3.【改稿済】望んでいない
みんな、あんまりだわ!
これを自分勝手と言わずに何を自分勝手というの?
突然、お前は婚約してたと言われたかと思ったら、とっくに解消もしてたと言われて、「はい、そうですか」なんて言う人がいるわけないでしょう?
胸がモヤモヤして眠れないわ。
もうっ!ボスッ もうっ!ボスッ
枕をいくら殴っても全然、モヤモヤが晴れない。
カポ カポ カポ
あれは。ちょっと遠いけど、馬車の音よね?
こんな夜更けにゆっくり入って来る馬車なんて、お父様を乗せた馬車よ! 火急の使者とかなら、もっと馬車の音が荒々しいはずだもの。
こんな気持ちのまま眠れるわけないわ
ガウンを羽織っただけで、部屋を出る。
肌寒い季節なのに、怒りで全く寒さを感じない。
お父様は家令や執事から1日の報告を受けるまでは、休んだりしないもの。執務室に行けばお会い出来るはず。
ちょっとだけでも、お父様に話を聞かないと。
「では私はこれで」
「ああ。お疲れ様」
「あなた、・・・・なの?」
「ああ・・・・・・・」
執事のセイマスが執務室から出てくるのに気が付いて、思わず柱の陰に隠れると、両親が話す声が聞こえてくる。
ちょっと距離があるせいで、ほとんど何も聞き取れない。
お母様、とても心配そうな声だったわ
何か大変のことでもあったのかしら?
……ちょっとだけ、覗いてみよう……
「あなた、本当にもう諦めたと言ったの?」
「ああ、ステファンはもう別の婚約相手を探していると言っていたよ」
「12年もマリアを思ってくれていたのに……」
「だからこそだよ。それだけ想っている相手に、何とも思っていないと言われたんだ。ステファンも、今度ばかりは堪えたんだろう」
「……そうね。頑張ってくれてたものね」
「あれだけあからさまだったのに、なぜマリアは気がつかなかったのか……」
「本当にマリアに何も言わないおつもり?」
「もちろんだよ。あの子が忘れていて、彼の気持ちに応える気もない以上、無理に思い出させて、もう一度ステファンを傷つけることはない」
沸々と怒りがこみ上げてくる。手まで震えてきた。
カタッ
しまった!
「セイマス? 」
執事だと思ったらしいお父様が、声をかけてくる。
いいわ、もう、我慢出来ない!
私抜きで私の何かが決まってしまうのはイヤ!
返事がないのを不審に思ったお父様が、扉を開いた瞬間、怒りが吹き出した。
「お父様、ひどいわ!」
「マリアッ?!」
「ひど過ぎる!」
「……全部聞いたのかい?」
「起きていたなんて……」
お母様も出てきて、私を抱きしめてくれる。
優しい抱擁に、余計に腹がたってきた。
「お母様、それじゃ私が傷ついているみたいじゃない! 私は怒ってるの!」
「マリア落ち着いて、ね?」
「婚約してたなんて、私全く知らなかったのよ? いつの間にか婚約してて、それもいつの間にか破棄されてたなんて、あとから知らされた私がバカみたいじゃない! 」
母が愛用しているピンクのガーベラの香りが、まるで私を宥めようとしているように思える。
その香りは、父の所領であるゼノア公爵領の花を、母が魔法で香水にしたものだから、私のお気に入りでもあったのに。
「お父様、お母様、どうしてステファンと婚約していたことを教えてくれなかったの? ねぇ、教えて!」
両親は目を交わすと頷きあって、マリアを椅子に座らせた。
「マリア、全部話そう。
でもかなり長くなるよ。私達の生まれから話すことになるからね。それに、お前も気が立っているようだから、今話すのは避けたい」
お兄様と私には甘いお父様の真剣な顔に、仕方なく頷いた。
「ただ、これだけは言っておく。
今晩、私はステファンに会って彼の気持ちを確かめて来たんだ。
ステファンはもう、お前を伴侶に望んでいない。
だが私の話を聞くまで、ステファンに婚約のことを確かめたり、彼を責めたりしてはいけないよ?
それを約束出来るというなら、婚約を忘れたお前に、何も言ってこなかった理由を話してあげよう」
「……わかったわ、お父様」
「いいこだ。もう遅い。明日も学園だろう? 部屋に戻って寝なさい」
「はい……おやすみなさい、お父様、お母様」
「おやすみ」「おやすみなさいマリア」
結局、何もわからないのは未だ変わらない。
けれど、お父様が真剣に交わした約束を違えるはずがないという安心感が、私の足を部屋に向かわせた。
でも、廊下に響く自分の足音が、なぜか心細くて堪らない。
『ステファンはもう、お前を伴侶に望んでいない』
シオンお父様がハッキリと告げたその言葉が、とても重く胸に残っている。
「どうして、こんなに空っぽな気分がするのかしら? 」
ひとり呟いても、応えてくれる者はいない。
胸が苦しいわ。
さっきまで、暑いほどだったのに寒くて凍えてしまいそう。
『ステファンはもう、お前を伴侶に望んでいない』
『ステファンはもう、お前を伴侶に望んでいない』
頭のなかで、お父様の言葉が止まらない?
明日、お父様のお話を聞けば、こんなに虚しくて寒いのも消えてなくなるのかしら?
今度は、頭まで上掛けを被っても、寒くてなかなか寝つけなかった。
遅くなりました。
基本は11時に投稿出来るようにして忌ますが、
しばらく時間もまちまちになります。
次回は、ステファンの気持ちです。




