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34 新しい鍛錬

 


「「……」」


「まず……くはねぇけど、なんでこんなに大きいんだよ。皮も剥いてねぇし」


 フレイとミリアリアによる初めての料理は、野菜スープとただのパンだった。

 野菜スープに関しては、芋を煮込んだだけ。全然カットしてなくて食べ辛いし、皮すら剥いてない。これが最大限なのか、手を抜いているのかは分からんが、これは料理と呼べるもんじゃねぇぞ。


 二人がどれくらい作れるのか知りたくて敢えて組ませてみたが、料理スキルは皆無のようだな。今度からは俺かアテナと一緒に少しずつ指導していくしかないだろう。旅中ずっとこんな料理を出されたらたまったもんじゃねえし。


「チッ、しゃーねーだろーが。力入れてっと道具をぶっ壊しそうになるんだよ」


「それでも頑張れよ。で、ミリアリアさんはどんな言い訳を言ってくれるんですか?」


「分担しただけ。野菜スープはフレイ、パンはアタシ」


 この野郎……いけしゃあしゃあと言いやがって。パンは料理じゃねーだろ、せめてお前も一品ぐらいなんか作れや。

 よし、ミリアリアとは俺が組もう。アテナと組ませると絶対サボるだろうからな。


 美味しくないご飯を平らげ、少し休憩をした後に旅を再開する。

 静かで平和な時間が過ぎ、太陽が沈むにはまだ早い頃、俺は足を止めて三人に提案した。


「今日はこの辺にしておいて、野営の準備をするか」


「えっ、早くないか? まだ全然明るいが」


「そんなに急ぐ旅でもねぇしな。こっからやることもあるし。それに、そろそろあいつらが限界だろう」


 怪訝そうにしているアテナにそう言って、俺は背後にいるミリアリアとフレイに指をさす。


「ハァ……ハァ……」


「づかれたぁ~~もう歩けないぃ~~」


「どうやらそうみたいだな……」


 完全にバテている二人を横目に納得するアテナ。

 汗を滝のように流しているフレイに、ゾンビのように地面を這いつくばるミリアリア。


 体力オバケのフレイでも、流石に朝っぱらから全力の身体強化をやり続けていたらバテるのも無理はないだろう。

 俺的にはもっと早くバテると思ったが、予想以上に保ったことに驚いたぜ。やっぱこいつの身体能力は底が知れねぇ。魔力の量も多いしな。


 ミリアリアの唯一の弱点は体力スタミナだな。

 途中何度も休憩を促してきたけど全部無視して歩かせたが、これが本当に限界のようだ。


 どれだけ優秀な魔術師でも、体力が尽きれば思考力が低下し、魔力の操作もできなくなる。体力がなくなるまで戦い続けるなんてことは滅多にないが、絶対にないとは限らない。

 モンスターにも異常行動があり、無限に湧き出てくることだってある。そういう時に最後に頼れるのは、体力と根性だったりするんだ。


「ミリアリア、休憩したら適当に土魔術で寝床を作っておいてくれ」


「はぁ……はぁ……休憩したらね……」


 こう言うと失礼だが、ミリアリアはマジで優良物件だと思うぜ。

 旅をしていく上で必要不可欠な水、それも綺麗な水を自ら作り出せるし、土魔術で屋根つきの寝床だって作れる。雨風を凌げるだけで体力の回復度が違ってくるし、疲れを次の日に持ち越さないからな。


 ミリアリアがいるだけで旅が随分楽になる。一家に一台欲しいぐらい優秀で便利な魔術師だよ。


「アテナとフレイは、これから俺とちょっとした鍛錬だ。あーフレイ、もう身体強化を解いていいぜ」


 そう告げると、フレイは身体強化を解いた。体力が尽きたフレイにとってこれから鍛錬するのはめちゃくちゃしんどいだろうが、それも狙いの一つだから頑張ってもらうしかない。

 俺は二人に身体を向けて、ちょっとした質問をした。


「さて、これから鍛錬する前にお前らに聞きたいんだけどよ、モンスターから攻撃を受ける時、どうする?」


「どうするって……避けるだろう。間に合わなかったら剣で防ぐ」


「ハァ……ハア……それ以外ねーだろーが」


「基本的にはその二つだろうな。敵からの攻撃対応においてこちらが行うパターンは“回避”と“防御”だ。だけど俺は、他にも“受け流す”というやり方があると思っている」


「それは……普通に防御するのとは何が違うんだ?」


 怪訝そうに質問してくるアテナに、俺は両手を握り拳にしてガチンとぶつけあった。


「こんな感じに、攻撃を真正面から受けるのが防御だ」


 次に俺は、片方の手を広げて斜めから拳に添える。


「流すっていうのは、真正面から当たらず違う方向から力を与えて、攻撃の軌道――流れを逸らすってイメージだな」


「なるほど……言っていることは大体分かる」


「それができたところで、なんになるんだよ」


「これの良い所は、相手がどれだけパワーがあろうとも関係ないところだ。極端な話、子供でも大人の攻撃を無力化できる。逆に悪いところは難しい技術だってことだ。タイミングを間違えれば普通に防御するよりも致命傷を負うだろうな」


 それだけ高度でシビアな技術だ。

 だが、これができるかできないかで戦闘の幅が大きく変わってくる。会得するのは難しいだろうが、こいつらならできると俺の勘が言っていた。


「まぁ、口で言うだけじゃ分からねーだろうから実践してやるよ。試したい奴からかかってきな」



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