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25/106

25 本気

 


 間に合ってよかった。

 三人の状態を考えれば全然間に合っていないんだが、最悪な結果だけは免れた。


 ミリアリアもフレイも、辛うじて息はある。すぐに治療すれば回復するだろう。

 そしてアテナも……。


(こいつら本当に、よく頑張ったよ)


 魔神と戦って生き残ってるんだからな。

 こいつ等の状態を鑑みれば、死に物狂いだってのが伝わってくる。マジで命張ったんだろう。

 できることなら今すぐ褒めちぎりたいぐらいだ。


 だけど今は、すぐにこいつをぶっ殺さなきゃならない。

 俺はアテナを抱きかかえたまま後ろに下がり、そっと地面に下ろして、汚れた金色の髪を労わるように優しく撫でた。


「すぐに終わらせる。ちょっとだけ待っててくれ」


「ああ、待ってる」


 踵を返し、呻き声を上げている魔神を観察した。


 どうやら“今回の”魔神はそうでもなさそうだ。魔力量もそれほどねぇし、アテナたちでも相手ができるなら雑魚の方だろう。

 こう言っちゃ悪いが、普通の魔神だったら三人じゃ相手にならない。出会った瞬間に即殺されているだろう。


 だけどあいつらでも戦えるっていうんなら、この魔神はそうでもなさそうだ。


「ボクの腕がああああああああああ~~、な~んちゃって。こんなのすぐ生えてくるモン」


 子供のように喚き散らかしていた魔神は、なんでもない態度を取る。


 俺が斬った腕が、高速再生された。

 厄介だよな魔神って、人間や他の種族と違って魔力さえあれば肉体を再生できるんだからよ。

 だけどな、それがどうした。


「おいクソ野郎、よくもガキ共をイジめてくれやがったな。この落とし前はキッチリつけさせてやるぜ」


「え? ええ? ナニソレ美味しいの? オマエはボクに殺されるんだよ? ボクの腕を斬ったんだから当然だよね!?」


「今から殺されんのはテメエだよ」


「殺す? プッ、アハハハハハハハハ!! 殺す、コロスだってさあああああああ?! おかしいよねえええママ?

 アイツ、ボクより全然魔力がなくて弱いやつなのに、ボクを殺すんだってさ! 嗤っちゃうよね!?」


「そうだな、お前より全然魔力がねえよ。“今はな”」


「アハハ、強がるなよ雑魚のくせに! オマエは今からボクに殺されるんだよお!! どうやって殺そうかな? どうタノシもうかなぁ?」


 はっ、流石に魔神といえど気付くことはできないか。

 流石、あいつが作った魔術具なだけはある。誇れよ、お前が作った道具は魔神さえも騙したぞ。


 さて、俺の言葉が信じられないのなら体感させるしかねぇよな。

 俺は髪をかき上げ、両手首に着けている腕輪をカチャリと外す。

 刹那、俺の体内に眠る膨大な魔力を呼び覚ました。


「なんだ……なんだそれは……何故オマエがそれほどの魔力を有している?! おかしい、何をした? ナニをした?!」


「おいおい、さっきの変な喋り方はどうしたよ。もう化けの皮が剥がれてるぜ。何をしたもなにも、元々ある魔力を封じていた道具を取り外しただけだ。俺自身は何も変わってねぇよ」


「そんな……馬鹿な?! あり得ない、たかが人間如きがこれほどまでの魔力を持っているわけがない!! いや、耐えられるわけがない!!」


 自分より強大な魔力を目の当たりにして、魔神は驚愕を隠せない。

 残念ながら持ってるし、耐えられちゃうんだよなぁ。


 ただ、頑張って抑えても普通の奴を怖がらせちまうし、魔力耐性が低い奴だと気絶させちまったりと不便だからというものもあって、普段は魔力を封じ込めるための魔術具を着けているんだ。


 だから正真正銘、これが俺の全力だ。


「テメエが殺した奴等の分まで、俺がきっちりぶっ殺してやる」


「ほざけ!! ボクがオマエ如きに負けるわけがないだろう!!」


 そう叫んで、魔神は凄まじい速度で俺に迫ってくる。


 疾い。生まれたてとはいえ魔神なだけはある。身体能力は化物だ。

 けど残念だったな。近接戦闘で俺に勝てると思うなよ。


「ガッ――アアアアアアアアアアアアアアアア??!!」


やわいな。紙切れのようだぜ」


 打撃を繰り出してきた魔神の肉体を三枚におろす。

 バラバラになった魔神は苦痛に絶叫を上げた。

 だがすぐに断たれた肉体が宙に浮かんで一つに固まり、再生が始まる。


「ハア……ハア……クソ、よくもやってくれたな! コロス、殺してやるぞ!!

 火炎魔術ファイアストーム!!」


 意外と冷静じゃないかと感心する。

 打撃では俺に敵わないと即座に判断した魔神は、上級魔術を放ってくる。

 迫りくる熱波に対し、俺は大きく剣を振るった。


戦爪せんそう


 振るわれた剣から発せられた衝撃波が、熱風を掻き消す。

 だけではなく、そのまま魔神を巻き込んで壁に叩きつけた。


「ガハッ……ボクの魔術が打ち負けるだと?! オマエ、いったいどんな魔術を……」


「残念ながら今のは魔術じゃねえんだな。すんごい速く剣を振った時に起きる風に魔力を乗せただけなんだぜ」


「ば、バカな……それだけでボクの上級魔術が負けるはずがないだろ?! クソ、クソ!

 なら今度こそ消してやる! 跡形もなく消してやるぞおおお!!」


 魔神の膨大な魔力が集約されていく。

 感じられる魔力量からすると、上級の上の特級魔術でも使うつもりか。

 流石に俺でも特級魔術に余裕こいてはいられねぇわ。


「すぅぅぅぅぅ……」


 腰を下ろし息を大きく吸って、魔力を十全まで高める。


「消えてなくなれッ、火炎魔術フルファル・ジ・ファイアッッ!!!」


 魔神の両手から、凝縮された超高熱の熱線が放たれる。

 空気を焦がし、地面を焼き尽くしながら飛来してくる熱線に対し、俺は息を吐くと同時に剣を一閃させた。


「覇軍戦爪!!」


 超高密度の魔力が乗せられた斬撃波が、熱線を縦に斬り裂きながら突き進む。

 拮抗など毛頭も無かった。

 一瞬で魔神までたどり着くと、斬撃波は魔神の肉体を真っ二つに斬り裂いて迷宮の壁に大きな傷跡を残した。


「そ……んな……おかしい……魔神のボクが……人間なんかに負けるなんて……おかしいよ、ねえママ……おかしいよね?」


 焦点が合わずブツブツと呟いている魔神に近づき、俺は見下ろしながら哀れむように告げる。


「おかしくねぇよ。お前の相手がたまたま俺だったってだけだ。ようは運が悪かったんだよ」


「イ……やだ……死にたくないッ! お願い殺さないで! せっかく生まれたのに、死にたくナイ。ボクはもっと遊ぶんだ!! アイツらのように、イッパイイッパイ遊ぶんだ!! もっとたくさん殺すんだ!!

 ねえそうだよねママ?! 嫌だよ!! ボク死にたくないよオオオオオ!!」


「そう言った奴等をお前は殺してきたんだ。安心しろ、お前の仲間もいつか必ず俺が殺してやるから」


「やめてヤメテやめ――」


 魔神の身体を修復不可能まで切り刻み、強制的に口を閉じさせる。

 これ以上こいつの吐く汚い言葉を、アテナに聞かせたくなかった。

 しっかりと反応を確認する。

 生まれたばかりの魔神は、確かに死に絶えた。


「ふぅ~~」


 久しぶりに本気を出して戦ったけど、どうにかなって良かったぜ。

 相手が魔神の中でも雑魚だってのが救いだったな。もっと上位の魔神だったら俺一人じゃやばかったかもしれねぇ。


 俺は魔力を封じるための腕輪を着け直すと、放心しているアテナの元に歩み寄った。


「終わったぜ」


「あ、ああ……そうだな。もう、なにから話せばいいか分からず混乱している。ダル……お前はずっと力を隠していたのか?」


「まぁ、ちょっと訳有りでな。悪いんだが、このことは黙っててくれねぇか? 他の奴等に知られると、後々面倒なことになりそうなんだよ。

 それと、魔神を倒したことも俺じゃない奴ってことにしておいてくれ」


 両手を合掌して頼むと、アテナは呆れた風に大きなため息をついて、


「分かった。このことは私だけの胸に秘めておこう。ただ、いつかみんなにも話してくれるのだな?」


「ああ、いつかはな」


「よし、ならば早く二人を連れて帰ろう。すぐに怪我の手当をしなければ」


「おう。アテナはミリアリアを頼む。俺はフレイを運ぶわ」


「分かった」


 アテナが話が分かるやつで良かったぜ。

 もし俺の力がバレてしまうような事があれば、アテナたちから離れようと思っていたからな。

 もう少しだけ、俺はこいつらの夢に付き添いたかった。


「まあでも、こういうかったりぃことは、勘弁して欲しいぜ」


 そうボヤきながら、俺はアテナの背中を眺めて微笑んだのだった。


本日もう一話投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
無双は気持ちいいですね。
[良い点] 強敵との闘いはそれ自体が全て授業 [気になる点] 冒険者ってのは自分の命を売り物にしている エストの追放に対する否定コメントが多いのですが 一皮剥ける可能性が明日なのかひと月後なのか一年…
[一言] もういっそのこと未来眼的な何かを持ってる主人公が最強の魔神による世界の滅亡を回避する為に裏で暗躍しつつ勇者の少女覚醒させて,エルフの少女覚醒させて,竜人の少女覚醒させて,付与術師の少年覚醒さ…
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