてやる!!」


 夜空に光る星屑を睥睨しながら、僕は復讐を誓ったのだった。


お読みいただきありがとうございます!!

明日も連続投稿致しますので、お楽しみして頂けると嬉しいです!


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[一言] 寝取りってかBSSだよねこれ
[良い点] 幼馴染2人組どっちも若かったからだろうね。 どっちも独りよがりで、相手の気持ちをわかったつもりになって、相手に気持ちをわかってもらったつもりになってる。
[気になる点] 付与術士が戦闘出来ないって別に当然だと思うのだけれど・・・
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