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第212話 最強の五人

『イギリス全土の紳士淑女の皆さんこんばんは! 五日に渡って開催されるテクノロジーとマーシャルアーツの祭典! さぁ、選りすぐりの戦士たちは五対のトレントを撃退し、姫の呪いを解くことができるのかぁぁぁ!!?? ……って、ちょっと、一人足りてないじゃない』



 若手とは呼ばれなくなってきたがベテランというほどでもない女性アナウンサー。彼女の視聴者へのハイテンションな煽り文句は立派なものだったが、つい最後に素が漏れた。事実ナツキたちの側は四人しかいない。実況アナウンサーの声はナツキたちのいるコロシアム会場内部には聞こえていないが、一人足りていないという点ではナツキたち四人もまったく同じ感想だった。



(どうするんだ、このまま五対四で続ける気か? 星詠機関(アステリズム)の誰が手配したか知らんが全員揃えてもらわないと困るんだが……)



 などと心の中で悪態をつくナツキ。コロシアムで向かい合い整列する五人と四人。もう中継は始まっているというのにこちらは人が足りていない。

 焦りが焦りを呼びさらに余計に焦る。ナツキが言う通り最悪五対四で構わない。だが頭を抱えているのは番組プロデューサーだ。視聴者はそういう不手際にうるさい。原因が星詠機関(アステリズム)にあるとしても、クレームを受けるのはテレビ局なのだ。


 ふとナツキは端の人物、碓氷火織と目が合った。どこかで見たことがあるような……というナツキの疑問をよそに、火織は楽しそうに口をパクパク動かした。



『だ・い・じょ・う・ぶ』



 声は聞こえなかったが、口の形からしてそのように言っている。多少の読唇術の心得があるナツキはそれがわかった。何が大丈夫であると火織は言っているのだろうか。このナツキの疑問はただちに解決されることとなる。


 ドゴォォォォォォーーーーーンッッッッ!!!!


 破壊音。爆音。轟音。

 無人カメラは音のした方へと自動でピントを合わせた。それは天井。このコロシアムは完全に閉じており外の光や雨風は入らない。それなのに日光がコロシアム内に差している。天井の瓦礫が床に大量に降り注がれる。



『これは一体何の音でしょうか! 土煙のせいでこちらからは何も見えません! 現場では何が起こっているんだぁぁ!?』



 このわけのわからない状況を実況は懸命に視聴者に伝えようと試みた。そして土煙が晴れ、天井にドデカい穴があけられているのをカメラは捉えた。その穴からエンジン駆動音とプロペラ音が聞こえる。音はコロシアム内部で反響する。



『天井に穴ができています! 隕石でしょうか!? ミサイルでしょうか!? いいえ、あれは……ヘリコプターです! 小さくて見えにくいですが、コロシアムの天井上空でホバリングしているを確認しました!』



 ヘリコプターに乗っていた少女は、パイロットを務めた男に一言感謝を述べた。



「一応感謝しておくわ。ありがとう夏馬。稽古つけてくれて、そして最高速で運んでくれて」


「いいや。俺の方こそ久方ぶりの操縦で腕がなまっていたことに気がつかされた。戦士であるお前に頼みたい。戦士黄昏暁にもよろしく伝えておいてくれ」



 浅黒い肌に刈り上げた頭、筋骨隆々の腕。パイロットの男は親指を突き立てた。行ってこい、頑張れよ、と。少女は小さく頷き、ヘリコプターのドアコックを開け、そして地上五〇〇メートルからコロシアムの穴目掛けてダイブした。



〇△〇△〇



『人影です! 誰かがヘリコプターから飛び降りました! 一体何者だぁぁぁ!?』



 ナツキたちは揃って見上げた。能力によって視力を強化できる秀秋はその人物の顔を視認したが、普段からテレビを観ない彼にはそれが誰かはわからなかった。

 そしてナツキだけは、空気抵抗ではためく眩しいほどに赤い髪と抜群のスタイル、何より聞き間違えるわけがない美しい声でその人物が誰であるかを理解した。


 無人カメラは自由落下するその人物の動きに器用にも照準とピントを合わせ続けた。



『ご、ご覧ください! ヘリコプターから飛び降りて来たのは、なんと、なんと、()()()()()雲母(きらら)美咲(みさき)です!!!! なんという演出! なんというサプライズでしょう! なんと五人目は、イギリスをはじめ世界各国のヒットチャートでトップを総なめにしたミサキ・キララのようです!!!!!!!』



 盛り上がり大興奮の実況アナウンサー。そして高視聴率が取れそうな予感に思わずガッツポーズしてジャンプするプロデューサー。

 

 あわや地面に衝突、というその瞬間。美咲は歌った。優しい歌声がイギリス全土に流れた。同時に、美咲が耳から口元にかけてつけていたヘッドセットワイヤレスマイクはきちんと彼女の歌声を集音していた。そして美咲が地面に掌を向けると、衝撃波が発生し衝突の勢いを相殺した。



「クスクス、主役は一番最後に来るものよ。ファンなら待ってる時間も幸福でしょ? はいこれ、招待状」



 ベティは受け取り確認する。頷き、『五人目に承認します』と小さく呟く。さすがはアイドルと言うべきか、無人カメラをすぐに見つけてカメラ目線でウインクしている。

 燃えるような鮮やかな赤い髪をイエローのリボンで結んでツーサイドアップにしたその少女の名は雲母美咲。ナツキとともに星詠機関(アステリズム)日本支部の採用試験を戦い抜き、そして世界で活躍するトップアイドル歌手としてスターダムを駆けあがっている最中のシンデレラ・ガールである。


 互いに向かい合っているシアンたちの列とナツキたちの列に美咲も加わった。



『これにて、両陣営ともに五名の選出が完了しました! その顔ぶれはまさに多種多様! 一体彼らはどのような戦いを繰り広げるのか!? さあさあ皆さんチャンネルはそのまま! フィッシュチップスは揚げ過ぎくらいがちょうどいい! CMの間もテレビから目を離さないように!』



 無人カメラが真横から彼らを映した。手前からシアン・ネバードーン、犬塚牟田、ベティ、高宮薫、碓氷火織。相対するのは手前から黄昏暁こと田中ナツキ、スピカ、エカチェリーナ・ロマノフ、木下秀秋、雲母美咲。

 所属も国籍もバラバラな両陣営は睨み合い互いの思惑を交錯させる。

 五対五。正々堂々たる決闘の火蓋はついに切られたのだ。

フラグは第132話でした。

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