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第2話 氷雪系能力は語感がオシャレ

「昨日観たアニメまんまだったな。さっきの夢」



 昼休み。財布を手で弄びながら廊下を歩く。弁当を持ってきている者が大半のなか、ナツキのように購買のパンで済ませる生徒はこうして買いに出るのだ。

 眼帯、マフラー、包帯という出で立ちはそれだけで注目を集める。こうして毎日購買に行くため学校内を歩く都合上、彼のクラスメイトだけでなく学校全体でおかしな奴だという風に思われている。無論、ナツキ自身は他の者にどう思われても気にならないし、教員たちの注意も試験の度に学年首席を取ることで黙らせているのだが。



「ひぃぃぃぃっっっ!!」


「うん?」



 どこかから甲高い悲鳴が聞こえて来た。声の出どころは屋上へと繋がる階段だろうか。どうせパンを食べるだけでは昼休みの時間はあまるのだ。面白いものを見つけたと言わんばかりにナツキは口を吊り上げて笑い、ポケットに財布をしまって階段の方へと歩いて行った。



「おい! ヒデ! ちゃんと今週はトモダチ料もってきたんだろうな!?」


「わ、わかってるから……! 殴らないで……」


「ああ、殴んねえさ。俺たちゃトモダチだもんなあ!」


「うう……はい、これ……」


「ヒデェェッッ!! テメエ馬鹿にしてんのかァ!? ンだよ五千円って。俺たち三万だってこの間言ったよなァ? ナメてんのか?」


「そ、そんな、もうお小遣いもお年玉も残ってなくて……」


「だったらテメエのババアの財布から抜いてくりゃいいだろ! ちっとは頭使えや!」



 屋上への扉は施錠されていて生徒は入れない。そのためわざわざ屋上の扉の前の踊り場まで上がってくる生徒はおらず、こうして良くない生徒のたまり場のようになっているのだ。

 ナツキがその場に着いたとき、一人の背の低い男子生徒が三人の男子生徒に囲まれていた。その三人は学ランのボタンをひとつも閉めず、白いワイシャツではなく赤や緑といった派手な色のTシャツを着ている。腰や胸にはじゃらじゃらとシルバーアクセサリが提げられていた。

 三人の不良のうちのひとりが背の低い彼の胸倉をぐっと掴み、顔面を殴打しようと大きく腕を振りかぶった。

しかしその拳が放たれることはない。



「ククッ、三人寄れども愚者の知恵、と言ったところか。友人であることに金がかかるというならぜひとも俺と友誼の契りを交わそう。無論払うのは貴様らの方だがな」


「テ、テメエなんだコラ! 放せ!」



 背後からナツキに手首を掴まれた不良は腕を引くことさえできない。見かねた残り二人の不良が怒鳴りながらナツキに向かって殴りかかる。



「ナメてんじゃねぇぇぞッッ!!」



 ナツキは握っていた不良の手首を引っ張り、社交ダンスの要領で自分との位置関係をひっくり返す。すると当然ナツキに向かって放たれたはずのパンチは仲間の不良の顔面を打ち貫くことになる。

 ナツキは壁際に置いてある消火器をひったくり、栓を外し三人の不良にホースの狙いを定める。



「氷魔法! 白霧の(ダイアモンド・)細氷刃(ダスト)!」



 シュゴオオオオと勢いよく消火器から白い薬剤が煙とともに放たれる。



「いまのうちだ!」



 ナツキは囲まれていた背の低い男子生徒の手を引っ張って階段を駆け下りた。



「おいテメエなに俺のこと殴ってんだよ!」


「オメェがマフラー野郎にいいようにされんのがいけねんだろうが!」


「喧嘩してんじゃねえよクソがッ!」



 白煙の中から聞こえてくる不良たちの諍いにナツキは笑いが堪えられず、ついククッとこぼした。

 大半の生徒は教室で弁当を食べ、早弁した生徒は外で遊ぶ。当然昼休みが始まった直後のこの時間の廊下の人通りは少ない。ナツキは手を引いて隣の校舎まで走り抜けた。

 空き教室ばかりが並ぶ旧校舎の壁に寄り掛かり、二人してへたり込んだ。



「ふう。ここまで来れば大丈夫だろう。おい、怪我はないか?」


「う、うん。ありがとう。君はたしか……田中くんだったよね?」


「田中ナツキは現世を生きる俺の仮初の名だ。真名は黄昏暁。神々の……」


「神々の黄昏を暁へと導く者、だね!」


「そ、そうだ。よく知ってたな」


「うん。隣のクラスだけど田中くんは有名人だから。あ、黄昏くんって呼んだ方がいいかな」


「ああ、その方が助かる。ええと」


「ごめん、自己紹介がまだだったね。ボクは結城(ゆうき)英雄(ひでお)。黄昏くんと同じ二年だよ」



 英雄はにっこり笑ってそう言った。ナツキもさほど背が高い方というわけではないが、英雄はそれ以上に背が低かった。そればかりか、色素の薄い綺麗な茶髪をストレートヘアーを肩までのボブにしていて、切りそろえられた前髪とふんわりとした襟足が女子のようだ。色白な肌やぱっちりとした目鼻に変声期の兆しすらない鶯のような声も相まって、もしもセーラー服を着ていたらまず間違いなく女子だと思うだろう。



「あいつらも同じクラスなのか?」


「う、うん……。ボク英雄なんて仰々しい名前だけど見ての通り華奢だから、あいつらに目をつけられちゃって……。でもさっきの黄昏くんすごかったね! あいつら簡単に追っ払ちゃってさ! ボクも黄昏くんみたいに強くなりたいな……」


「ククッ、一朝一夕にはいかんさ。常に魔力の錬成を繰り返してこそできる芸当だからな」


「ま、魔力?」


「ククッ、なんでもない。裏の世界(こちら)事情(はなし)だ」


「そ、そう」



 英雄はハハと困ったように笑った。そして胸の前で拳を作りポカポカと空中を殴りながら言った。



「でも強くなりたいのは本当だよ。今日は黄昏くんに助けてもらったけど毎回頼るわけにもいかないし……」


「いや、心配はいらない。あいつらのことはうちの担任の空川先生に伝えておく。あの人は本当に生徒想いでいじめは絶対に許さないからな。さっきのようなことを知ったら保護者のところまで行って洗脳かってくらい改心するまで説教するぞ。それとも英雄は復讐を所望するか?」


「ううん、大丈夫。ボク、争いごとは苦手で……。それにしても意外だなあ。空川先生っていつも怖い顔してて怒ってるみたいだから冷たい人だと思ってたよ」


「ま、誰だって意外な側面があるってことだ。もしかしたら英雄にも男らしいところがあるかもしれないぞ?」


「そ、そう? ……ボクも黄昏くんみたいに強くなれるかな…………?」


「ククッ、鍛錬次第だな」


「うん! 頑張る!」



 ファイティングポーズでそう力強く宣言した英雄の小動物のような姿にナツキは思わず吹き出してしまう。あー、笑ったなあ! と冗談交じりに怒る英雄に謝りながらナツキはまだ笑っている。

 彼らは昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴るまで談笑を続けた。そして二人して、昼食を取っていないことに気が付いて顔を青ざめるのだった。


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