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03 エスト(前編)

 


 僕の名前はエスト。

 小さな村に生まれた、普通の子供だ。

 同年代の子供がアテナしかいなくて、何かをするのもいつも一緒。いわゆる幼馴染というやつだ。

 アテナは可愛らしい女の子で、僕は幼いながらに彼女に恋心を抱いていた。


 将来はアテナと結婚して、この小さな村で暮らしていくのだろうと思っていた時、僕たちに転機が訪れる。


 突然村に、野生のモンスターが襲ってきたのだ。

 村の大人たちは精一杯戦ったんだけど、ただの村人が勝てるわけもなく、大人たちは殺されてしまう。

 もうダメかと死を覚悟した時、たまたま通りがかった冒険者のパーティーがモンスターを退治してくれたのだ。


 あの光景は今も瞼の裏に焼き付いている。

 光り輝く剣や、豪快な魔術で魔物を次々と駆逐していく。まるで正義のヒーローのようだった。


 あの人たちのようになりたい。

 そう感じたのは僕だけではなく、アテナも同じだった。


 冒険者に憧れた僕らは、一緒に冒険者になろうと決意を抱く。

 僕とアテナは村を助けてくれた冒険者のような……ううん、あのパーティーを越えて世界一の冒険者になろうと約束したのだ。


 それが僕らの転機。


 そしてアテナは変わった。

 ふるまいや喋り方も冒険者を意識して男らしいものになったし、人一倍強くなろうと努力した。

 僕もアテナに置いていかれないように、必死に頑張った。


 十二歳の頃、村に老人の魔術師がやってきた。


 僕らは老人に頼み込んで魔術を教えてもらうことになる。

 才能があったアテナはメキメキと魔術を覚えて上達していったけど、僕には才能がなかった。


 肉体強化も、攻撃魔術も、回復魔術もなに一つ使うことができない。

 唯一適正があったのが、他人の能力を上昇させる付与魔術だったのだ。

 付与魔術しか使えないのは残念だったけど、僕はへこたれずに付与魔術の上達に励んでいった。


 僕らは十五歳になった。

 身体も大きくなり、僕も少しは大人の男になった気がする。


 アテナは益々綺麗になった。子供の時は可愛いらしい女の子だったんだけど、今は凛々しい雰囲気を纏う美女となっている。


 僕はアテナのことが大好きだけど、彼女と釣り合っていないというか、劣等感から未だに告白することができないでいた。

 立派な冒険者になって自信をつけ、彼女に見合う男になった時、アテナに好きだと告げようと思う。


 僕とアテナは十五年間生きてきた村を離れ、一番近い都市にやってきた。

 その都市の冒険者ギルドで登録し、念願だった冒険者になる。

 だけど僕らの目標は冒険者になるだけでなく、世界一の冒険者だ。

 浮かれてなんていられない。


 早速、初心者の迷宮に挑戦する。

 二人だけだったが、僕らは十分に戦えていた。なによりもアテナが凄まじかった。初級の迷宮に出てくるモンスターなんて相手にならない。


 素の状態でも強かったが、僕の付与魔術をかけたら半端ない強さになっていた。

 この頃は僕の実力でもモンスターを倒せていたので、僕も剣を持って戦いに参加していた。


 冒険者になったばかりだけど、十分やれることを実感した僕らはさらに上を目指すために仲間を募る。


 最初に仲間になったのは、エルフのミリアリアだ。

 エルフを見るのは初めてだったので、とてもビックリしてしまった。それに凄く可愛いし。

 ミリアリアも最近冒険者になったばかりで、パーティーを探していた時に僕らを見つけ、声をかけてきたのだ。


 まあ僕らというよりも、アテナが目当てだったんだけどね。

 どうやらミリアリアは女性が好きらしく、アテナに一目惚れしたらしい。女性が女性を好きになることなんてあるんだな~と、僕は呑気なことを考えていた。


 ミリアリアは優秀な魔術師だった。

 攻撃魔術や防御魔術も多彩で、なんと回復魔術まで使えるのだ。だけどちょっとサボりがちというか面倒臭がり屋な面がある。

 まあそれを加味しても、ミリアリアは頼りになる魔術師だ。


 次に仲間になったのは戦士のダルだ。

 チビの僕とは違って背が高く、いつも眠そうな顔をしている。ただ左頬に切り傷が入っていて、戦いの勲章みたいで格好良い。

 髪はぼさっとしていて、顎髭も生えてパッとしない見た目だ。いつも「かったりぃ」といった口癖を言っている。あとお酒が大好きだ。


 ダルは僕よりも歳が五つも上で、なんと冒険者歴は十年である。十歳の頃から冒険者になり、若くしてベテランの風格を醸し出していた。十歳から冒険者をやっていたと聞いた時は、凄く驚いたっけ。


 ダルは個人の冒険者ランクもシルバーだ。

 だけど何故かパーティーに入っておらず、初級の迷宮でショボい稼ぎをしている。たまたまダルのことを知ったアテナが、自分から彼を誘ったのだ。

 彼は最初断っていたけど、アテナのしつこい誘いに乗ってパーティーに加わった。


 なんでそこまでダルにこだわるのか不思議に思って理由を尋ねてみたら、アテナは「あんな掘り出し物が目の前にあるのに、拾わないのはもったいないだろう」とのこと。

 確かに僕から見ても、ダルは優良物件のように思える。


 ダルは戦士としても優秀だったけど、冒険者としても頼りになる先輩だった。

 モンスターとの戦い方、アイテムの必需品、罠の見分け方、はたまた料理まで色々なことを教えてくれる。

 金遣いは荒いし見た目も格好良いとは言えないけど、僕らにとっては頼れる兄貴分のような存在だった。


 初級の迷宮を踏破した頃。


 僕等はこの四人で正式にパーティーを結成した。


 パーティーの名前はスターダスト。


 名前を付けたのはダルで、星屑という意味があるらしい。

 響きもかっこいいし、世界一の冒険者と空の上に光輝く星が合っているように思えたので、全員一致でパーティー名はスターダストに決まった。

 パーティーのリーダーは勿論アテナ。

 彼女以外にはありえない。


 この時から、僕らスターダストの躍進が始まったのだった。


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