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12 お兄さん

 


「ルールはさっきも言った通りタイムアタックだ。時間を図るのはこの懐中時計を使う。秒針が12になってからスタートだ。記録するやつはちゃんと針が何周しているか覚えておくこと。いいな」


「いいぜ」


「分かった」


 手に持っている懐中時計を見せながら説明すると、アテナとフレイは首を縦に振った。


「先行はお前らにくれてやる。ほら、待ってましたと言わんばかりにモンスターが来てくれたぜ」


 少し離れたところからモンスターが五体、ぞろぞろと群れを成してやってきた。

 まぁあのくらいのモンスターならアテナとフレイだけでも十分だろ。

 索敵したところ、他のモンスターもいねえようだしな。


「準備はいいか」


「「ああ」」


「よし、じゃあ行くぜ。よ~い…………ドン!!」


 開始の合図を宣言した瞬間、二人は疾風の如くモンスターに駆けて行った。

 それを眺めつつ、俺は横にいる寝起きのミリアリアに謝った。


「悪いな、面倒臭ぇことに巻き込んじまってよ」


「別に。アテナが楽しそうにしてたから我慢してたけど、フレイは調子に乗り過ぎ。アタシもムカついてた」


「だろうな。お前にしてはよく我慢してた方だと思ってたぜ。てことは、協力してくれるってことでいいんだよな」


「いいよ。フレイの鼻を叩き折ってあげる」


 お~怖いねぇ。

 でもミリアリアがやる気になってくれたのは僥倖だったな。今回の勝負はこいつが鍵を握ってるし。


「オラァ、二体目ェ!! おいアテナ、もっと本気出せや!!」


「私は全力でやってる!!」


 かっ飛ばしてんなぁ。

 やっぱフレイ強ぇわ。アテナがやっと一体倒している間に、二体倒して三体目に取り掛かっている。あいつのスピードとパワーは抜きん出てるものがあるな。


 戦い方が雑で荒く、もったいない箇所が多すぎるけど。もっと上手くやれんだろーによ。

 あれじゃあガキの喧嘩と同じじゃねえか。


「まだやってんのか!? もういいオレがやる」


「お前またッ」


 三体目を倒したフレイが、二体目のモンスターと戦っている最中のアテナに割って入る。

 アテナはトドメを刺す攻撃を中断し、フレイに明け渡した。


「しゃあ終わったぜ! どうだおっさん、どれくらいかかった!?」


「針が周ったのは一周半ちょっとってところか。おまけで一周半にしてやるよ。まっ、結構早いペースだったんじゃないか」


「ちっ、アテナが手こずらなけりゃもっと早く倒せたのによ。まっいいか。今度はおっさんたちの番だぜ」


 不満気な文句を漏らすフレイ。

 お前が邪魔しなければもう少しタイムも縮めたんだがな。まあ、今は言わないでおこう。


 俺はアテナに懐中時計を渡し、索敵を行って同じレベルのモンスターを探す。

 モンスターがいるところに近づき、フレイに確認を取った。


「あのモンスターでいいか? 終わった後にレベルが違うと文句を言われたら敵わねぇからな」


「問題ねえよ。さっさと始めろや」


「よし。ミリアリアは、準備はいいか?」


「いつでも」


「じゃあアテナ、合図を頼む」


 記録係を任せたアテナに頼むと、アテナは懐中時計を見つめながら、


「よ~い……ドン」


氷結魔術アイシクル・レイン


「「ギャアアアアアアアア!!?」」


 開始の合図を宣言した瞬間、ミリアリアは先端が鋭い氷のつぶてを放つ。


 氷の雨を受けたモンスターは断末魔を上げた。

 今の魔術だけで全て重傷を負い、二体は死んだだろうな。ダメージを負っている残りの二体をサクッと斬り伏せて、最後の一体はミリアリアに任せる。


「ミリアリア」


氷結魔術アイシクル・ショット


「ギャッ」


 飛来する氷の玉がモンスターの顔面に直撃し、絶命する。

 ちゃんと死んでるのを確認した俺は、アテナたちのところに戻ってタイムを尋ねた。


「時間は?」


「は……半分も回っていなかった」


 記録していたアテナが驚愕しながら時間を伝えてくる。

 まあ、上々といったところかね。

 俺は剣を肩に乗せながら、フレイに身体を向けて言い放った。


「俺たちの勝ちだな」


「なっ……卑怯じゃねえか!? やったのは全部ミリアリアの力だろーが。テメエはおこぼれを貰ったにすぎねぇ!! それに、ミリアリアが使ったのは中級魔術だろ!? あんな魔術使えることなんてオレは知らねぇぞ!!」


 身体を震わせ、鬼のような剣幕でまくし立てるフレイ。

 結果が気に入らないからとギャーギャー喚き散らすお子様に、俺は大人の対応を取る。


「俺は勝負内容を提示した。お前はそれを疑いもせず、自分なら余裕という驕りから引き受けた。なのにどうして言い掛かりをつけられるんだ?」


「そ……それは! このクソエルフが中級魔術を使えるなんて知らなかったからッ」


「知らなかったんじゃない。“知ろうとしなかったんだろ”?」


「――ッ!?」


 図星なのか、目を見開かせるフレイに俺は続けて言葉を放つ。


「お前はスターダストに入ってから、一度も俺たちのことを知ろうとしなかった。強いところを見せつけたかったのか、俺が俺がと自分を目立たせようとばかりしていたな。

 その癖、自分が連携の邪魔をしているのに俺とミリアリアをサボり魔だとか雑魚だとか抜かしやがる。今回のお前の敗因は、俺たちの力を見誤り、自分の力を過信して勝負を引き受けたことなんだよ」


「……ぐっ!」


「もう一つ言っておいてやる。お前は時間を気にして全力を出していたけど、俺たちは余力を残すことを意識して戦った。何故だか分かるか?」


「……ンなもん知らねぇよ!」


「“この後”のことを想定していたからだ。迷宮は何が起こるか分からない怪物だ。倒した後、モンスターの大群が流れ込んでくるかもしれない。強敵が襲ってくるかもしれない。そういう事を頭の片隅に入れておくんだよ。

 お前は回復薬を使えばいいと思ってるんだろうが、もし回復薬が尽きていたらどうする? 壊れていたらどうする? そういったアクシデントを常に想定して戦えって言ってんだよ。馬鹿の一つ覚えに全力を出せばいいってもんじゃねえんだ」


「クソッ……クソッたれがああああああ!!」


 俺が言ったことは理解できているのだろう。

 だからフレイは言い返すことができず、地面ものに当たるしかなく叫びながら拳を叩きつけている。


 これで連携の必要性は少しだけでも理解してくれると思う。

 ただ、納得はできねえだろうな。

 だからもう少しだけ付き合ってやるよ。


「ただこれじゃあ納得できねぇだろ。俺もちっとばかし大人げないことをしたって自覚があるしな。だからこういうのはどうだ? 

 今度は一対一で勝負しようじゃねえか。それも、お前が得意な格闘戦にしてやるよ。流石にここまでされて負けたら、お前も納得するだろ」


 肩に背負っている剣を地面に放り投げながら、ひれ伏しているフレイにチャンスを与える


 フレイは顔を上げた。その目にはまだ力強さが残っている。

 そうでなきゃ面白くねえ。その反骨精神はお前をきっと強くさせる。


「舐めてんのか? テメエが素手でオレに勝てるわけねーだろーが。いいよもう、この勝負はオレの負けでいい」


「おいおい急に大人ぶるなよつまんねーやつだな。あれか、流石に素手で負けたら言い訳のしよーがねえから逃げんのか?」


「分かった……やってやるよ。ただ、オレは本気でやるぜ。死んでも後悔すんなよ、おっさん」


 ちょろいな~フレイちゃんはよ。

 簡単な煽りで乗ってくるんだもん。今度からチョロゴンって呼んでやろうか。


「おいフレイやめろ! ダルも執拗に煽るな! 私闘なんてリーダーの私が許さん! 二人とも冷静になれ!」


「すっこんでろアテナ、ここまで虚仮にされて黙っていられっかよ。もし邪魔したらお前を殺してやる」


「心配すんなアテナ、こんなちんちくりんに俺が負けるわけねえだろ。もし負けたら街を裸で踊ってやるよ」


「ダル……お前まで……ミリアリアからもなんとか言ってくれ!」


「やらせておけば。へーきへーき、アテナが心配するようなことにはならないから」


 ミリアリアに縋るアテナだったが、レズエルフはどさくさに紛れてアテナに抱き付きながら呑気なことを言っている。

 俺は手を広げて、フレイに言ってやった。


「さあ、どこからでもかかってこいよ」


「ぶっ殺す」


 殺気を迸らせ、地面を蹴り飛ばしたフレイが肉薄してきた。


 視線は俺の顔。右拳のパンチの軌道も俺の顔。

 なんて単純で分かり易い攻撃なのだろう。

 こいつにはフェイントや駆け引きができないのか?


(確かに速えよ。それに当たれば痛いどころじゃねえんだろう)


 その歳で、これほど鋭い攻撃を繰り出せるのは称賛に価するよ。

 ただなフレイ、来ると分かっている攻撃なんてものは簡単に躱すことができるんだぜ。


 俺は身体を半身に回転することで右ストレートを躱し、フレイの右腕を両手で掴んで引っ張り、背負い投げをして地面に叩きつける。


「ガハッ!」


 衝撃によって無理矢理息を吐き出されているフレイの背中に馬乗りになり、左手でフレイの左手首を掴んで捻り上げる。


「ぐっ!?」


 一丁上がりだ。

 これでフレイはもう、身動きを取ることができない。

 いくら暴れようとしても、俺は微動だにしない。

 やっとじゃじゃ馬を手懐けられたぜ。


「クソッ、なんで動かねぇ!?」


「俺がそういう風に体重をかけているからだ。いくら暴れようとしても、身体に力が入らねぇだろ。無理して動かそうとすればぶっ壊れるし、俺がこの腕をちょいと捻れば」


「ぐあああああッ」


「激痛が走るってわけだ。さらにもう一本空いた手でお前にトドメを刺せるって寸法よ。どうだフレイ、これで納得できたか?」


 上からそう問うと、フレイは苦虫を噛み潰したような顔で、


「テメエ、何でオレの攻撃を避けられた」


「それは後でたっぷり教えてやるよ。今はお前の口から参ったって言葉が聞きたい」


 俺は顔をフレイの耳元に近づけ小声で促すと、観念したフレイは悔やしそうに宣言する。


「ま……参ったッ」


「良い子だ」


 あとな、ついでにこれだけは言わせてくれ。


「俺はおっさんじゃなくて、お兄さんだから」


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― 新着の感想 ―
拘ってる時点で、おっさんでいいのでは……w とはいえ、20歳でおっさん呼びがきついのは確かですねw
[良い点] 面白いです! 幼馴染二人はお互い頼り切っててそのままでは奮起できなかった。世界一になれない、どころかいつか死んでいたかもって。だから離れて正解だったってちゃんと読めますよ [一言] 告白す…
[気になる点] 個人的にはそれなりに楽しめてるけど、なろうの需要が、陰キャが主人公に自分を投影して満足感を得る事がほとんどだから人気でなさそう
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