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第11話 迸る岩石の流星魔弾

 駅前の大通りでナツキは一人歩いていた。帰宅しているわけではない。つい最近出店して若者の間で流行っていると噂のクレープ店に向かっているのだ。


 ナツキが珍しく休日に外出するということで、まるで引きこもりの息子が数年ぶりにハローワークに行ったかのように妙な喜び方をしていた夕華は興奮気味にオススメの店をいくつかピックアップして教えていた。それだけ、大切に思っているナツキに親しい友人ができたことが嬉しいということなのだろう。


 実のところ夕華は自身が挙げた店に足を運んだことはない。夕華を誘おうと同僚の男性教職員たちが教えたものをそのまま横流しにしたのだ。若い女性にウケが良い流行りの店を懸命に探した男たちの涙ぐましい努力などナツキが知るはずもなく。自宅でゆっくりしている夕華のことを考えながらメモをたよりに探した。



「ここだな。英雄はバナナチョコチップ味がいいって言ってたが……俺も同じでいいか」



 クレープなるものを食したことがないナツキはあまり味の選択で冒険する気はない。ストロベリーはもしかしたらものすごく酸味が強いかもしれないし、パインは水分が多すぎて生地がフニャフニャになるかもしれない。納豆に中濃ソースがかかっているゲテモノは論外。



(それはもう別の料理だろ……)



 土曜の昼過ぎということで店は思ったよりも混雑している。列に並んだナツキは財布の中身を一応確認し、手持無沙汰で進むのを待つのだった。



〇△〇△〇



「ふふふ、黄昏くんまだかなぁ」



 駅前の大通りでは歩道に沿うように花壇がある。ツツジやアザレアがまっすぐに咲き渡り、鈍い色の道路がピンクやパープルのラインで飾られ通行人を鮮やかな気持ちにさせる。街路樹のハナミズキが白い花弁を綻ばせ、初夏の知らせを届けている。

 暑さと日光をしのぐようにハナミズキの樹に寄り掛かっている英雄はナツキを待っていた。花壇ではモンシロチョウがひらひらと舞い、頭上では風で葉が揺れてわさわさと鳴っている。



(近くにオススメのクレープ店があるからボクに食べさせたいだなんて、黄昏くんも結構かわいいところあるんだね)



 ファミレスを出た二人はぶらぶら街を歩いていた。太陽が昇ってきて気温も上がるなかで汗ばんできた英雄を見てナツキの方から提案したのだ。そのため、英雄はナツキに同行せずこうして木陰で休んでいる。


 勉強の息抜きがてら食べたり遊んだりした後は図書館に行くことになっている。午前中ナツキから聞いたアドバイスを参考に、今度は演習問題を解くことで定着を図るというわけだ。数をこなせば自然と慣れてくる。ナツキ曰く、慣れというのも『身体で覚える』という言葉があるように暗記なのだという。無意識の暗記。問題集をすらすら解けるようになれば自ずとテストで初見の問題が出ても対応できる。

 肩に提げたトートバッグのひもを握って、英雄は先ほどの自分の行動を顧みていた。



(友達だからって、いきなり手に触れるなんてやりすぎだったかな……。はしたない子だと思われたらどうしよう)



 ナツキからしたらそんなものは杞憂だと笑い飛ばすところなのだが、つい勢い余ってああいった行動に出た当の英雄は自分の大胆さに心臓がバクバクと打つのを感じていた。顔が熱くなるのを感じる。きっと気温が高いからだと言い聞かせて、英雄は冷ますように自分の頬にてのひらを当てた。



(えへへっ、でも黄昏くんって本当に優しくて頼りになるよね。勉強を教えるときも、ボクのモチベーションが上がるような言葉選びをしてくれてたこと、ボクちゃんと気が付いてたよ?)

 


 晩春と初夏の狭間ではにかむように笑みをこぼす英雄の姿はまるで花のようだ。しかし、その美しさ故に花は虫を引き寄せてしまう。蝶やミツバチだけではない。まるでスズメバチのように暴力的な……。



「ねえねえ、君いま一人? せっかく天気も良いんだしさ、俺たちと楽しいことしに行かね?」


「へへ、ヤッベーおっぱいは小さいけどめっちゃカワイイ娘見つけちゃて俺たちマジでツイてんな!」


「ひっ……!」



 アロハシャツのようなカラフルな上着にあごひげを蓄えたサングラスの男性と、逆さにしたキャップを着用したタンクトップの男性。筋肉をアピールするような色黒の二人組の男性に英雄は壁ドン同然の詰め寄られ方をしている。



「あ、あの……ボク、男ですよ……?」


「ヒヒヒ、そんな嘘で俺たちゃ引き下がんないよー? 休みの日はカワイイ娘ちゃんと酒飲んで歌って踊ってぶっこんでイエーーイ!」


「それな! マジそれな! ハネウマみてぇに蹴っ飛ばしてくるような女よりもこういう癒し系の方がいいっしょ!」



 明らかに英雄は嫌々ナンパされているというのに、周囲の人々は見て見ぬふりをしている。男性は彼らに喧嘩を売られても勝つ自信がないし、女性は自身まで標的にされてはかなわないと考えているからだ。あるいは面倒ごとにはあまり関わりたくないという国民性か。

 学校での不良の件といい英雄はどうもそうした輩を惹きつけてしまうようだ。

 涙目になって震える英雄の肩に、アロハ男の手が伸びる。ぎゅっと目を瞑り、心の中で強く強く念じた。



(助けて……! 黄昏くん!)



 そのときだった。空気を切る音が、二つ。


 ──ビュンッッ! ビュンッッ! 


 直後。固いものがぶつかる音が、二つ。


 ──カツン! カツン! 



「いってぇぇなああッ! ンだよ一体!!」


「ククッ、全弾命中。そうだな、名付けるなら岩魔法・迸る岩石(シューティング)の流星魔弾(ストーン)といったところか」


「誰だテメェ? ああん? 部外者はすっこんでてくれませんかねぇッ!」



 二つの小石が落下して歩道を転がる。 

 投げた張本人は誰かと問われ、不敵な笑みを浮かべていた。



「俺か? ククッ、そんなの決まっているだろう」



 吹き抜ける風が包帯とマフラーをはためかせる。通り過ぎようとしていた通行人たちも彼の特異な姿に目を引かれていた。



「俺はそいつの、友達だ」

どんな些細なことでもいいので、よろしければ感想をよろしくお願いいたします!

(昨日メンテが入るのは知りませんでした……。今後は注意して確認します)


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