37 エスト2(後編)
上級の迷宮主を倒した僕等は、報告とアイテム換金のためにギルドに訪れていた。
古びたドアを開いて中に入ると、冒険者たちの視線が僕等に注がれる。その視線は数か月前のような侮蔑と嘲笑ではなく、畏怖と尊敬が入り混じったものだった。
「おい、エストだぜ」
「【手品師】のお出ましか。今度はどこまで攻略したんだ?」
「ソラとフウもここに来たばかりは芋っぽかったのによ、もう垢抜けちまったよな」
「そうだな、どっちも別嬪だぜ」
「どっかの馬鹿が酔った勢いであの二人に言い寄ったらしいけどよ、タコ殴りにされたらしいぜ」
「それってお前のことだろ」
「あれ? そうだったっけ?」
冒険者たちの会話が嫌でも聞こえてくる。
あいつらの声は普段から大きいから、気にしなくても聞こえてしまうんだよね。スターダストにいる時はその声が煩わしくて仕方なかったが、今となっては称賛が多くなり気分が良くなる。
たまにやっかみもあるけどね、美少女であるソラとフウを両手に花で生意気だ、とかさ。
因みに、僕は冒険者たちから【手品師】という二つ名で呼ばれるようになっていた。
二つ名は実力が秀でた一流冒険者に付けられる称号みたいなもので、それを付けられた時は冒険者たちから認められたんだと、心の底から喜んだものだ。因みに何故【手品師】なのかというと、僕の付与魔術が多彩な効果を与えるからという意味だった
冒険者たちの会話を耳にしながら受付に向かい、受付嬢に報告する。
「さっき上級の迷宮を踏破しました。これが証拠アイテムです」
そう言って、ジャイアントゴーレムからドロップしたアイテムを渡す。アイテムを目にした受付嬢は、飛び跳ねるように驚愕した。
「こ、これは!? ジャイアントゴーレムの輝石!? この輝き……間違いなく本物です。やりましたねエストさん、おめでとうございます!!」
「ありがとうございます」
「おい聞いたか!? とうとうトリックスターがやっちまったぞ!!」
「すげーな!? 新しくパーティーを作ってからまだ三か月も経ってねぇぞ!!」
「スターライト、マジで快進撃じゃねーか。クソ、羨ましいぜ!!」
上級の迷宮踏破の話が漏れると、それを聞いた冒険者たちがざわつき出す。
ここ数年、上級の迷宮を踏破したパーティーは現れなかったから、その分の盛り上がりは凄まじいものだった。誰もが興奮し、賞賛の言葉を送ってくる。
ギルドマスターに報告しに行っていた受付嬢が戻ってくると、僕たちにこう告げてきた。
「改めて、上級の迷宮踏破、おめでとうございます。この功績を称え、スターライトのパーティーランクを金色に昇格させていただきます。
並びに、エスト様の個人ランクを銀色から金色に、ソラ様とフウ様を銅色から銀色に昇格させていただきます」
「凄いですエストさん! ついにゴールドですよ!!」
「うん、ソラとフウもシルバーランク昇格おめでとう」
「そんな……私たちはエストがいたからですよ」
ソラとフウと共に喜びを分かち合う。
彼女たちには悪いけど、僕の頭は自分のことでいっぱいだった。二人にはかっこつけてクールぶってるけど、心の底では躍り狂っていた。
とうとうやったぞ! 僕はついにゴールドランクの冒険者になったんだ!!
ついこの前まで冴えないシルバーだった僕が、誰もが憧れるゴールドになれたんだ!!
嬉しい、心の底から嬉しい。
個人ランクがゴールドになったのもそうだけど、もっと嬉しいのはパーティーランクもゴールドになったことだ。それも、僕が作ったスターライトで。
夢じゃないんだ、これは夢なんかじゃないんだ。
僕は自分の手で、ゴールドランクを手にしたんだ!!
「ついにスターライトもゴールドランクかぁ……アテナの後ろに引っ付いていた腰巾着が成り上がったもんだわ」
「確かになぁ……そういや最近アテナを見てねぇな」
「アテナっていうかスターダストの連中すら見ねぇぞ。ミリアリアとかフレイとかよ」
「飲み仲間のダルが居なくてちょっと寂しいんだよなぁ」
「そういやあいつら何してんだ? まだ魔神にやられた傷を療養してんのか?」
「流石に治ってんだろ。最近まで中級の迷宮が封鎖されてたから、どっかの都市に移ったんじゃねのか」
冒険者たちからスターダストの話が零れてくる。
奴等のことは僕も少しだけ気になっていたことだ。魔神の件から、スターダストはすっかり姿を見せなくなった。
冒険者たちが言うように中級の迷宮は封鎖されていたから、ダンジョンの探索はできなかったんだろう。かと言って上級の迷宮を挑戦するにはまだ早いだろうし、初級の迷宮を探索するのは利的にもする意味がないからね。
何をしているのかは知らないけど、違うダンジョンがある都市に移ったのかもしれない。
ちょっとだけ残念だ。僕が上級の迷宮を踏破し、ゴールドランクに昇格したことを知った時のアテナの顔を拝めなかったからね。
「エストさん、これからどうしますか?」
「上級の迷宮も踏破したし、違う都市に行きますか?」
「そうだねぇ……」
二人から質問され、う~んと悩む。
普通の冒険者ならずっとその場に留まっているだろう。上級の迷宮を探索しているだけで稼ぎは十分だからだ。それにゴールドランクになったから、待遇もそれなりに良いはずだし。
わざわざホームを離れる必要性は感じられない。
だけど僕の目標は、世界一の冒険者になることだ。
こんなちんけな都市でお山の大将をし続けるつもりはない。ならば話は簡単だ。もっと上に行くために、もっと強くために、もっと輝くためにも、僕等は挑戦し続けなければならない。
「少し休んでからバロンタークに向かおう」
「王都ですか?」
「うん。王都近辺はダンジョンの数も多いし、ここよりも難易度も高い。そこを踏破して、スターライトの名をもっと轟かせよう」
「いいですね! そうしましょう!!」
僕の案に、ソラとフウも承諾してくれる。
これで行き先は決まった。次の目標は王都バロンタークのダンジョンを踏破すること。
(見ていろアテナ、僕は君が届かないところまで駆け上がってやる)




