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20 魔神

 


「しゃあ! 早く迷宮行こうぜ!」


「悪い、今日俺用事があるからパスだわ」


「ああん!?」


 今日も元気なお子様に軽く手を上げながら謝ると、出鼻をくじかれたフレイは不服そうにメンチを切ってきた。

 そう言われても、行けないものは行けないのよ。


「また買い物なら手伝うぞ」


「いや、今回は俺の私用だ。だから付き合わなくていいぜ。悪いけど、今日はお前たちだけで迷宮に行ってくれ。

 くれぐれも無理はするなよって……アテナがいるからそこんところは安心してるけどよ」


「そうか……分かった。なら私たちだけで行こう」


「ちっ……折角テメエの技を盗んでやるつもりだったのによ」


 へっ、言うようになったじゃねえか。

 こりゃー明日から俺もボチボチ頑張りましょうかね。いい手本になるようにさ。


 戸締りは俺がすることになり、三人が先にハウスを出ようとする。

 家を出る前に、俺は眠そうに欠伸をしているミリアリアに声をかけた。


「ミリアリア、こいつ等を頼むな」


「意味わからない。なんでアタシが……」


「聞き捨てならんな。何故リーダーの私でなくミリアリアに任せるのだ」


「そうだ、ンでこいつに子守されなくちゃなんねぇんだよ」


「深い意味はねえよ。ほら、さっさと行ってこい」


 頬杖をつきながらしっしっと片手を振ると、三人は怪訝そうな顔を浮かべながら迷宮に向かった。


「さて、俺も行きますかね」


 カップに残る珈琲を飲み干して、俺も出掛ける準備を行うのだった。



 ◇◆◇



「……ここに来るのも一年ぶりか」


 俺は都市から少し離れた草原地帯にある、美しい花畑が咲いている小さな丘に訪れていた。


 柔らかな風が花を揺らし、頬を優しく撫でる。

 まるで「こんにちは」と挨拶をされているかのようだった。


 丘の端には真っ白な墓石があり、側には墓石を守る役目を担っている金色の剣が刺さっていた。

 墓石は埃がかぶっていて、剣には雑草が絡みついている。


「今綺麗にしてやっからな」


 俺は墓石と剣に近づき、持ってきた掃除道具で手入れをしていった。

 それほど時間をかけず綺麗にしたら、今度は花の冠をせっせと作る。

 こういった作業は苦手な方なので、まぁまぁ時間がかかっちまった。


「ほらよ、お前の好きな花の冠だ」


 色とりどりで、ちょっとだけ不細工な花の冠を墓石の上にそっと置いた。


 そして俺は、独り言を始めるのだった。


「俺さ……今まで生きる意味もなく適当にやってたんだ。ああ、それは前にも話したっけか。だけどな、ちょっと前に俺をパーティーに誘ってくる奴がいてな、アテナっていう大人ぶったガキなんだ。

 何度も断ったんだけどよ、すんげーしつこいから仕方なく組んじまった」


 マジでしつこかったぜ。

 最初は俺もやんわりと断ったんだけどよ、あまりにもしつこいからこれ以上関わるならぶっ殺すぞと邪険に対応したりもしたんだがな、やってみろ! と胸を張って言ってきやがったのよ。


 普通さ、冒険者が働きに出るギルドで真っ昼間から酒を飲んでいる得体の知れない男を誘うか? 意味わかんねーよな。


「けどそいつさ、なんかついていきたくなる奴なんだよ。夢は世界一の冒険者になるとか言ってんだぜ。どっかの馬鹿野郎みたいな戯言ぬかしやがるんだ。笑っちまうだろ」


 本当によ……その言葉を聞いた時は心臓が飛び出るかと思ったぜ。

 そんな叶わぬ夢を、本気で追いかけようとする馬鹿がまだいたのかってよ。


「でもな、ちょっとだけ見てみたくなったのよ。そいつの近くで、そいつの輝くところをよ」


 どこまで登るか分からない。

 途中で折れるかもしれない。

 だけどアテナが行き着く最後さきまで、見てみたいと思っちまったんだ。


「パーティーにいるミリアリアっていうエルフのガキはさ、俺と一緒で面倒臭がり屋なんだ。人一倍才能がある癖によ、全く向上心がねえ。それがちっとばかし心配なんだよ」


 あいつはアテナと一緒に居たいだけでパーティーにいる。

 だけどこのままじゃ、そう遠くない未来でアテナの隣を歩いていけなくなるかもしれない。


 そうなると、あいつの二の舞になっちまう可能性がある。

 だけど困ったことにミリアリアは拗ねるタイプだから、あんまり強く言えないんだよな。


「フレイっていう竜人族のガキんちょが新しく入ってきたんだけどよ、これがまぁわんぱくなじゃじゃ馬娘なのよ。どう接するかこれでも迷ったんだけどよ、らしくなく説教臭ぇことしちまった。

 だけどあいつは、それに応えようと必死にもがいている。意外と可愛らしいところもあるんだぜ」


 マジで手を焼いたっていうか、どう対処するか迷った。


 口は悪いし自分のことしか考えてねえし。

 最悪な考えでいうと、本当にパーティーから追い出そうとしたかもしれない。


 ただフレイをこのまま埋もれさすには惜しかったし、アテナのライバルとしても頑張ってほしかった。

 それに意外と素直なところもあって、可愛げがあったりするんだ。

 俺をおっさんて呼ぶのは許さないけどな。


「ちょっと前まで、エストってガキもパーティーにいたんだ。純粋無垢って感じでよ、好きな女のために精一杯頑張る奴だった。それが健気でよ、俺も応援してたんだ。弟分みてぇに思ってたよ。

 でもそいつは力が伸びなくて、パーティーから追い出すはめになっちまった。悪いことをしちまったなと思うよ」


 ただ、後悔はしてねぇ。

 エストが力に覚醒したのは、パーティーから……アテナから離れたからってのもあると思う。


 まあこれは、そうであってほしいっていう俺の願望かもしれねぇけどな。

 ただ、今は可愛い女の子に囲まれて楽しそうにやってるよ。


 羨ましいくらいだぜ。

 こっちは女に囲まれてるといってもガキのお守りみたいなことしてんだからよ。全然嬉しくねえわ。


 近況報告というか、言いたいことを言っただけの俺は、そっと立ち上がって別れの言葉を告げる。


「俺も頑張ってみるわ。また今度、土産話を持ってきて会いに来てやるよ。じゃあな、アイシア」


 踵を返す。

 その時、背中を抱くような優しくあたたかい風が吹いた。


「ありがとな」



 ◇◆◇



 用事が済んだ俺は、このままハウスに帰るのも味気無ぇと思い、久しぶりに冒険者ギルドにある酒屋で酒を飲もうと立ち寄った。

 すると、懐かしい奴と鉢合わせしてしまう。


「おうエスト、今日の攻略は終わりか?」


「ダル……」


 顔を合わせたのは、スターダストから追放した元パーティーメンバーのエストだった。


 夢を見てキラッキラしていた瞳はくすんでいて、明るい少年だった顔は悟ったような大人の雰囲気を醸し出している。


 やだねぇ~、そんな風に成長してほしくはなかったぜ。

 まあ、その要因は俺たちにあるから何も言えないんだけどな。


 エストは視線だけ動かして俺の周りを見ると、鼻を鳴らして小馬鹿にするように口を開いた。


「あれ、他のメンバーが見当たらないね。もしかしてダルも追い出されちゃった?」


「残念、今日は俺が用事があって別々に行動してるだけだ。お前こそ、新しいお友達がいねーじゃねえか」


「彼女たちは一足先に帰ってもらってるだけだよ。それよりダル、あまり僕と関わらない方がいいよ。僕と話しているところを見られると、周りから馬鹿にされちゃうからね。

 堕ちたスターダストがノリに乗っているスターライトに媚びてるってね。言っておくけど、僕は頼まれたってあんた達のところには戻らないよ」


「ご忠告どうもありがとさん。それとエスト、勘違いしてるところ悪いがスターダストがお前に頭を下げることはねえから」


 ニヤニヤした笑顔ではっきり告げると、エストは「あっそ」とつまらなそうに背中を向けた。


「なんでもいいけど、僕たちを貶めようとすることはやめてね。もしそんなことをしたら、僕は絶対に許さない」


「じゃあこっちもついでに言っとくけど、お前こそアテナの邪魔をすんじゃねえぞ」


「「……」」


 俺とエストの視線が交差する。

 おいガキんちょ、喧嘩を売るならもう少し成長してからにしろや。


「魔神だッ!! 魔神が現れたぞ!!」


「「――ッ!?」」


 扉をぶっ壊す勢いで入ってきた冒険者が必死の形相でそう叫ぶと、ギルドに緊張が走った。


「魔神だって!?」


「なんで魔神が!?」


「嘘だろ!? 魔神が現れる兆候なんてなかったぞ!!」


 魔神という言葉を聞いて、周りの冒険者たちが慌てふためく。

 それだけ、魔神は冒険者にとっての脅威であった。


 魔神。

 それは迷宮が生み出す怪物だ。

 半端なく強く、魔神の出現により都市が壊滅したケースもある。ゴールドランクが束になって挑み、犠牲を払いながらもやっと倒せる災害級の化け物だ。


 魔神は迷宮によって生み出される。

 理由は解明されていないが、迷宮主を連続で倒したりモンスターを倒し過ぎてしまう時に生まれる場合が多い。


 だが、魔神が生まれる前に兆候がある。

 イレギュラーな魔物が出たり、モンスターの異常行動なんかがそうだ。そういったことがあればすぐに報告されて噂になるから分からない筈がないんだが……。


 嫌な予感がした俺は息を切らしている冒険者に近づき、胸倉を掴み上げながら問いかけた。


「おい、魔神が出たってのは本当か!? どこの迷宮に出た!?」


「ほ、本当だ! 中級の迷宮に出たんだよ!! 他の冒険者たちは殺られちまった!! 俺はこのことを報告するために一人だけ逃がされたんだ!!」


「中級の迷宮だと!?」


 その話を聞いた俺は、ギリリと奥歯を噛み締めた。

 ふざけんじゃねぇ……その迷宮には今、アテナたちが行ってんだぞ!!


「は、早くこのことを街の人々に伝えろ! それとゴールドランクの冒険者パーティーにも呼びかけるんだ!!」


「王都にも応援を要請した方がいい!!」


「魔神だって……早く逃げねえと」


「あーあ、この都市も終わりかよ」


 ギルドのスタッフは怒号を掛け合い、冒険者たちは絶望した顔で俯く。

 そんな中、俺はエストに声をかけた。


「迷宮にはアテナたちがいる。俺は助けに行くが、お前はどうする?」


「はっ、相手は魔神だよ? ダルが行ったってどうするのさ。死にに行くようなもんだろ。

 それに僕はアテナたちより自分の仲間のところに行くよ」


「そうか……そうだな。早く伝えてやれ」


 エストよ……俺は少しだけ、お前のことを見損なっちまったぜ。


 怪訝そうなエストにそう告げると、俺は床を蹴っ飛ばして迷宮に向かう。


「俺が行くまで死ぬんじゃねえぞ、ガキ共!!」


本日は文化の日ということで、もう二話投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] ニヤニヤしながらスターダストはエストに頭は下げねぇからってダルお前子供かよ。エストそれに乗らないの大人になったなって感じ。エストが成長したのに対してスターダストはマジで成長しないね。アテナは…
[良い点] エストというキャラがしっかりしていてもやもやしないそりてこいつのほうが主人公感ある [気になる点] エストがここまでこうなったのはダルの誤解があったからなのは明白そしてエストにとってのダル…
[気になる点] >美しい花畑が咲いている 花が咲いている OR 花畑がある
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