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第79話 ストーカーではない

「や! お二人さん!」


「と、透?」



 英雄とともに寝過ごし慌てて教室に駆け込んでから数時間後、放課後になり。美咲とともに校門を出たナツキを迎えたのは音無透だった。黒いパンツに白いシャツをという相も変わらず地味な服装だ。ニコニコと笑いながらこちらに手を振っている。



「あんた、どうしてここに? ま、まさかとうとうファンからストーカーにランクアップしたんじゃ……」


「ち、違うって! 暁くんに用があったんだ。ただこの地域を地図上で見るといっつも赤い点が二つ一緒に動いてたから、もしかしたら美咲ちゃんにも会えるかもなーなんて思ってたのは事実だけどね」


「そう。ならいいわ。でもウチまではついてこないでよ!」


「僕はファンだよ。アイドルの嫌がるようなことはしないさ」


「それで、透。俺に用があると言っていたが?」



 そう尋ねると透は申し訳なさそうに美咲を見やった。観の良い美咲は自分に聞かせられない話なのだろうと判断し、行ってきなさいという意味でナツキの背中を押し出すようにぺちんと叩いた。さすがに透が見ている手前、後で自宅で集合とは言うわけにもいかない。尤も、言わずとも通じているだろうという確信があったが。



「場所を変えようか」


「ああ」



〇△〇△〇



 何の店も入っていない空きテナントや、わずかな土地からも金を搾り取ってやろうという意図の見え透いた月極駐車場が並ぶ空き地。街の中心部、そして開発計画を途中で放棄された寂れた跡地のちょうど境界線。人の営みの気配がほとんどない場所までナツキを連れて来た透が徐に話し始めた。



「いやいや、ごめんよ。ちょっと他の人には聞かせにくい内容だからさ」


「構わない。……能力関連か?」


「察しが良くて助かるよ」



 ナツキは自身の手首につけているスマートウォッチを触れる。これが今の自分にとって能力者が否かを区別する唯一のアイテムだ。星詠機関(アステリズム)日本支部に入るための実技試験参加者のみが配布されている。

 自分と透の共通点は、美咲のことを抜きにすれば能力のことしかない。

 先ほどまで快晴だった空に雲がかかり始める。



「いきなりなんだけど、暁くん、能力隠してるでしょ?」



 田中ナツキの両眼は黒い。生まれついてから今日までの十四年間と少し、黒い瞳で生きてきた。能力、そんなものは本当のところ持ち合わせていない。存在するわけがないファンタジーの御伽話。だからこそ、憧れた。

 黄昏暁の右眼は赤い。憧れたところで神は自分に与えない、妄想の世界の能力(チカラ)。だったらもう、自分から掴み取ることにした。


 右の眼帯をゆっくりと外しポケットにしまう。



「ククッ、そうだ。俺こそが煉獄の代理人にして宵闇の執行者、神々の黄昏を暁へと導く者、最強にして最恐の能力者、黄昏暁だ」


「……クハハハハッ! そうか、そういうことだったのか! 通りであのお方が興味を持つわけだ!」



 ナツキの赤い眼を見て、突然、今までの透とは思えないほど高笑いし始めた透。様子が変だと感じたナツキが『おい』と声をかけるが笑いは止まない。

 数十秒経ち、涙を拭きながら透はなんとか意味のある言葉を吐き出す。 



「ハー、ハー、ハー、笑わせてもらったよ。ねえ暁くん、きみの能力がどんなものか教えてもらうことって可能かな。もちろんタダでとは言わない。好きなアイドルのコンサートチケットだって、サインだって、ううん、そんな間怠いこと言わずにカネでよかったらいくらでも払うよ。だからぜ是非とも聞かせてほしいな」


「ククッ、俺とて秘めし能力(チカラ)に迫った貴様に敬意を表して教えてやるのも吝かではないのだが、俺の右眼には封印処置が施されていてな。解除──いや解呪と称すべきか──した場合、ここら一帯がどうなるか保証できん。それに俺の眼、そこに封じられし煉獄の焔をめぐって世界各国の秘密結社が暗躍し俺にエージェントや能力者、魔術師、殺し屋を送ってきている。これ以上情報が広まって命を狙われ続けるのは、想い人と平和な生活を送る俺としては本意ではない」



 毎日のように鏡の前で赤いカラーコンタクトをつけながら似たようなことを独りでつらつらと喋っているだけあって、透に尋ねられてもすらすらと設定が口から出てきた。



「……そっか、それは残念。ま、いいや。うん、暁くん、突然変なことを言ってごめんよ。美咲ちゃんにも隠してると思って一応二人きりにさせてもらったんだ。まさかそんなにいろんなところから狙われてるなんてね」


「そ、そうか。心遣い感謝する」


「いいよいいよ。そうだ、喉乾いてない? 奢るよ。ほら、僕って大学生でしょ? バイトもしてて結構お金余ってるからさ。まあプロのアイドルやってる美咲ちゃんには負けちゃうけどね。飲み物は……了解、ブラックコーヒーね。うん、僕も同じのにしよう」



 捲し立てるように喋った透は自動販売機に向かった。

 ポケットから財布を取り出し五百円玉を入れる。



(じゃあ能力を使わざるを得ないような状況に追い込んであげるしかないよね。うん、まあでも、今日の分の能力はかなり消費しちゃったから決行は明日ってことで!)



 二人でプシュッと缶を開け、近頃巷で話題になっている美咲の新曲のミュージックビデオの話をした。飲み終えた透は用事があるからと言って立ち去り、ナツキは待たせている美咲のところへと戻った。

感想等みなさん本当にありがとうございます! 正午にもう一話投稿します。


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