11 勝負
「だーかーらーお前は何度言ったらわかるんだ!? 私が攻撃している最中に横から入ってくるなと言ってるだろ!! せめて声掛けぐらいしろ!!」
「うっせー!! テメエがチンタラやってんのが悪いんだろーが!? 悔しかったらンなザコ相手に手間取ってんじゃねーよ!!」
「仕方ないだろう!? これが私の実力なんだから!!」
「なに開き直ってんだテメエ!? だったら早く強くなれよ!!」
「お前に言われるまでもない!! フレイこそもっと協調性をもて!!」
「ああーん!? ヤんのかテメエ!?」
両手を合わせ、額をぶつけて、歯を剥き出しにしながらいがみ合う麗しき乙女たち。
今日も今日とて仲がよろしいこって。
お前らが頑張れば頑張るだけ、こっちは楽ができてありがてえよ。
「ダル、終わったら起こして」
「あいよ」
喧嘩が始まるや否や、ミリアリアは欠伸を零して地面に横になる。
んでもって三秒で寝やがった。こいつの寝つきの良さはたまに羨ましくなるぜ。
俺も寝てぇけど、流石に一人も警戒しないってのはできねえからな。
困ったもんですよ。
「ていうかよーアテナ、お前マジでその程度の実力だったのかよ。調子が悪いだけかと思ってたぜ。まぁ最初の時よりはマシになってるけどよ」
「これも何度も説明しているが、前の私はエストの付与魔術があったから強かったんだ。付与魔術がない私はこの程度なんだよ。悔しいことにな」
本人が言っている通り、【金華】と謳われるアテナの実力はエストの付与魔術ありきのものだった。それが無い今はその時よりも大分見劣りしている。
だが、アテナはすでに付与魔術が無い状態にも慣れてきている。それに加え、格上のフレイに必死についていこうとガムシャラにもがいている甲斐あってか、尋常じゃない速さで強くなっている。
中級の中層モンスターにも一人で勝てるようになっていた。
それでもまだ付与状態には及んでいないが、そう遠くない日に追いつくだろう。
問題は別にある。
(しゃーねー、かったりぃけどやってやるか)
もう少し見守ってやりたかったが、このままでは取り返しがつかなくなるからな。
アテナがフレイの実力に追いついた時、きっとフレイはパーティーのお荷物になる。
フレイみたいな奴は一度挫折したら長引くタイプだ。
折角アテナが真っすぐ伸びてイケイケな感じになっている時に、足踏みをさせたくない。
だから今のうちに、挫折させてやろう。
すんげーかったりぃけどな。
「おいフレイ、なんでお前は他人と合わせないんだよ」
外野から俺がそう問うと、フレイはガンを飛ばしてきながら、
「うっせえ!! ザコな上にサボってるやつがオレに指図すんじゃねえよ!! やる気がねぇなら引っ込んでろや!!」
「やる気を無くしてるのは誰のせいだって言ってんだよ単細胞」
「……あっ?」
俺が普段よりも真面目なトーンで告げると、フレイは怒りを鎮めてこちらを見る。
ようやく話す気になったか。
「個人プレーが悪いって言ってんじゃねえんだ。パーティーを引っ張っていくのはエースアタッカーとしての役割でもあるからな。だけどテメエがやってることは個人プレーじゃなくて単純に邪魔をしてるんだよ」
「オレが……邪魔だと?」
「ああ、大いに邪魔だ」
「オレのどこが邪魔だってんだよ、言ってみろや」
「モンスターが現れたら犬みてえに尻尾を振って突っ込むな。迷惑だ。モンスターがいるのが前だけだとは限らねぇだろ。後ろや横から挟まれたらどうする。戦力が分散するとそれだけリスクが高まるんだよ」
まだある。
「複数のモンスター相手に突っ込むな。迷惑だ。テメエが一人でやるよりミリアリアが攻撃魔術で仕留めた方が効率が良いんだよ。
それと複数と戦う場合ダメージも受けてんだろ。防御力が高いから重傷になってねえけど、確実にダメージは溜まってる。戦ってる最中は昂ってるから気付かねえが、終わったら結局回復薬を使っちまってる。勿体ねえんだよ」
まだまだある。
「アテナや俺が戦ってる時、無言で横からくんな。迷惑だ。こっちは目の前の敵に集中してんだよ。
こっちが間違ってテメエに攻撃する分はなんの問題もねえが、テメエに襲われたらたまったもんじゃねえんだよ。てか普通に邪魔」
「テンメ……言いたい放題言いや――」
フレイが逆切れしちまう前に、パンと拍手をして黙らせる。
ニヤリと口角を上げつつ、フレイに勝負を持ちかけた。
「とまぁ他にも色々言いたいことはあるけどよ、どうせお前は右から左に聞き流すんだ。だったら実際に勝負してみようじゃねーか」
「勝負だぁ? おっさんがオレに勝てると思ってんのかよ」
「んだよ、恐いなら逃げてもいいんだぜ」
耳をほじりながら煽ると、単細胞ちゃんは簡単に乗ってくれる。
「はっ、別にいいけどよ。その代わり賭けをしようぜ」
「いいねぇー、お兄さんもそういうの好きよ」
「舐めんじゃねえよ。いいかおっさん、オレが勝ったら二度とオレに指図すんじゃねぇぞ。オレは自分より弱い奴に命令されるのが大嫌いなんだよ」
「じゃあ俺が勝ったら、今後は俺の言うことに従ってもらうぜ」
「構わねぇぜ! 処女だろうがなんだろうがくれてやらぁ」
いや……そういったエロい方面で言った訳じゃないんだけど。
まあいいか、一々誤解を解くのも面倒臭ぇし。
「勝負内容はタイムアタックだ。同じ数と種類のモンスターを相手にして、より早く狩った方が勝ち。組み合わせは俺とミリアリア、フレイとアテナで勝負する。それでもいいか?」
「構わねぇけどよ、オレとおっさんだけの勝負じゃねえのか」
「これはパーティーの連携の重要性を示す勝負でもあるからな。嫌なら下りてもらっても結構だぜ」
「はっ、構わねぇって言っただろ。それにサボり魔二人がオレに勝てると思ってんのが笑えるぜ。おいアテナ、全力でやれよ。手ぇ抜いたら承知しねぇからな」
「勿論私は全力でやるが……」
よし、対決が決まった。
久しぶりに燃えてきたな。フレイも勝負になってめちゃくちゃやる気も上がってるし。後で吠え面を拝めるのが楽しみだぜ。
内心でワクワクしていると、近寄ってきたアテナが恐る恐る尋ねてくる。
「ダル、本当にいいのか? もしお前が負けたらフレイにこれからずっとこき使われるぞ。あいつは冗談の通じない奴だからな」
「大丈夫だって。それよりアテナ、フレイも言ってたけど手を抜かず本気でやれよ。遠慮なんかすんじゃねえぞ」
空色の瞳を真っすぐ見つめながら告げると、アテナは真剣な表情で頷いた。
「分かった……全力で倒させてもらう」
「ああ、楽しみにしてるぜ」