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第17話 交わる勘違い

 アステリズム?  何かの組織か?



(ククッ、間違いない。コイツは本物だ。俺以外にこんな真正の中二病がいるとはな!!)



 白銀の長髪が夜風になびく美少女、スピカ。くっきりとした目鼻立ちや抜群のスタイルは日本人離れしているので、おそらく外国の出身なのだろう。アニメや漫画にハマった外国人が日本文化を誤って理解するという話はよく耳にする。きっと彼女もそうした二次元サブカルチャーの影響を受けた、思春期特有のイタい時期に違いない。


 周囲からくだらないだの子供っぽいだの言われてきたナツキにとって自分と遜色ないほどの重度の中二病患者は貴重だ。彼女の設定に合わせることも(やぶさ)かではない……どころか、ノリノリである。



「ククッ、そうか。てっきり連中が俺の能力を悪用するため近づいてきたのかと思ったぞ。闇討ちのまがいのアプローチは連中の得意技だからな」


「……それについては本当に謝罪するわ。ごめんなさい。私だってこんな美学に(もと)る真似はしたくなかったわ。だけどそうでもしないとあなたほどの能力者は話を聞いてくれないと思ったの」


「いや、大丈夫だ。俺とて世界の裏側(こっち)での生活は長い。素直に話しかけてはいそうですかと会話が成立するほど甘くはないことは理解しているつもりだ。ククッ、自己紹介が遅くなったな。俺の真名()は黄昏暁。地獄へようこそ(どうぞよろしく)


「ええ、よろしく。私もそう言ってもらえると助かるわ。それで本題に戻るけれど、あなたも今この街で起きている異変は知っているでしょう?」


「ああ。あまりに闇と悪意のオーラが濃密すぎる。連中は表の住人に隠す気はないらしい」


「そう……やっぱりこの事件には財団(やつら)が関わっているのね」


「ククッ、あくまで予想だがな。俺は普段、仮初の身分と名前で生きている。わけあって学校にも通っているし、守りたい人もいる。進んで関わろうという気はない。だがもしそんな俺の平穏を脅かそうというのならそのときは……」


「そのときは?」


「奈落の深淵に突き落とし煉獄の焔で燃やし尽くして灰塵にする(ぶっころす)



〇△〇△〇



(私にとって一番の収穫は彼……アカツキ・タソガレが財団と敵対していることね。その上今回の事件も把握しているみたい)



 財団だけでなく一等級の能力者まで相手取らなければならいとなったら、二等級の能力者の中で最高峰と謳われるスピカでも厳しかったかもしれない。その点、ナツキが敵でないという事実だけでも現状スピカにとって前向きな情報なのだ。



(でも表の世界での暮らしがあるっていうことは積極的な協力は期待できそうにないわね。もちろんそういう人たちを守るのも私が星詠機関(アステリズム)にいる意味なんだけど)



 今は、一等級の能力者という不安定かつ不確定な存在が明確に敵ではないとわかっただけで充分だ。それに守りたい人がいるとまで言い切れる相手に協力を無理強いすることはできない。

 ナツキとスピカとの間に走る刹那の沈黙の中で、携帯電話が鳴った。その持ち主はスピカである。



「もしもし。……いいえ、そんなことないわ。ええ、わかったわ。それじゃあ」



 電話を切ったスピカはナツキを見据えて断言した。



「私はあなたのように表の世界で暮らす人たちの平和を守るのが使命よ。今回もそう。だからアカツキ、私はあなたの生きる世界を傷つける気はない。それはわかってほしいの」


「ああ。ちゃんとわかっている。もし必要ならいつでも声をかけてくれ。ククッ、なんせスピカのようなタイプは珍しいからな。俺と同じ匂いがするんだ」



 それは重度の中二病という同志と出逢ったナツキなりのエール。おそらくスピカの保護者あたりから電話がかかってきたのではないか。これだけ眉目秀麗であればきっと過保護なほどに愛されて育ったに違いない。門限があっても不思議ではないだろう。



「……ありがとう。あなたの力を借りるような事態にならないように私も頑張るわ」



 ビュー、と二人の間に一陣の風が吹き抜けた。駅前のビルとビルとの間という路地裏の立地がそうさせたのだろうか。思わず腕で顔を覆ったナツキ。気が付くとスピカの姿はなかった。



「ククッ、俺もはやく夕華さんの下へ帰るか」



〇△〇△〇



「まさかシリウス本人から直々に連絡が来るなんて思わなかったわ」



 ──そっちは夜だったね。起こしてしまったかな。


 ──いいえ。そんなことないわ。


 ──そちらに財団の能力者と思しき人物がいるという情報が上がってきてね。君の様子を確認するついでに私からかけることにしたんだ。座標はメールで送る。対処は頼めるね?


 ──ええ。わかったわ。



 シリウスの立場や職務を考えるとそのような事務連絡を直接寄越すなど考えられない。彼自身、日本の行政トップである聖皇とのこともあって今回の事件には関心が強いのだろうか。


 スピカが夜道を駆けて到着したのは工場の跡地らしき場所だった。資材が野ざらしになっていたり人の営みの形跡がなかったりと現役の工場として機能しているわけではないということは察しがつく。潜むには都合が良いだろう。財団がこの街の中学生を二十人近く拉致して能力者にしているとしたら、それなりの人数を人目につかずに隠せる場所が必要になるはずだ。星詠機関(アステリズム)の情報収集能力を疑うわけではないがたしかにここなら大勢の人間を置いているとしても頷ける。


 駅や多種多様な店、ビルなどが立ち並ぶ街の中心部とは異なりこのあたりは生きた気配がしない。工場跡地だけではない。周辺にあるのは空き地やシャッターの下りた商店街、電源の入っていない自動販売機など人の手がほとんど入っていないのだ。

 街の開発の中で予算に勾配ができるとこうした不均衡が生じる。発展する部分はますます発展し、落ちぶれかけていた部分はますます落ちぶれる。ここはそんな人の営為の慣れの果て。


 天井まで五メートル以上はあろうかという工場。その入口の扉ともなるとそれなりの大きさになる。本来はボタンでの開閉を行うのだろうが、今となっては電気が通っているかも怪しい。


 万が一のことを考えてか人の手で開閉できるように取っ手代わりのくぼみがある。スピカは両手でそのくぼみに指をひっかけ、身体を傾けて全身の体重かけることでどうにか開けることに成功した。錆なのか埃なのか指には黒々と汚れが付着している。スカートのポケットから取り出したシルクの白いハンカチで指を拭きながら、工場の中へと入る。


 途端、スピカの目の前で横薙ぎに何か長いものが振るわれた。咄嗟に仰け反るようにして避けたが、スピカの額を冷や汗が伝う。



「早速ご挨拶ってわけね」



 外の月明かりが差し工場の中にいた者の正体がわかった。学ラン姿の男子だ。その手には鉄パイプが握られている。顔に生気はなく蒼白で、頬はこけ白目をむいている。

 スピカが冷や汗をかくほど抱いたものは恐怖でも緊張でもない。困惑。



(普通、誰かを攻撃するとしたら殺気とまでは言わなくても害意みたいなものはどうしても漏れ出ちゃう。だって私たちは心を持った人間なんだから。なのにこいつ……)



 まったくそうした害意がなかった。まるでトラップが作動したかのように無機質な現象として攻撃という行動がなされたのだ。今まで感じたことのない気味悪さにスピカは改めて気を引き締める。


前々話、後書きを前書きに書いてしまっていました。こうしたミスが出ないように気を付けます。

この後も二人の勘違いは続くので、あらすじ詐欺にはしません。

感想等よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかスピカの方が重症な気がしてきた
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