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16 約束

 


「やはりダルは強かったんだな……あのフレイを赤子扱いするとは、恐れいったよ」


「いやいや、あれはあいつが頭に血が上ってたからたまたま上手くいっただけだ。もう一度やれって言われてもできやしねぇよ」


「そうそ。あれはダルが凄いんじゃなくてフレイがおバカなだけ」


 俺とフレイの勝負に決着がついた後、俺たちはその日の攻略をやめてパーティーハウスに帰ってきていた。


 俺だけじゃなく、全員あのまま攻略を続ける気分じゃなかったからな。特にフレイはめちゃくちゃ落ち込んでたし。

 いらない怪我をしてももったいないから、引き上げたんだ。


 帰ってきて早々、フレイは頭を冷やしに風呂場に直行した。

 俺はちびちびと酒を飲んで、アテナはソファーでミリアリアの髪を櫛でとかしている。

 むふ~と、レズエルフはご満悦な表情を浮かべていた。


「謙遜するな。正直言って、ダルが攻撃を躱した後から何をしたのか全く分からなかった。気付いたらフレイを抑え込んでいたのだからな。あれは何をしたんだ?」


「ちょっと昔にな、変な爺さんに武術ってやつを教えて貰ったんだよ。俺もフレイみたいに訳も分からず投げ飛ばされてな。腹が立って何度も挑んだら気に入られてよ、少しだけ教わったんだ」


 幾つの頃か忘れちまったが、旅をしている途中に立ち寄った道場って場所で会ったんだよな。


 爺さんが武術家だって言うから軽い気持ちで相手をしてやろうと思ってたのに、めたんこにぶん投げられちまった。


 そんで俺も意地になって勝負を挑んだら、なぜか度胸と見込みがあるだとかで武術を教わるハメになっちまったんだよ。

 まあ、今となっては教えて貰って有難く思ってるけどな。


「そういえば、ダルの昔話は聞いたことがなかったな」


「俺だけじゃねえだろ。俺はアテナやミリアリアの昔のことなんて全然知らねぇぜ」


「そうだったな……ずっと上を目指すことばかりで、あまりそういったことに関心がなかった。余裕がなかったんだな」


「別にいいんじゃねえか。そういうのは歳を取ってからするもんよ。若い内は昔のことなんか振り返らず前だけ見てりゃいいんだよ」


「ダル、おっさん臭い」


 あっ……。

 ミリアリアに指摘されて、ばつが悪くなった俺はぼさぼさの頭を掻く。


 どうも年下ばかり相手をしてるとおっさん臭ぇことを言っちまうな。

 あ~やだやだ、俺はまだぴっちぴちの二十歳だってのによ。

 年上のお姉さんに甘えたい気分だぜ。


「上がったぜ。誰か入れよ」


「おっ、じゃあ俺が先に貰うわ」


 丁度いいところに風呂から上がったフレイが促してくる。

 部屋に居づらくなった俺は、逃げるように風呂場に直行したのだった。



 ◇◆◇



 その日の夜。

 本を読んでると、コンコンとドアがノックされた。

 アテナだろうか。ミリアリアとフレイが俺の部屋にくるとは思えねぇしな。


 どうぞと声をかけると、部屋に入ってきた人物に目を見開く。

 俺の部屋に入ってきたのはアテナではなく、フレイだったからだ。


 しかもなんか顔が暗ぇし。

 なにしに来たんだこいつ。


「お前が俺に用があるなんて珍しいじゃねえか。どうした? やっぱり納得できなくて夜襲でもしにきたのか?」


 冗談めかしてそう言うと、フレイは「違ぇよ」と舌打ちをして、


「あの勝負はオレの完敗だ。だからもうどうこう言うつもりはねぇ」


 おっ、やっと反省してくれたか。

 まぁ自分の土俵で負けたんだから、嫌でも認めざるを得ないよな。素手で勝負した甲斐があったというものよ。


 でも勝負のことじゃねーとなると、こいつは何しに来たんだ?

 そんな疑問を抱いていると、フレイは突然その場で着ている服を全部脱ぎだす。


(おいおいおいおい!? なにしちゃってんのこのお馬鹿ちゃん!?)


 突飛な奇行にパニックに陥る。

 なんでいきなり全裸になってんだこいつ。意味わかんねえよ。

 おっぱいも下の毛も丸見えだよ。っていうか下の毛も赤いんだね。

 いやいやそういうことじゃーだろ。


「お前なに脱ぎだしてんの? 俺をからかってるの?」


「……約束だろーが」


「約束?」


「オレが負けたら、処女をくれてやるってやつだよ」


「あー……」


 あったねーそんな約束。

 否定すんのも面倒だからスルーしちまったけど、本人は本気だったらしい。

 でも勝負に負けたからって普通自分の身体を渡すかぁ?

 なんて頑固な性格をしてるんだこいつ。男らしすぎて逆にヒいちまうわ。


 呆れた俺は、ため息をつきながら手をひらひらさせる。


「あの場で否定しなかった俺も悪いけど、お前も本気にすんなよ。約束は無効だ、気にすんな」


「ああん!? テメエ、オレの処女がいらねぇのかよ!?」


 なんで俺は逆ギレされてるんだろ……。

 こいつ馬鹿なの?


「お前の処女なんかいらねーよ。いいからさっさと服を着ろ。こんなところ誰かに見られたらいらねー誤解されんだろーが」


「ちっ……本当にいらねーんだな? 後で欲しいって言っても渡さねーぞ」


「しつけぇなぁ、いらねぇって言ってんだろ」


「わーったよ」


 不満気に了承したフレイは、脱いだ服を着ていく。

 ていうかお前ブラジャーしてないんかい。

 そのままじゃタレちゃうよ? と教えてやろうと思ったが、余計なお世話だと思って開きかけた口を閉じる。


 服を着直したフレイは、さっさと出て行くと思ったのにまだ突っ立ってる。

 しかも黙ったままで。

 俺は再びため息をつきながら、フレイに声をかける。


「どうした、まだ何か言いたいことあんのか?」


「……テメエ、強かったんだな」


「別に強かねぇよ。お前よりちょっと経験豊富ってだけだ」


「……」


 誤魔化すように言っても、納得がいっていないフレイに俺はちょっと真剣な声音で問いかけた。


「勝負の時、俺はお前の攻撃手段が分かっていた。なんでだと思う?」


「……知るかよ」


「俺がわざと煽ったからだよ。あの時のお前はさぞ俺の顔面を殴り飛ばしたかったことだろうぜ。だから慎重を期さず真っすぐ突っ込んできて、蹴りではなく顔面目掛けて拳を放ってきたんだ。お前はまんまと俺の罠に嵌ったんだよ」


「じゃあなにか、オレはテメエに顔面を殴るよう誘導されたってわけかよ」


「そうだ」


「ちっ……ンだよそれ」


 ギリッと拳を強く握り締める。

 俺ではなく、自分の愚かさに腹が立っているんだろう。少しは成長したようだな。


 しょうがねぇ……またおっさん臭くなっちまうけど、悩める若人に助言をくれてやるか。

 俺は歯を食いしばっているフレイに、話を振った。


「なんで俺たちが連携を大事にしろって言っているのかは、理解しているか?」


「パーティーだから、そうするもんだからじゃねえのか?」


「違う。連携をした方が圧倒的に強いからだ」


「ッ!?」


「今日実感したと思うが、お前とアテナのペアより俺とミリアリアのペアがモンスターを倒すのが早かっただろ? それは俺がミリアリアと事前に作戦を立てていたからなんだ。戦闘中でも、俺が合図をしたらあいつはすぐに次の魔術を放ってただろ?

 だけどお前は、アテナと碌に話し合いをせずいつものように一人で突っ走るだけだった」


 俯くフレイに、俺は続けて、


「ミリアリアは優秀な魔術師だから誤射は少ない。だけどお前がずっとモンスターに張り付いて戦っていると、今日みたいに魔術を使えないんだよ」


「……」


「力を振るいたいだけなら一人で迷宮に行けばいい。わざわざパーティーを組む必要はねえよ。だけどお前は、パーティーに入ることを選択したんだ。

 なら仲間のことをお荷物だなんて思わず、パーティーに合わせることをしろ。それができないのならお前の方がパーティーにとって邪魔なんだよ」


 はっきり告げると、フレイは今にも泣きそうな顔を浮かべる。

 ふぅ……これだけ言えばこいつも少しは協力すんだろ。


 話はこれで終わりかと思ったが、フレイはまだ立ち去らずその場にとどまっている。


「オレは……焦ってた。アテナに負けたくねぇって思ってた。だけどあいつが本当は弱かったから、勝手に失望して、むしゃくしゃちまってた。だから……だから、悪かった」


 フレイは初めて謝罪した。

 ちゃんと自分の行いを反省して、謝ることができた。


 こいつはまだガキで、間違いを起こすことなんていくらでもある。

 それをしっかりと正す奴が今までいなかったから、ここまでのぼせ上っちまったんだろう。

 だけどもう、フレイは大丈夫だ。


 正直ここまで反省してくれるとは思ってなかったが、これは大きな収穫だ。

 フレイはきっと、強くなる。


「謝るのは俺だけじゃねえぞ」


「分かってる。アテナとミリアリアにも謝る。なぁおっさ……ダル、オレは強くなりてぇ。このままじゃアテナに追い抜かされちまう。どうやったら強くなれるんだ」


 へぇ……これは驚いたぜ。こいつ自身もアテナのポテンシャルに気付いていたのか。


 本能かなにかで感じ取ってたんだろうな。

 そして恐怖を抱いた。凄まじい勢いで下から追い上げるアテナの成長速度に。

 だからあんだけアテナに強く当たってたのかもしれない。本人が意識していないとしても。


「ば~か、ンなこと俺が知るかよ。別に俺は強くねーんだからよ。例え強かったとしても教えねえけどな」


「なんでだよ!? オレが気に入らねぇからか!?」


「ンなわけねぇだろ。甘ったれんじゃねえ、強くなるのは自分だ。教えて貰おうと楽な道に逃げるな、いっぱい悩め。

 見て覚えろ、他の冒険者の動きや考えを見て自分で盗め、それを自分のものにしろ。少なくとも俺はそうやってきたぜ」


「……」


「焦る気持ちは分かる。だけどなフレイ、俺はお前のポテンシャルはアテナに負けてねぇと思ってんだ。

 お前が考えて強くなろうとすれば、自ずと結果はついてくる。俺が保証してやるよ。なんなら命をかけたっていいぜ」


 本心を告げると、フレイは「ちっ」と舌打ちをして、


「わかった……“オレが強くなれることはわかった”。見てろよ、絶対に強くなってテメエにリベンジしてやるからな」


「ああ、楽しみにしてるぜ」


「……ふん」


 フレイは踵を返して部屋から出ていく。

 いやぁ、服を脱ぎだした時にはどうなることかと思ったが、かなり上手い方向に話が進んだな。

 これから面白くなりそうだぜ。


 悪いなアテナ、お前のライバルに助言しちまった。


 だけどよ、フレイはお前の成長にかかせない存在だよ。


 ただ、フレイがアテナを喰っちまう可能性もあるがな。


 まあ、そん時はそん時だ。

本日もう一話投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんてゆーかエクスが絡まなきゃ普通におもろいんだけど、追放した側ってインパクトを求めたせいで 足引っ張てるような気もする
[一言] > なら仲間のことをお荷物だなんて思わず、パーティーに合わせることをしろ。それができないのならお前の方がパーティーにとって邪魔なんだよ   えっ、それアテナに言ってあげれば?
[気になる点] なんでフレイの時はパーティの橋渡しをしてエストの時にはしなかったのか不思議でしょうがない。 野郎は勝手にしろってことなのかね? [一言] エストが可愛い女の子だったらきっと追放されてな…
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