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第18話 倒すと書いて救うと読んで

(送られてきた資料で見たわ。行方不明になった二十人の中学生の中にたしかにこの子もいた。ということは能力を使ってくる可能性がある)



 スピカが得意とするのは水の操作だ。しかし近くに川のような水源はなく、電気すら通っていないような工場で水道が整備されているはずもない。そのような状態で能力者の可能性がある相手といきなり戦闘に入ることが不利であることに間違いはないだろう。



(だけど不利も無理も押し通して、真っ正面から打倒すのが私の美学!)



 腰を低くし学ランの少年に急接近する。相手の得物である鉄パイプの利点はリーチだ。それを無力化するには間合いを詰めるのが最適。

 相手は財団の被害者である。拉致され、身体や脳を弄繰り回されたに違いない。非能力者を能力者にする研究というのはそれだけ人類にとって禁忌の領域なのだ。財団の恐ろしさをよく知っているスピカの胸にあるのは憐憫。それ故にブレザージャケットに隠し持つ実銃を出すことはしない。


 掌底で相手の鳩尾を狙う。腕をパイルバンカーのごとき直進運動で突き出した。が、それは相手の鉄パイプに阻まれる。刀剣術ではたしかに至近距離の攻撃を防ぐ術として柄を用いるものは存在する。しかし相手が鉄パイプの柄に相当する持ち手の下部を振り下ろすスピードは防御のそれではなかった。


 巻き込まれまいとスピカは腕を引っ込める。相手は両手で杖を突くように鉄パイプを地面に叩きつけた。ドゴーンという音を立てながら工場の丈夫な地面に放射状に罅が入る。もしあのまま掌底を放っていたら手首から先を持っていかれていただろう。

砂煙が舞い、暗い視界をさらに悪くする。いいや、だからこそスピカはまず最初にそれに気が付いた。



「あなた、その眼は……」



 暗闇の中に浮かぶ二つの黄色い光。その高さ地上およそ一六〇センチメートル。人体でその位置にあるのは間違いなく(まなこ)。相手は能力を行使したのだ。黄色とはすなわち四等級。

 先ほどまで白目をむいていて意識があるのかどうかもわからなかった学ランの少年。だが今は眼全体がぼんやりと黄色くなりうっすらと光を帯びている。通常、能力者は瞳、つまり一般に黒目と呼ばれる部分に色がある。その点、白目が色付きの状態になっている相手はやはり何か後天的に手を加えられたのだろう。

 

 スピカの方をじっと見つめ、鉄パイプを持ったまま弾丸のような速度で突っ込んできた。凄まじい速度で通り過ぎていき二人の位置関係が入れ替わる。直線の移動である以上、回避自体は容易いのだ。だがスピカの背後から別の鉄パイプが気配なく襲い掛かってきた。



「そんな、新手!?」



 違う。新手ではない。風を切る音をたよりに飛び退くようにして背後からの鉄パイプも避けたスピカが目にしたのは、その鉄パイプが引き寄せられるように宙を飛んで相手の手にある鉄パイプにくっつく様だ。まるで磁石のように。



(そう、磁石。さっきから鉄パイプの威力も彼自身の移動速度も尋常じゃなく早い。ということは彼の能力の正体は磁力操作!)



 理科の実験や自宅の冷蔵庫など誰しも一度は必ず目にしたとがある磁力。普通は壁に張り付く程度だが、突き詰めれば大きなエネルギーを産出する。現に磁力のみで走行するリニアモーターカーは従来の新幹線を大きく上回る速度を出している。第一、地球という星自体、極があり磁力をもつのだ。磁力によって鉄パイプ程度のものを動かすなど造作もない。

 彼自身が動いているというよりも、磁力によって工場内の金属と引き付けあう鉄パイプを握ることでそれに引っ張られながら移動しているとスピカは推察した。


 くっついた二本の鉄パイプをいとも簡単に引きはがす。能力のオンオフは本人の意思で可能なのだろう。現在の相手の状態で「意思」があるのかどうかは疑問だが。

 二刀流になり、再度こちらに突っ込んでくる。だがスピカに同じ手は二度通用しない。所詮は直線運動だ。難なく躱し……。その考えが甘かった。



(直角に曲がるなんて……!)



 相手は避けたスピカを追尾するように急カーブし突進してくる。腹に鉄パイプが突き刺さる直前、両手で握って受け止めたが勢いを殺しきれず吹き飛ばされスピカは地面を転がった。



「そういうことね……。あなたの能力のからくりがわかったわ。その鉄パイプは磁力のアンテナみたいなもの。二本あれば、片方で前後方向の運動を任せて、もう片方で左右方向の運動を任せればいい。オンオフ切り替えられるなら私に避けられた瞬間、前後運動の方をオフにして左右運動の方をオンにすればいいものね」



 膝をついて立ち上がりながら能力を看破するスピカ。当然、相手からの返事はない。機械のように無表情で見つめてくるだけだ。



(まあ普通は急激にかかるGに人体が悲鳴を上げるんだけど……)



 工場など金属だらけだ。ここで戦う限り、素手で彼の全方位高速移動の対処を強いられる。

 であれば、あの巨大な扉を再びくぐって外に出ればいい?



(もし彼の能力が触れていないものにも効果を及ぼすなら、私が通ろうとした瞬間ギロチンみたいに猛スピードで閉まるのよね。さすがにそこまでのリスクは負えない。だったら……)



 スピカの青い瞳がうっすら光を帯びる。二等級の証であるその眼を見ても学ランの少年の表情に変化はない。



「私が持っている能力(チカラ)。それは正確には水を操る能力じゃない。順序が違うのよ。この能力で水も操れるっていうだけ。でも操れるものの中で唯一肉眼で見えるのが水だから私は水の操作を得意としているし、繊細さも規模も水が一番なのよ。だけど、今はあなたという人命救助が最優先よ」



 スピカを囲うように足元で風が起きた。白銀の長髪が揺れ、黒いフレアミニスカートはばさばさと捲れんばかりにはためく。



「苦しいわよね。なりたくもないのに能力者にされて、家族から引き離されて。どうして私があなたを行方不明者の一人だとわかっていると思う? それはね、あなたのご家族があなたを心から心配して警察に通報して事件として立件されたからよ。だから助ける。今すぐに。この私が、あなたを倒す(すくう)

ブックマークをしていただけることが増えてきて本当に本当にうれしいです。ありがとうございます。

これからも毎日投稿を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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