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第23話 コーヒーブレイク

「シリウス様おかしいわ。たしかに財団はあたしたちにとって最大の敵よ? でもスピカに肩入れしすぎよ。スピカ自身が自分からやるって言ったんだから手伝わなくていいはずよねえ?」


「アルタイルちゃん、きみ嫉妬してるんだね? うんうん、気持ちはわかるよ。不安になるよねえ。私も親友に嫌われたらたぶんすごく悲しいもん」



 実験室では二人の女性がビーカーでホットコーヒーを飲んでいた。どちらも揃いの黒いブレザージャケットを身に纏っている。


 一人はアルタイルという金髪で背が高くグラマラスな美女。

 国連直轄の異能力者管理機構である星詠機関(アステリズム)の中でも特に優れた者は二十一天(ウラノメトリア)と呼ばれ、ひとりひとりに星の名が冠される。アルタイルもまた二十一天(ウラノメトリア)に名を連ねるメンバーであり、先日の集まりにも参加していた。その実力の高さは彼女の青い瞳からも窺える。


 事実上のリーダーであるシリウスに対しては崇拝に近い尊敬と好意を抱いており、たびたびレグルス等の他のメンバーと衝突することもあるのだが、その代わり人一倍業務に対して熱心でもあった。スピカとは二、三しか変わらないが化粧の濃さからかなり年上に見られることも多い。


 もう一人は黒髪に黒眼のポニーテールの少女。いいや、実年齢で言えば二十五歳と、少女とは言い難いのだが、如何せん低身長で子供にしか見えない。黒ジャケットの上から地面すれすれになるほどぶかぶかな白衣を羽織っている。


 アルタイルと並んで歩いていれば年の離れた姉妹か、最悪、親子にすら見えるかもしれない。ただし西洋的な顔立のアルタイルとは違いアジア系の美少女ゆえ、実際に一緒にいても姉妹には間違われないだろう。



「嫉妬もするわよ! だってシリウス様に直々に電話されるだけでも許せないのに、彼がスピカに渡した情報を取ってきたのはこのあたしなのよ!? シリウス様に頼まれたからあたしも喜んで情報収集したのにスピカみたいな雌猫をシリウス様に近づける結果になるなんて最悪よ、サ・イ・ア・ク!」



 ダン、とビーカーをテーブルに叩きつける。コーヒーが飛び散るも、実験室だけあってテーブルにも防火・防水が施されており二人とも特に気にする様子はない。



「ハダル、あんたにもそういう敬愛する人がいるならわかるでしょ!?」


「うーん……。敬愛とはまた違うかな。敬ってるし、愛してるけどね」



 ハダルと呼ばれた黒髪黒眼の少女はニシシと笑う。

 そう、ハダル。彼女もまた星の名を与えられた二十一天(ウラノメトリア)のひとりであった。ただし、繰り返すが彼女は黒眼である。能力の強度や規模を表す「等級」は眼の色と相関関係を持つ。つまり眼の色を確認することでどれほど高位または低位の能力者であるか看破できてしまうわけだ。


 では黒い眼の等級はいくつなのか。答えは七等級。すなわち殆ど無能力者同然である。そうであるにも拘わらず優れた者として認められ二十一天(ウラノメトリア)になったハダルの異常性が垣間見える。



「それがさっき言ってた親友ってやつなの? 男?」


「ううん。女の子だよ。ダメダメな私をいつも助けてくれるとっても素敵な女の子。だから私は星詠機関(ここ)に来た。彼女の生きるこの星の平和と秩序を守るためにね」


「ふーん。あたし同性とはあんま仲良くならないからわっかんないわ」


「アルタイルちゃんは異性とも仲良くならないでしょ? この間レグルスくんがきみと口論になってイライラしたからって本部ビルの壁に大穴を開けてたよ。まあちゃんと自費で修理するあたりはやっぱりあの子は真面目だよね」


「異性とも仲良くならないっていうのは心外よ。だってあたしはシリウス様と親密になりたいもの」


「きみの場合は親密になりたいんじゃなくてシリウスくんっていう大木に寄り掛かりたいだけなんだよ。それもその大木を囲いきれないとわかっていながら腕を拡げて抱きしめて、そのくせ他の人間には触れさせたくないときた。独善的だよね。でも私はアルタイルちゃんのそういうところが意外と嫌いじゃない」


「なにそれ。意味わっかんない。うふふ、でもそうね、あんたのそういう物言いがあたしも嫌いじゃないわ。あたしが異性で付き合いがあるのはハダルだけだもの」


 ハダルは立ち上がりガラス棚からアルコールランプを取り出した。金網の台の下にランプを置きマッチで火を着ける。そして網台の上には口の細いヤカンのような形をしたコーヒーポットを乗せた。湯気が噴き出たところでビーカーに注ぎ直していく。アルタイルに対して「まだ飲む?」と視線で尋ねるが、アルタイルは首を横に振った。



「アルタイルちゃんを否定する気はないけど、対等じゃない関係にはいつかきっとガタがくるよ。特に今回みたいなことでいちいち怒っているようじゃね。でも、もしきみがシリウスくんに見捨てられて切り捨てられて使い捨てられて、そうなっても彼を愛そうっていうんなら本物かもね」


「……あたしはシリウス様にわかってもらうだけよ。捨てるのがもったいないくらいとびきりのイイ女だってね」


「都合のイイ女の間違いじゃない?」


「うふふ、そうかもね。でも都合のイイ女なりにプライドがあるのよ。だからシリウス様が星詠機関(アステリズム)の中でスピカを特別視しているのが許せない」



 ハダルとしても今回のシリウスの行動には疑問があった。彼がどうしてここまで積極的なのか。アルタイルの言う通りスピカを特別視しているというのも強ちない話じゃないかもしれない。 



「……たしかに財団が相手とはいえアルタイルちゃんを動かしてまでっていうのはやりすぎかもね……。シリウスくんは非能力者を能力者にする研究だって皆に言ったんだろう? それは脅威だけど、同じ研究者として言わせてもらうと原理的に不可能なんだ。再現性に欠ける。正確に表現するのならそれは能力の増幅だね。ゼロをイチにするんじゃなくてイチをジュウやヒャクにする」



 もちろんそれだけでも世界の秩序に亀裂を入れる可能性はあるだろう。全員でないとはいえ大勢の人間がある日突然、目に見えた形で能力者になるのだから。



「そういう理論的なのはあたしサッパリだわ。実践派なの」


「はは、違いない。ただ実践……実戦だとしても今回の件はシリウスくんが想像している以上にいとも容易く解決されるはずなんだ。スピカちゃんが特別かどうかに関係なくね。誰が送り込まれても最終的な着地点に大きな差はうまれない。だって」



 ハダルはコーヒーを注ぎ足したビーカーをクッと呷りニヤリと笑う。


 ──あの街にはこの私の弟がいるんだから。

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