13 フレイ(前編)
オレはフレイ。
誇り高き竜人族だ。
竜人族の村に生まれたオレは、ガキの頃から喧嘩ばっかりしていた。
力を持て余していたんだろうな。とにかく暴れたくて仕方なかったんだ。
同年代じゃ相手にならず、歳が上のやつらにも喧嘩を吹っかけていた。時には大人数に囲まれたりしたが、それでもオレの遊び相手にもならなかったぜ。
いや……大人でさえオレに勝てる奴はいなかったんだ。
そんな喧嘩の日々を送っていると、いつしかオレは村で悪童と呼ばれるようになる。
別にどれだけ蔑まれようとどうでも良かった。喧嘩さえできれば何でもよかったんだ。
しかし、とうとう村の中でオレの相手になる奴はいなくなった。
オレは満足するどころか、不満を抱えていた。
もっと戦いたい。もっと力を発散させたい。思いっきり暴れたい。
こんなんじゃ収まんねーんだよ。
もっとオレを楽しませてくれよ。
暴れさせてくれよ。
おもいっきり力を振るいたいと渇望していた時、冒険者ってやつをやっていた竜人族が村に帰ってきた。
オレは“そいつ”に勝負を挑んだ。
けど、全く歯が立たずコテンパンにされちまった。
初めて誰かに負けた。
だけど凄く嬉しかった。
自分の本気を受け止めてくれて楽しかったんだ。
それからオレは、毎日そいつに勝負を挑んだ。
倒されても倒されても、オレはそいつに挑み続けた。
楽しかったんだよ。手加減されていることも負け続けたことも死ぬほど悔しいけど、それ以上に楽しくて仕方なかったんだ。
そんな風にしている間に、オレはそいつとも仲良くなった。
村の外の世界のことや、冒険者がどんなことをしているのかを教えてもらった。
外の世界は竜人族以外の奴が沢山いて、見たこともない生き物やモンスターが山ほどいるらしい。
冒険者はモンスターを狩ったり、迷宮って場所でお宝を探したり、人の役に立つ仕事をする奴のことを言うんだそうだ。
あと冒険者の中には、そいつよりも強い奴がわんさかいるんだってよ。
それを聞いた時は、心の底から叫んだぜ。
オレでも敵わないそいつよりも、もっと強い奴がたっくさんいるんだからな。
冒険者と戦ってみてぇ。強いモンスターと戦いてぇ。
そいつに話を聞いた時から、オレは絶対に冒険者になることを決意した。
そいつに冒険者になることを伝えると、そいつは色々なことを教えてくれた。
魔術のやり方、冒険者としての必要なスキル、苦手な算術だって頑張って少しずつ覚えた。
村から少し外に出て、野良のモンスターとも一杯戦った。
死ぬかもしれないと思った瞬間は何度かあったけど、全然恐くはなかった。
死の危険が降りかかるたび、竜人としての血と本能がさらにオレを強くさせるからだ。
モンスターの肉や皮を村に持って帰ると、村人から有り難がられた。
手に負えない悪童って呼ばれていたこのオレが、人から感謝されるようになったんだ。
信じられなかったぜ。
どいつもこいつも、俺のことを凄いやつだって褒めてくるんだからな。
少しだけ嬉しく感じたと同時に、俺は気付いたんだ。
強くなればなるほど、周りはオレのことを認める。もてはやす。従う。
強さこそ真理なんだってな。
この世は弱肉強食。
強い奴が偉くて、弱い奴は偉くない。
それに気付いたオレは、ますます強さを求めた。
十四歳になった時、ついにオレはそいつに勝つことができた。
もうお前に教えることは何もない。外の世界を経験してこい。
そう言われ、オレは冒険者になるために十四年間育った村を出たのだった。
◇◆◇
「へぇ~、ここが冒険者が集まるギルドってところかい。強そうな奴がわんさかいるじゃねえか」
オレは村から一番近い、迷宮がある都市にやってきていた。
そんで早速冒険者ギルドってところにやってきて、登録だとか面倒なことを済まして冒険者になる。
冒険者になった瞬間、オレはその辺の冒険者に片っ端から喧嘩を吹っかけた。冒険者は俺が思っていたよりも口だけで大したことなく、どいつもこいつも歯ごたえがなかった。
ンだよ、この程度なのかよ……。
弱い奴ばかりで相手にならず、すでに幻滅していた。
そんな時に、あいつが現れたんだ。
「おーおー、随分とイキがいい奴がいるなー。どれ、今度は俺と相手をしてくれないか」
「ンだテメエ、同族かよ。いいぜ、ボコってやるよ」
オレの喧嘩を買って出たのは、竜人族のガタイが良いおっさんだった。
同族と喧嘩できると知ったオレは嬉しくてはりきったが、相手にならず負けちまった。
「はっはっは、恐るべき身体能力だな。だがまだ甘いぞ! 約束だ、もう二度と他の冒険者に喧嘩を吹っかけるなよ」
「ちっ、わーったよ」
この世は弱肉強食。
敗者は大人しく強者に従うしかねえ。だからオレはむやみやたらに冒険者と喧嘩をするのはやめた。
というか、オレはギルドにボロクソに怒られた。ギルド内での私闘は禁止らしい。今回は初めてだから厳重注意で済んだが、次にやったら冒険者の登録を抹消されちまうそうだ。
それだけはやめて欲しい。
冒険者じゃなくなると色々と不便になっちまう。
他の国に行く手続きとか面倒になるし、モンスターの素材とかを換金してもらえなくなる。闇の換金場所とかもあるが、すんげーぼったくられるらしいから絶対嫌だ。
だからオレは、せめてギルド内では喧嘩をしないように心に決めた。
だけど諦めたわけじゃねえ。もっと強くなって次こそあいつに勝ってやる。




