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28.義妹の怒りとステファン

 


「ちょっと、お義姉様? 」


「なぁに? 」


「なぁに? ではございません! 」


「どうして、今、此方にいらっしゃるの? 」


 最近、義妹になったサーシャが青筋をたてて近づいてくる。


 ステファンと婚約することになって、私はオラクル侯爵家に籍を移した。

 貴族籍では義理とはいえ、ステファンと私は『叔父』『姪』の関係だったから。


 一時的だとしても、家族になるならサーシャ様がいいと、私が我儘を言ったせいだ。

 それを伝えた時のサーシャは顔を真っ赤にして「誉れですわ」とすぐに答えてくれた。


「嬉しいのね?」と言ったら、「ですから! わかっても、そういうことはお口になさらないでと何べん申し上げればいいんですのっ」

 と可愛く怒ってくれた。


 だけど、今は恐い


「サ、サーシャ、ここ図書館だから」


「他にどなたもいらっしゃらないと確認致しました! 」


「あ、あら、そうなの? 」


「今日は! ドレスの仮縫いがありますから図書館には行かないでください、と再三!! お伝え致しましたわよね? 」


「そ、そうだったわね」


「『そうだったわね』じゃ、ございません!

 いつまで、ウジウジと逃げ回っていらっしゃるの? 」


 ステファンとの婚約を引き延ばそうとしている私を、ずいっ ずいっと壁際に追い詰める。


「サーシャ、圧が凄いですわ」


「まったく……そんなですと、ステファン様も嫌われたと誤解なさって、他の方にいってしまわれますわよ」


「それはいや!」


「なら、さっさと覚悟をお決めになって!」


「だって……」


「は? 私のお義姉様ともあろう方が『だって』ですって?

 カミラさんとのことで、少しは成長なさったと思いましたのに、図書館のヌシに逆戻りだなんて……オラクル家の人間とは思えませんわ」


「と言っても、便宜上のことだし……」


「は?」


 可愛いのに、怖い


「ご、ごめんなさい」


「婚約式はっ、半・月・後でございますのよっ」 


「わかってるけど……」


「私にわからないと思っていらっしゃるの?

 大好きなステファン様と婚約出来るというのに、お義姉様は何を悩んでいらっしゃるの? 」


「大好き、だなんて……」


 急に優しくなったサーシャが、溜め息をついて、椅子に座る。


「私には、教えてくださるわよね? 」


「………………あのね、わからないの」


「何がですの? 」


「ステファンがなぜ私を好きなのか。本当にステファンは私を好きなのかしら? 」


 口をパクパクさせて、サーシャが扇を落とした。


「はいぃ?! 」


「サーシャ、落ち着いて」

 扇を拾ってあげる。


「一体、何をおっしゃってますの? 」


「ステファンは一度も私に好きだと言ってくれたことないもの。私が忘れてしまった3歳の頃の約束を守っているだけではないのかしら? 」


「ええぇ?!」


 また、扇が落ちた。


「サーシャ? 」


「そこなんですの? この期に及んで、あの方はまだそこなんですの?! 」



 勢いよくサーシャが立ち上がる。


「わかりましたわ。お姉様、仮縫いは延期致します。今日は、ずっと此方にいらっしゃるのよね? 」


「そのつもりだけど? 」


「絶対ですわよ? 」


 何故か怒った様子のサーシャが、念をおして帰っていった。




 どれだけ経ったのか、本で調べ物をしている私の上に、影が落ちた。


「スティ?!」


「ああ」


「どうしたの? 」


「マリアに言わなきゃならないことがあって」


「何を?」


「うん、まぁ」


 ステファンの顔がいつになく厳しい。


「…………マリア、俺はちゃんと君が好きだよ」


「え?」


 ステファンの手が私の両手を包む。


「君が好きだ。君が忘れてしまっても構わない。俺は、3歳の君に約束を貰ったあの時から、ずっと変わらずに君が好きだ」


「その約束に囚われているのではないの? 」


「違うよ。約束に囚われているのは俺じゃない。マリアの方だよ」


「私?」


「ああ。だってマリアは歴史に残るような『スゴいこと』をしたいんだろう? 」


「ええ」


「じゃあ、なぜ『スゴいこと』をしたいの? 」


 そういえば、疑問に思ったこともなかった。


「なぜなのかしら? 」


「俺も最初はわからなかった。マリアが図書館に通いつめる理由をね」


「今はわかるの? 」


「もちろん。俺の為だよ。俺と約束したからね」


「私、覚えていないわ」


「いいんだ、それでも。マリアが約束を忘れても、『スゴいことをしたい』と言う度に俺は嬉しかった。だって、俺にとっては『スティが好き』って言われているのと同じだったから」


「そんなつもりじゃ」


「わかってる。でも、今はちゃんと俺が好きだろう?」


「…………」

 急に身体が固まった


「え? 違う?」

 自信ありげだったステファンが慌てだす。


「……マリア、頼む。俺を好きだと言ってくれ」


 私の両手を包んでいた手が強くなる。そのまま、彼が私の手を引き寄せて口許にあてた。


「…………スティ、私もスティが大好きよ」


 顔をあげたスティの顔が、どんどん朱くなる。耳も首も真っ赤だ。


「ふふ、スティ、真っ赤だわ」


「マリアもだ」


「え? 」


 慌てて窓に映る自分を見た。


 ステファンに引き寄せられ、顔を真っ赤にしている私がいる。

 自分の姿を見てしまって、急に恥ずかしくて堪らない。


 急いでステファンから離れようとするけれど、手を握られていてかなわない。


「スティ、離して」

「あははっ いいよ」


 一瞬だけ、手が弛んだと思ったら、ステファンの手が私の背中に廻ってしまった。


「ちょっと! 」

「お願いだ、少しの間でいいからこうさせて」


 ステファンの声が低くなって、私の心臓が大きく跳ねる。

 急に静かになった私を、ステファンが覗き込んだ。



「マリア、いい? 」



 私はまた動けなくなって、頷いた。










 



お読みいただいて、嬉しいです。

サーシャ様が偉大。

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