15 フレイ(後編)
パーティーの顔合わせの時、一人足りねぇことに気付いた。
腰巾着のエストの姿が見当たらねぇ。
「おっ、今日はあの腰巾着がいねぇじゃねえか。やっと切ったのか?」
そう聞くと、アテナは不満気な顔で頷いた。
へっ、やっとあの腰巾着を切ったのか。いいね、雑魚と一緒に戦うのは嫌だったんだ。
それに付与魔術ってのも気に入らねぇ。他人の力なんか借りるなんて反吐が出るぜ。オレはオレ自身の力で戦いたいからな。
ダルのおっさんやミリアリアとも軽い挨拶をして、オレたちは早速迷宮に繰り出した。
息を合わせるといった理由で、今日は上級ではなく中級の迷宮らしい。へっ、オレは別に上級でも良かったんだがよ、まぁ初ってことで我慢してやったよ。
四人で迷宮を攻略している最中、不可解なことが起きた。
なんでか分かんねーけど、アテナがすげー弱かったんだ。
「おいアテナ、お前の実力はこんなもんだったのかよ? もしそうなら拍子抜けだぜ」
「ああ、これが私の実力だ」
「マジかよ……調子が悪いとかじゃねーのか? オレが見た時のお前は、もっと凄い奴だったぜ」
どうしたんだよ本気だせやとアテナに言ったが、どうやら今の状態がこいつの本気らしい。
嘘だろ……と心底驚いたぜ。
だって迷宮で見たこいつの実力は、こんなもんじゃなかったんだ。
それこそ、モンスターなんか寄せ付けず優雅に戦っていたはずだ。
それがなんだ、この無様な姿はよ。
たまたま調子が悪いだけだと思ったが、そうでもないらしい。
あの腰巾着の付与魔術のお蔭で、アテナは強かったんだ。
ふざけんなよ……なんだよそれ。
オレが認めたテメエの力は、他人の力を借りたマガい物だってのかよ!?
マジで呆れた。ガッカリだぜ。
オレの全力についてこられる奴だと期待していたのに、この程度の奴だったのかよ。
そんな風に苛ついていると、ミリアリアとダルのおっさんがオレに注意してくる。
やれ個人プレーをしているだとか。やれアテナの邪魔をしているだとか。
ドラゴンヘッドで散々言われたことを言ってきやがる。
マジかよ……ここでもンなかったりぃこと言われなきゃなんねえのかよ。
テメエらがオレについてこれねぇのが悪いんだろ。人のせいにすんじゃねーよ。
オレは二人の文句を全て聞き流した。
そしたらあいつら、露骨にサボり始めやがったんだ。マジでどうかしてるぜ。なんで張り合おうとしてこねぇんだよ。
諦めてんじゃねぇよ。
めちゃくちゃ腹が立ったが、アテナだけは必死にオレについてこようとしていた。
鈍臭ぇし弱ぇけど、闘志を滾らせオレに負けるもんかと喰らいついてくる。
(いいね、やっぱりいいぜお前)
嬉しかった。
大抵の奴はオレから離れていったが、アテナだけは全力でぶつかってきやがった。
それが嬉しかったオレは、もう少しだけこいつらに付き合ってやろうと思ったんだ。
クソエルフとおっさんは気に入らねぇが、アテナだけでもパーティーにいる価値はあるからな。
オレがスターダストに入ってから一か月が経った。
相変わらずアテナは鈍臭ぇけど、最初のころよりは大分マシになった。ていうか、成長速度が半端ねぇ。まだまだオレには遠く及ばねぇが、このまま成長すればオレに追いつくだろうな。
ただ、スターダストの評価は地に堕ち、冒険者どもからは散々罵られる。
最初は期待されていたんだが、中級に手こずっていることを知られたら手のひら返すように酷評された。
腰巾着のエストを抜いて、問題児のオレを入れたスターダストは落ち目だってな。
アテナが強かったのも、全部エストのお蔭だって影で言いやがる。
それに対し、エストは評価が爆上がりした。
どうやら付与魔術を自分にもかけられるようになったらしく、一人で中級の迷宮を攻略しているらしい。噂によればゴールドランクともタメを張れるだとか。
エストの評価が上がるにつれ、こんな話題がよく出るようになった。
「スターダストは馬鹿だよな。有能なエストを追い出して、力が強いだけの無能なフレイを仲間に入れたんだからよ。笑っちまうぜ」
オレがあの腰巾着と比較されたんだ。
しかもオレの方が下に見られてる。すんげー腹が立ったぜ。ただ、結果だけを見れば文句の言いようがねえ。オレはなんとか我慢して耐えた。
ただ、久しぶりにエストの野郎と喋った時はやっぱり腹が立ったぜ。
アイテムを換金していたらあいつが来て、イキり散らかしてきやがったんだ。
マジで調子に乗ってやがる。
ただ、リーダーのアテナが何も言い返さないからオレも歯を食いしばって耐えた。
この世は弱肉強食。
弱い奴は強い奴に何も言えないんだ。
だが覚えておけよ腰巾着。この借りは絶対返してやるからな。
気合が入ったのはオレだけではなく、アテナもそうだった。
オレたちがいつものように言い合っていた時、ダルのおっさんが文句を言ってきやがった。
ンで、クドクドと説教をしてきやがる。
(うるせぇな、強くなろうとしない雑魚が一丁前に説教してんじゃねえよ)
面倒くさかったオレはいつものように聞き流そうとしたんだが、今回はオレを馬鹿にしてきやがったから流石にブチ切れた。
けどおっさんも珍しく引かず、強い声音でオレに言ってきた。それも全部正論っぽいから、何も言い返せなくなる。
これだから大人は嫌なんだ。
雑魚で何もできねぇくせに口だけは達者なんだからよ。ドラゴンヘッドの奴等もみんなそうだった。
嫌気がさしてきたオレに、おっさんは勝負を持ち掛けてきやがった。
オレとアテナ、おっさんとミリアリアのタッグでのタイムアタックだ。
勝負と聞いて、オレはさらに賭けを持ちかけた。その賭けにおっさんは乗った。
よっしゃ、これでもうこいつらはオレに指図ができなくなる。
今度こそ自由にやらせてもらうぜ。
そう喜んで、勝負は受けた。
が、結果は惨敗だった。
「嘘だろ……」
オレとアテナも結構早かったんだが、おっさんとミリアリアは一瞬でモンスターを蹴散らした。でもそれは、ミリアリアが中級魔術を使ったお蔭だ。おっさんの力じゃねえ。
納得ができず吠えると、おっさんは虫けらでも見るような冷たい眼差しでオレが負けた敗因を説いてくる。
ぐうの音も出なかった。
おっさんが言ってることは何一つ間違っちゃいなかったからだ。
だけど……それでも納得することができねぇ。
悔しくて叫び声を上げると、おっさんはため息をついてオレにチャンスを与えた。
一対一の勝負。しかも、剣を使わず素手で戦ってやるとのたまいやがった。
舐めんじゃねえとブチ切れたが、負けは負けだ。オレは勝負に乗らなかった。
するとおっさんは煽り散らかしてきたので、ムカついたオレは簡単に勝負に乗った。
いいだろう。
そこまで虚仮にされて黙っていられっか。
全力でぶっ殺してやる。
「さあ、どこからでもかかってこいよ」
「ぶっ殺す」
両手を広げて隙だらけのおっさんに肉薄し、顔面を殴り飛ばしてやろうと拳を放つ。
だがオレの拳打はいとも容易く避けられ、訳もわからず投げ飛ばされていた。
「がはッ!!」
背中を叩きつけられ、無理矢理息を吐き出される。
その間に身体をうつ伏せにされ、オレの背中にのしかかり、左腕を捻り上げられた。
(クソ、なんだこれ!? 暴れようとしても力が出ねぇぞ!? 痛っ!?)
暴れようとすると左腕を捻られ、激痛が走る。
何がどうなっているか分からず困惑していると、おっさんが軽い口調で上から話してくる。
「今はお前の口から参ったって言葉が聞きたい」
クソ……クソ!!
言いたくなかった。こんな野郎に負けを認めたくなんてなかった。
だけどもう、ここから挽回する手立てはどこにもねぇ。
完璧に負けたんだ。
オレは歯を食いしばりながら、降参した。
「ま……参ったッ」
「良い子だ」
クソったれ……クソったれが!!
なんでこんな奴にオレは!?
なんなんだよこのおっさんは!!
頭の中で怒りが悔しさが爆発していると、おっさんは不意にオレの耳元でこう言ってきた。
「俺はおっさんじゃなくて、お兄さんだから」
そう言うと、おっさん……ダルはオレの背中から退いた。
だけどオレは、悔しさですぐに立ち上がることができなかった。
ていうか、なんでかわかんねえけど目から涙が出てくる。
拭いても拭いても全然止まらねぇ。
クソ……なんでだよ。なんで涙が止まんねぇんだよ!?
それだけオレは悔しかったんだ。
言い訳もできないほど負けたことが。
(この負けは絶対忘れねぇ!!)
なにをどうやったのか知らねえけど、いつかまた挑戦してやる。
そんで今度は必ず、あのムカつく顔に拳を叩き込んでやるからな。
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