表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/377

第287話 来襲ヤンデレ地雷系

「先輩、本当に海外の能力者がのこのこ飛行機に乗ってやって来るっていうんですか?」


「そりゃウチの感知系能力者が言うんだから確度は高いだろうよ。それに防犯カメラの映像からして間違いなく色付きの眼だ」


「でも日本に俺たちがいるって知ってて堂々と飛行機乗りますかね普通。降りた瞬間に袋叩きに合うことだって想像に難くないでしょう? それにチケットだってしっかり本名で買ってますし。いくら戦争してたのが何十年も前とはいえこの国のセキュリティを馬鹿にしすぎですよ」


「まあたしかになあ」



 京都国際空港の八番登場出口に視線を向けたまま壁に寄り掛かったスーツ姿の二人の男たちが会話している。十代後半程度の若い男と、三十そこそこの男。

 先輩後輩関係にある二人に共通しているのはまず第一に周囲に溶け込むためスーツを着用していることだ。型やタックがはっきりと残っているのでテーラーが見れば彼らのスーツが卸したてであることはすぐにわかるだろう。着慣れていない。

 そして第二に野球のバットケースを肩に担いでいること。黒い筒状で一メートル強はある。それから最後に、両眼に色があること。


 後輩の方は髪を短く刈り上げ背が高く溌剌としたスポーティーな青年だ。身体能力も高く聖皇への忠誠心もあり誠実な人柄で平安京では若者ながら多くの者から信頼されている。

 対して目にクマをつくり気怠そうにしている先輩の男は良く言えば落ち着き払っていて悪く言えば覇気がなかった。ポマードで七三に分けた髪が艶のある光沢を放っている先輩の男は顎髭を撫でながら言った。



「空の上じゃあ逃げ場はないし空港なら俺らに待ち伏せされる。あちらさんは何の目的でやって来たのやら」


「ネバードーン財団の手下やらフリーの雇われやらが相手なら面倒ですけど、ただ能力を発現しただけの外国の一般人が観光で入国しようとしているだけってんならラクちんですよね。話せばわかる相手ってことでしょうから。俺だって、できることならこいつは使いたくないっすもん」



 肩にかけているバットケースをとんとんと指で叩きながら強気に笑った。先輩の男はそんな後輩の姿を横目に『若いな』と心の中で苦笑いを浮かべる。

 何も馬鹿にしているわけではない。彼にも似たような青臭い時期があった。だからこそ過去の自分を見ているようでその眩しさが照れくさくもあるのだ。



「相手は三等級の能力者とはいえ数は一。なおかつ丸腰ときた。ま、俺たちの相手にはならんわな」



 腕を組んだ先輩がチラリと後輩の方を見ると『うんうん』と大きく頷いている。それがまた面白くて口角が上がる。

 先輩の男の両眼は黄色。それが示すのは四等級。後輩の青年の両眼は緑色。それが示すのは五等級。

 三等級の相手に対して自分たちの能力は格下だというのに二人の顔は揃って自信に満ちていた。バットケースの中にある金属の固さにそっと触れた先輩の男の目には覇気のない姿からは想像もできないほど強烈な勝利への確信の火が宿っている。その手には夥しい数の血豆がある。各々の血豆同士の潰れ跡に境目はなく、帯のように一つの大きな血豆となっている。


 たとえ敵が戦車だろうと斬ってやる。傷だらけの手を誇る彼らからすれば能力の等級のわずかな差などまったく取るに足らない数字の比較でしかなかった。



〇△〇△〇



 リヨン発、京都行き。

 フランスと大日本皇国を繋ぐ国際便は白い金属の翼と炎を吹き出す二本一対のエンジンを使って滞りなく着陸した。電光掲示板の時刻表が切り替わる。定刻通り空港に降り立った乗客たちは搭乗出口を抜けキャリーバッグを引いてベルトコンベアの動く歩道に乗った。


 空港から駅へと直通の通路は左右が一面ガラス張りになっていて乗り入れる飛行機や整備用自動車の様子を確認できる。

 時刻はまだ正午過ぎ。太陽は高く、通路に設けられているベンチでは家族連れが幼い息子にカツサンドを食べさせたり空港割り増し価格一本一七〇円のペットボトル茶を飲んだりしている。また別のベンチではサラリーマンが売店で買った弁当を開いていて、正午の陽気もあってか弛緩した空気が流れている。

 

 キャリーケースのタイヤ音を吸収する目的で床は一面カーペット張りだ。動く歩道から降りた乗客は電光掲示板を見上げて自分が乗りたい電車やモノレールのホームを探している。

 大半の乗客は重たい荷物を持っているだけあって動く歩道に乗っていたのだが、ただ一人、その横を自分の足ですたすたと歩いている者がいた。


 底の分厚いブーツのヒールがカーペットに一歩ずつ沈む。そのサイズで足りるのかと見た者が不思議に感じるほど小さなキャリーバッグはむしろファッションの目的で持っているに過ぎないと言われる方がまだ納得できた。

 若い。幼さすらも残っている。それがすれ違う人たちの彼女への第一印象だった。同時に、誰もかれもが視線を引っ張られる。女性は彼女の一人旅を心配そうに。男性は彼女の可愛らしい容姿に鼻の下を伸ばし。


 背はさほど高くない。でも胸は大きい。フリルのついた薄いピンク色のブラウスに、肩紐付きの黒いサロペットスカート。二本の肩紐に挟まれる形でブラウスの生地がはち切れそうなほど大きさを主張している。ブラウスの首元に結ばれている黒いリボンは首に引っかかっているというより胸の上半分に乗っかっているようだ。大きいだけでなく形まで整っている。


 何より人々の目を引いたのは髪だろう。膝のあたりまである金髪のツインテールはゆるやかにウェーブがかかっていて、ところどころ黒いインナーカラーが入っている。

 透明感のある青い蝶のアクセサリーが施されたヘアゴムで結われた両側の髪束はブラックとゴールドのまだら模様を描き、派手さの中に落ち着きある気品を湛えている。


 そんな彼女の行く手を二名のスーツ姿の男が遮った。二人とも細長いバットケースを背負っており通りすがる者たちは野球関係者だろうかと眺めている。

 言うまでもなく彼らは空港で二時間待機していた平安京授刀衛の先輩後輩コンビである。まず後輩が爽やかな笑顔とともに一歩近づいて尋ねた。



「俺たちは大日本皇国の異能力者機関、授刀衛に所属する者です。揚羽ノワールさん、日本国外の能力者であるあなたに今回の渡航理由を伺っても?」


「ええー? 別に大した用事じゃありませんよぅ。乙女の秘密です」



 赤いアイシャドウを塗り泣き腫らしたような眼をした少女が男に上目遣いをしながら返答した。身体を動かす度にゆさゆさと揺れる乳を見て顔を赤くしながら若い男が続けた。



「わ、我が国では能力者は授刀衛の下で徹底的に管理されることとなっています。もちろん自由に行動しても構いませんが、金融機関の口座監視、および位置情報システム付き発信機の携帯などが義務づけられ……」



 二人組のもう片方である先輩の男は少女相手にたじろぐ後輩の姿に『やっぱり若いな』と今日何度目かになる感想を抱く。もっと堂々と振る舞えばいいものを、少女の可憐さや胸元の色気にあてられてすっかり強張っている様子だ。自分はあなたに動揺しています、と伝えているも同然。小悪魔相手に弱みを見せれば付け入られるのは必至である。

 こりゃ典型的な地雷系だな。先輩の男は最近ネットニュースで見かけた言葉を頭の中で浮かべた。



「それはちょっとぉ、私、困っちゃいます。だって私、私、好きな男の子に会いに行くんですから。私が彼を監視することはあっても誰かが私を監視するなんて、そんなのはナシ! ですよ。それともお兄さん、私のこと興味津々系ですかぁ?」


「そ、そういうことではなくてだね……」



 揺れる乳房をガン見して顔を赤くしつつも職務を果たそうとする健気な後輩。見兼ねて先輩の男が後ろから口を挟む。



「従ってもらえないなら強引な手を使わないといけなくなる。こっちも荒っぽいことはあんまりしたくないんだ。特にきみみたいな幼い女の子にはね。わかるだろう? きみは馬鹿じゃないはずだ」



 少女は身体の後ろで手を組み、その場でくるくる愉快そうに回っている。それからピタリと止まって二人をじっと見つめた。



「ふーん。お兄さんたち、私の邪魔するんだ」



 その紫色の両眼は、淡く光っている。



「おい! 抜刀と能力使用を許可!」


「は、はい!」



 先輩の男の判断は早かった。すぐさま後輩に向かって指示を出す。後輩はバットケースを破るようにして中から日本刀を抜いた。バットケースはカモフラージュだ。バットなんて最初から入っちゃいない。

 深い銀色の刃に浮かぶギラつく波の紋が本物の真剣であることをありありと示している。人の命を容易に奪い得る色である。と、同時に後輩自身も自分の能力をすぐ使えるように緑色の両眼を淡く光らせた。


 同じく先輩の男もバットケースから刀を抜く。彼らは身に宿す特異な能力以上にその手に握る刀とそれを振るう腕前にこそ信を置いている。『信』とは日ノ本に生れ落ちたことへの誇りという抽象的な概念に終始しない。

 なぜ聖皇は銃火器全盛の二十一世紀において平安京で能力者組織に帯刀を義務付けているのか。聖皇に直接会ったことのない二人とて聞き及ぶに過ぎない話だが、だからこそ客観的かつ合理的な理由を知っている。その『理』にこそ信を置いている。


 曰く、能力とは状況との相性である。どんなに強い能力も攻撃力に難があれば補う必要がある。どんなに強い銃火器も弾切れをおこせば丸腰になる。

 しかし剣術は違う。攻撃に役立たない能力者に敵の命を奪う手段の選択肢を与え、仮に丸裸で敵地に置かれても近くの棒きれや廃材を拾って一騎当千に化けることができる。


 時間停止というそれ自体に攻撃力を持たない能力で地球を守る戦いを続けてきた聖皇の──時任聖という少女の──経験則であり、そこに含まれる冷徹な強さへつながる合理性は戦場という非情な世界で授刀衛の面々の心の支えとなっていた。


 まず、後輩の青年が動いた。少女の能力はわからない。少女の素性もわからない。ひとまず峰打ちで意識を奪ってから拘束しよう。そう決めて動き出した彼の姿は少女の背後にあった。


 彼の能力は高速移動。直線運動に限って自身の肉体を亜音速で移動させる。ただ五等級ということもあって制約も多い。身体全体が能力の対象なのでパンチやキックのときに腕だけ、脚だけ、と部分的に発動することはできない。さらに能力の射程はわずかに二メートル程度。一呼吸を挟まなければ連発できず、五、六回も連続使用すれば水分補給が必要になるくらい疲弊する。


 しかし少女の背後を取るにはそれだけで充分だった。まず能力を用いてガラス張りの壁に高速移動し、続いて持ち前の脚力で壁を蹴る。能力と運動神経を併用したこの二段移動によって正面から向かい合っていた少女の背後を位置取ることができたのだ。

 腰を落とす。峰を当てたいので鞘を握る左手首は半分返しておく。そして柄に右手をかけて、抜刀。稲光のような(またた)きのモーションで少女の胴へと剣筋が走る。


 ねらいは肋骨だ。肋骨は肺に近いので痛めると運動機能を低下させる。つまり逃げられる心配が減る。そして恐れ知らずな若い後輩の青年は一瞬の鈍痛で意識を刈り取ることもできるという自信があった。それに最悪、肋骨骨折くらいならすぐ治療してやれる。美しい少女を傷つけるのは忍びないが抵抗されるのも困る。実益も心情も同時に満たす百点満点な剣閃。


 そうして振るわれた後輩の刀は、しかしピタリとその動きを停止した。少女が何かした? 違う。彼が自分の意思で剣の動きを止めたのだ。



「だめ! このお姉ちゃんを傷つけちゃだめ!」



 さっきまでベンチでカツサンドを食べていた家族連れの一人息子が少女を守るように、日本刀という命を奪う暴力を遮るように両腕を広げて立っている。

 なまじ後輩の青年に剣の技量があることが災いした。彼に実力が不足していれば寸止めなどできず幼い男の子もろとも少女を叩きのめしていただろう。だが、市井を傷つけまいとする彼の高潔な心意気とそれを可能にしてしまう腕前が咄嗟の事態に対処できてしまった。



(そんな、どうして能力者でもない未就学男児が邪魔を……)



 後輩の青年は若かった。少女を守るために現れたこの小さな男の子もまた少女のグルだと考えたのだ。甘い。そして浅い。先輩の男が叫ぶ。



「バカ野郎! そのガキは能力で操られているだけだ!」



 少女は振り向きざま、何か短くて鋭利な刃物を振るう。



「先にそんなものを向けたのはそっちなんですから、私は悪くありませーん」



 それが家庭用の包丁であることまで、後輩の青年は目で追えていた。大した動体視力である。しかし、身体は動かない。高速移動の能力だって一呼吸置かないと連発できない。


 少女が薙ぎ払うように軽く振った包丁の切っ先が後輩の青年の両方の眼球を真横に傷つける。視界が真っ赤に染まる。続いて、永遠の暗闇となる。



「ぐあぁあっぁぁぁあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!!!」



 日本刀を落とし出血する両眼を手で押さえ、膝を突き、喉が異常をきたして掠れるほどに絶叫する。何も見えない。痛みしかない。思考がショートし脳は硬直する。



「おい! 大丈夫かッ!? ……チッ、このクソアマガキが」



 先輩の男は後輩を救護するより先に眼前の敵を無力化することを優先した。無情にも思えるが、ここで助けに向かって自分が倒される方がまずい。それよりも最速で少女を倒してしまう方が、結果的に後輩を助けられる確率は高い。

 残忍な敵を目の前にして的確な判断を素早くくだせたのは彼の経験値と優れた判断能力の賜物である。


 黄色い両眼に淡い光を灯し、彼もまた能力を発動する。既に抜刀状態の日本刀を両手で固く握る。銀色の刃が白熱電球のごとく暖色の発光現象を起こした。



「悪いが腕はもらっていくぜ」



 彼の能力はエネルギーの放射である。レーザー光線やビーム兵器のイメージに近い。発射熱源は自身の身体でさえあるなら任意に選択できる。たとえば、人差指からビームを放って鉄筋コンクリートのビルに穴を穿つなんてことも簡単だ。

 そして彼は長い修練の末、己の認知を拡大させることに成功していた。すなわち、彼が握る日本刀もまた彼の身体の一部である、と。血反吐を吐きながら辿り着いた己が脳への自己暗示。


 それこそが彼の辿り着いた等級で測れない能力の可能性である。刀を振ることで膨大な熱量のエネルギーを纏った剣閃を遠方へ放つことができる。平たく言えば飛ぶ斬撃である。



「せいッッ!!」



 覇気のない姿からは想像もつかない野太い声が丹田から溢れ、同時に上段に構えた刀をまっすぐ真下に振り下ろす。


……少女の腕は断裂するはずだった。断面を熱で焼け焦がせ、一滴の血さえ流さずに。


 しかし半月型の暖色の剣撃波はあらぬ方向へと逸れる。



「くそが……ッ!」



 先輩の男は床に倒れ込んでいた。さらに腰へ腕を回してくる見知らぬ男の姿がある。さっきまでベンチで売店の弁当を食べていたサラリーマンだ。上段に構えていた先輩の男の腰に、サラリーマンがアメフトよろしくダッシュでタックルをかましたのだ。

 本来なら少女の腕を斬り落としていたはずの剣閃型レーザービームは結果的に軌道を大きく外れてしまい、熱でガラス張りの壁を溶かし、さらに直進して外で整備されていた旅客用ジャンボジェットを真っ二つに両断する。

 


「ふふん。みんなね、私のことが大好きなの。だから私のお願いならなんでも聞いてくれるんですよ?」



 少女がスキップしながら近づいてくる。一歩一歩、スキップのたびにツインテールが揺れて金髪の中の黒いインナーカラーが見え隠れする。スカートやブラウスのフリルも揺れる。胸も揺れる。

 そして、揺るぎない紫色の両眼だけがじっと射抜いてくる。


 先輩の男はサラリーマンに抑え込まれて身動きが取れないが、せめてこの窮地を脱しようと指先を少女へと向ける。何も刀を使わなくたってレーザービームを放つ能力は使用できるのだ。

 苦しい姿勢なのでこのままでは少女に致命傷を与えてしまうかもしれない。それも仕方がない、と今は割り切る。このままでは自分も後輩も殺され、さらに被害は拡大するおそれがあるためだ。


 先輩の男の黄色い両眼が再び淡く光る。それを見下ろす少女が愛らしい猫なで声を浴びせかけた。



「まさか可愛い可愛い私を傷つけるようなことはしませんよねぇ?」



 先輩の男は『へ?』と間の抜けた声を上げた。気怠げだが誰より冷静で優秀、剣の腕前も能力の使い方も平安京において指折りだと謳われた男が、だ。


 理解が及ばない。

 なぜ?


(なぜ、なぜ俺は指先を自分のこめかみに当てている?)


 ピーーーーー。ポン! 高周波エネルギー特有の金切音の後、光筋が眼窩や鼻、耳から何本も漏れ出て、続いて風船のように脳髄が破裂した。ピンク色の果実の破片がべちゃりと少女のローファーに飛び散る。



「うわ、汚っ」



 ベンチで息子とカツサンドを食べていた家族の夫婦が這うように少女の足元までやって来ると、蹲った姿勢のまま彼女のローファーをペロペロと舐め始めた。脳片や血飛沫を舐め取っていく。



「さ、急いで会いに行かなくっちゃ。乙女の邁進は誰にも邪魔できないのだぁ」



 おー! と腕を可愛らしく上げて、少女は往く。時刻を確認するためスマートフォンを開く。ロック画面の壁紙をうっとりと眺めて少女はにへらと笑う。



「うふ、私の王子様。すぐに会いに行くから待っててね。は~~写真だけで胸がばくんばくん鳴っちゃってる……。うんうん、きっとそれだけ私たちを結ぶ運命の赤い糸は太くて大きいってことだよね。そうだよね。そうだよ。そうに決まってる。ねぇ、()()()()()?」



 手をそっと胸の丘に触れ、ニーハイソックスに包まれた太腿をもじもじと擦る。

 ロック画面の壁紙になっているその少年の画像はどこで盗撮されたのか街中を普通に歩いている瞬間を切り取ったものだった。季節外れのマフラーに、腕には包帯。眼帯をしているので彼を知る者が見れば撮影時期を推測することもできるだろう。


 顔を赤らめ、息遣いは荒く、鼓動が加速する。彼の画像を見つめる少女の目にはハイライトがない。


 そして、あえて言及するならば。

 彼の隣に写るレディーススーツ姿の女性は顔面をぐちゃぐちゃに黒く塗りつぶされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ