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図書館。

宝石箱。

作者: caem


 「どうか、お願いします!!」


 唐突の告白から、思いもよらず。

 幸せな日々が続いた。

 たまに喧嘩したりもしたけど。

 それすら、嬉しくて、かけがえのない。


 ただ、あの遠い頃からは。

 もうーー、忘れたいのに手放せずにいた。

 そこだけ、埃を被らないように、ものすごく大切に。


 直近。

 思い出したのは、まるで女神みたいな笑顔でした。


 夥しいほど、埋め尽くされていた。

 胸の上で組む両腕は、じつに眩しい。

 すべてが美しくて、儚い。


 優しく撫でた。

 余すことないように。

 ワタシだけに許されていたかったから。


 憚れることなどあろうものか、人目など。

 全力で愛したのに、邪魔なんてさせない。


 漆黒に包まれてしまっていた。

 もう、何にも聞こえやしない。

 時折靡く髪は、ワタシの気持ちを代用しているようだ。


 初めて出逢ったのは、そうーー

 学力をアップさせるためにと両親に薦めさせられた学習塾。

 正直、イヤイヤだった。


「あなたは一流になるのよ」

「わたしの後を継ぐには、これぐらいは淡々とこなせ」


 出自を守りぬくこと。

 延々と繋ぎ、さらに上り詰めろと。


 まさしく地獄だろう、こんなのは。

 エリート中のエリートの、その遥か極みに行けと。


 そうして従ってゆくうちに、いろいろ切り捨てていった。

 友達ーー親友と呼べる者など一人もいなくなってゆく。


 あぁ、わかった。

 これが孤独なのだろうと。

 ただレールに敷かされてゆく。

 

 大企業の社長にもなれなかった父親と、その婦人による徹底的な指導。

 だが、ワタシは決してあなたたちから生まれた(・・・・)ワケではない。


 そう。

 買われただけの、ただ捨てられる寸前だった。

 産声をあげるや否や、ゴミ箱に捨てられてしまうような。

 もう、奇跡的というしかない。

 いま、こうして厳しく躾られてはいるが生きていること自体が。


「はいっ、分かりました!」

「もっと、頑張ります!!」

「次はもっと、上を目指します!!」


 心は擦りきれようが、食わしてもらっていたから。

 何もかも考えないように、ひたすら生きてゆくしかない。

 ……もう、捨てられるのは御免だ。

 ひとりでなんて、生きてゆけない。

 ただ、必死に食らい付く。

 血反吐はもう、からっからになっている。


 そんな時、ふと、声をかけられた。


「ねぇ、この問題……どうやったら解けますか?」


 血走り、血眼になり、難解な図式に取り組んでいた。

 五月蝿いとしか感じないだろうに、なのにどうしてか。

 蕩けるようなその声に、ついーー


「ここはこうして、こうすれば良いから」


 どうして話し掛けてしまったんだ、この状況で。

 集中力が途切れるじゃないか。

 でも、それでも。


 頼ってくれたこと。

 それ自体が。

 いつしか、生き甲斐となってゆく。


「ふんふん、なるほど」

「そう、それでここはね」

「わっ、解けた~♪」

「いや、まだここからさ」


 お互い受験生、同世代だった。

 話してゆくうちに、どうやら。

 環境も近かったらしい。

 そりゃあ、仲良くなってゆくにちがいないだろう。

 帰り道には、手を繋ぐようになっていて。

 両親にはバレないように、ささやかにまろやかに。


 だが、その均衡が突如崩れてしまった。


「なんだ! この成績は!!」


 バンと勢いよく叩き付けられた。

 ……見つかってしまった。


「もう、あの娘とは付き合わないでね?」


 優しいように言ってはいるが、瞳の奥が笑っていない。

 父親も母親も、まるでにっくき宿敵をみるようかにしている。

 あぁ……終わったな。

 やっぱり、手を出すべきではなかったんだ。

 やがて、冷たく突き放さざるを得ない。


 嫌われるのなんて、得意中の得意だから言ってやった。


「お前なんて知らない。 どっか行けよ、付いてくんな」


 塾の行きしなで告げた。

 置き去りにしたあと、酷い絶叫が耳からしばらく離れずにいた。




 数年後ーーわたしは、ドン底を味わっていた。

 両親は離婚して、親戚じゅうをたらい回しにされ。

 その挙げ句、知らされたのは天涯孤独になっていたという。

 まぁ、そもそも仮初め(・・・)の両親だったから、それほど気にはならなかったが。


 その日暮らしを要求される日雇いのアルバイトと、安上がりで誰にも目立たないような格好で、ひっそりと段ボールで暖を取る。


 そんな最低の存在でしかならなかった。

 当然といえば当然だろう。

 いっぱい裏切ってきたから。


 とくに……いちばん謝りたかったのは、あの()

 湿った段ボールから滲ませてくる。

 きっと、あの時、こんな気分だったんだろうなぁ。

 最後の日だとーー、そう。 お迎えを待っていた。


 寒い、寒い。 冷たくて、キツイ。

 ここ数日、まともに食べていなかったしなぁ。

 あぁ、これで最後か。 悪くはなかったよ、たぶんネ。



「ねぇ、あのひと。ヤバくない?」

「え? だれ?」

「ほら、あそこ……」



 気付けば、知らない天井をみていた。

 手のひらが暖かいし、とてもしっとりとしている。

 遠い昔、見たことのある、銀縁眼鏡が似合うひとだ。

 その健やかな寝息に、神様ありがとうと。


 それからいろいろあった。

 とにかくよく、叱られてはいた。

 謝るよりは、楽しくしようと連れ回して。

 彼女(・・)と出逢えたことだけが最大の贈り物(プレゼント)だった。




 でも、先に逝かないでおくれよ。

 どうして、そんなに白髪交じりで。

 カラッカラに骨張っているんだよ。




 またひとりになってしまった。

 



 形見にする、明日から。

 この、宝石箱(ペンダント)を。

 ぎゅっと、掴んで。

ちょっと……三千文字には足りなかった(爆)

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― 新着の感想 ―
[良い点] リクエストに応えて下さってありがとうございます! 文字数から言えば、一つの場面か、一つのエピソードになるのかな……と思ったら、ほぼ一生入ってますね! あまり説明しない文章は詩のようで、ち…
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