14 フレイ(中編)
冒険者になったオレは、一人で初級の迷宮に挑んでいた。
正直言うと、拍子抜けもいいところだぜ。
モンスターはスライムだ、ゴブリンだ、オークだと、雑魚モンスターしかいなかったんだからな。そんな雑魚共がいくら束になったってオレの敵じゃなかった。
これなら村の外にいる野生の動物やモンスターの方がよっぽど強かったぜ。
迷宮の中にはトラップとか面倒臭ぇものもあったが、オレはそういうのを何となく本能で嗅ぎ分けることができたし、“そいつ”に色々教えてもらっていたから対処も楽勝だった。
一つだけ良かったといえば、力を思う存分振るえることができた。
モンスターを蹴散らすのは悪くない気分だったんだ。
すぐに最下層まで潜って、迷宮の主ってやつと戦った。
こいつは結構歯ごたえがあって、オレもちょっとは焦ったり傷を負ったりしたけど、倒すことができた。
迷宮の主を倒したってことが冒険者の中で広まると、オレの名前をちらほら耳にすることが多くなる。
別に悪口を言ってるわけじゃなかったから、イラつくことはなかった。というか、村の連中みたいに認められた気がして気持ち良くなってたんだ。
それからオレは中級の迷宮に挑戦した。
流石に中級のモンスターは初級よりも歯ごたえがあって、中々思う通りにはいかねぇ。
だけど強くなれるために何度も挑戦した。
そんなことを続けている内に冒険者になって半年が経った頃、オレは前に喧嘩で負けた奴にパーティーに加わらないかと誘いを受ける。
「少しはやるようになったじゃないか。お前さえよければ、俺たちのパーティーに入らないか」
「あん? まぁ……どうしてもって言うなら入ってやってもいいぜ」
群がるのはあまり乗り気じゃなかったが、冒険者ってのはパーティーで活動するのが常識だし、オレを負かした奴のところなら入ってもいいと思い、誘いを受けた。
それに、そのパーティーは竜人族だけしかいねぇってのが決め手だったな。同族なら多少は気心も知れるってもんだろ。
オレが入ったパーティーはドラゴンヘッド。シルバーランクのパーティーだ。
リーダーはオレを負かした大男で、シシドって名前だ。
シシドは頭一つ抜けて強ぇけど、他の奴はオレと実力が大して変わらねぇ。これならすぐにパーティーの中でも上にいけるとほくそ笑んだ。
ただ、パーティーで戦うってのはオレの性に合わなかった。
連携ってなんだよ。なんで好き勝手戦っちゃダメなんだよ。
オレのせいにすんなよ。テメエらがノロマなだけじゃねえか。
すぐに文句を言ってくるし、自分のミスをオレのせいにしてくるし。
ふざけんなっての。
これなら一人で戦った方がマシだぜ。
パーティーでの戦いに嫌気がしたんだが、数がいるから攻略は思いのほか順調に進んでいた。
だからこう考えるようにしたんだ。
他のザコ共はオレを強くさせるための道具。強いモンスターと戦うための駒だってな。
そう考えると、ちょっとはオレも遠慮をするようになった。
あんまりにもドン臭ぇ時はムカついて横から割って入ったが、極力は無視する。シシドに一々注意されるのも癪だったからな。
そんな風に騙し騙しやっていると、オレは冒険者の間で【暴竜】って呼ばれるようになった。
ンだよ勝手に人を変な名前で呼ぶんじゃねえと文句を言ってやったが、どうやら二つ名ってやつは強い冒険者にしかつけられねぇそうだ。
そう思うと、別に悪くなぇかもなって思った。我ながら単純だとは思ったけどよ。
まぁ【暴竜】ってのは強いと同時に暴れ回る問題児って意味もあったらしいんだが。それも間違っちゃいねぇからどうでも良かった。
自分が問題児なのは知ってるからな。
でも、そんなことはどうでもいいんだ。
オレが十五歳になった頃、あいつが現れた。
「おっ、アテナだ」
「冒険者のくせして貴族みたいに気品ある女だよな」
「あんだけ別嬪で凄まじく強ぇんだぜ、信じらんねぇよ」
「冒険者になってすぐに初級の迷宮を踏破したしな。そんでもう中級の中層まで攻略してんだぜ」
「噂によると【金華】って二つ名で呼ばれてるらしいぞ」
その女の名前はアテナ。
金色の長髪で、空色の瞳。オレが今まで見た中で一番整った顔をしている。
身体中からキラキラしてるオーラが溢れ出している変な女だ。
初めて見た時はあんな華奢な女が冒険者やれんのかよって目を疑った。貴族の娘や踊り子って言われた方が信じられる。
だけどアテナは強かった。マジで強かった。
初めてあいつが戦っているところを見た時、全身が震えたぜ。
攻撃を掠らせることもせず、躍るように剣を舞ってモンスターを屠る姿は、【金華】と呼ぶに相応しい奴だと感じた。
アテナの出現に、オレは歓喜する。
やっと同年代でオレと渡り合える奴が現れたんだと心の底から喜んだんだ。
それと同時に焦燥感を抱いてしまう。
アテナは尋常じゃない速度で強くなり、ドラゴンヘッドの攻略地点を抜かして、中級の迷宮主を倒しちまったんだ。
負けねぇ、あいつにだけは絶対負けたくねぇ。
オレは今よりもっと強くなろうとして、今まで抑えていたのを解き放つかのように暴れ回った。
けどドラゴンヘッドの連中はそれが気に食わなかったんだ。
奴等はオレに、「もうついていけねぇ」なんてことを抜かしてドラゴンヘッドからオレを追い出しやがったのさ。
別にいいぜ、こんな弱ぇパーティーなんてこっちから願い下げだ。
もっと強ぇパーティーんとこ入って上を目指してやる。
そう吠えて、オレはドラゴンヘッドから抜けた。
だが、オレを加入させてくれるパーティーは一つもなかった。
ゴールドランクのパーティーに売り込みに行ったんだが、オレの悪い噂を聞いていたのかにべもなく全部断られちまう。
途方に暮れ、イラついて酒を飲んでいた時、あいつから誘われた。
「フレイ、お前さえ良かったらスターダストに入らないか?」
今一番勢いに乗っているスターダストのリーダーアテナに誘われたんだ。
まさか、ライバル視してる奴から勧誘されるなんて思ってもみなかったぜ。
スターダストは四人のパーティーだ。
けどぶっちゃけて言えばアテナが強いだけのワンマンパーティーと言っていい。
エルフで魔術師のミリアリアはそこそこやるらしいが、良い評価は聞いたことがねぇ。
ダルっていう左頬に傷がついたおっさんも大したことねぇ戦士だ。っていうかこいつのことはオレも知っていた。パーティーも作らずずっと初級の迷宮でせこせこ小銭を稼いで、安酒を飲んでいる“終わってる奴”だ。
どうしてアテナがあのおっさんを誘ったのかが全く理解できねえぐらいどうしようもねぇ奴だ。
そんで問題なのは、付与術師のエストっていうガキだ。こいつの名前はよく耳にしている。悪い方の噂だけどな。
付与魔術を他人にかけて後は何もせず雑用ばっかりする使えない奴。アテナの腰巾着とか金魚のフンとか言われて馬鹿にされてっけど、その通りだと思うぜ。アテナはなんであのガキをパーティーに入れておくんだって周りの冒険者どもが揶揄していたが、オレもそう思う。
メンツを見るからに、アテナのワンマンパーティーなのは間違いねえ。
けどまあ、誘われたんだし折角だから一度ぐらい試しに入ってやってもいいか。
それにアテナなら、オレの全力にもついてこられそうだしよ。
そう考えて、オレはアテナの誘いに乗った。
「いいぜ、入ってやろうじゃねえか」
「ありがとう。よろしく頼む」
こうして、オレはスターダストに加入したんだ。
本日はもう一話投稿予定です!