24.第一王子の懺悔
オール ギール殿下目線です。
時間が少し遡ります。
時系列的には「母と息子」と 「母と娘」の間のことです。
兄が立太子するという前日
当の兄から急に面会の要請を受けた。
ある時期から私達の関係は冷えたものとなっていたから、正直面食らったが、慶事の前に険悪になるのもなと承諾する。
立太子式を控え、多忙を極めるはずの兄が、わざわざ私に会いに来る理由がわからない。
だが、こんな時に仲の良くない弟と無駄話をする理由もない。一体、何だ?
人払いを終えた兄が、深々と頭を下げてきた。
「私が愚かだった。ギール、私を許してくれ」
「一体、何を仰っているのか解りません」
「その通りだな。
私の話を聞いてくれないか? お前にすべて話して、赦して貰ってからでなければ、私は王太子になどなれない」
「予想外の深刻さですね」
笑ってみせても、兄は緊張を解かない。
「わかりました。聞くだけ聞いてみましょう」
「ありがとう………
私の側近が何度も選び直しになったことは知っているな? 」
「ええ」
兄は、最初の側近候補達が外れて以降、次々と候補を変えていた。ステファンを側におくまでは。私がステファンと疎遠になった原因なのだから、知らないはずがないだろう。
「お前とステファンが疎遠になったのは、あいつに責任はない。この馬鹿な兄が原因なのだから」
「どういうことですか」
「18年前、元ロイド侯爵が起こした国庫横領事件は聞いているだろう?
あの事件で横領に関わったのは、彼だけではなかった。詮議で次々に関わった者達が炙り出され、その者達も全員、侯爵と似たような末路を迎えたんだ。
だがそのなかには、私の側近候補達の親がいて、無論、彼等は外され、貴族ですらなくなった。驚くことに誰ひとり残らなかったよ。
まだ5歳の私には、理解出来ても納得がいかなかったんだ。彼等とは本当に仲が良かったからね。離れたくなかった。ただ友人を奪われたことで怒りでいっぱいだった。
横領を暴いたお祖父様とステファンの父、ジェスキア公爵を恨んでさえいた。
それ以降はお前の知っている通り、側近候補をとっかえひっかえしていたんだ。お祖父様への当てつけでな。愚かだろう?
だから、お前と仲が良かったステファンが、俺の側近になりたい言ってきた時、私は嫌がらせでそれを了承した。
でも、あとからステファンに聞いたんだ。傲慢とはあの時の私のことをいうのだろうな。
私はあいつに『選ばれた』とそう思っていたんだ。お前ではなく、この俺をと。
でも違った。あいつが選んだのはお前だった。
あいつが何て言ったかわかるかい?
今でも、私は一言一句覚えているよ
『ギール殿下は、天気や季節の話をするときだけは、楽しそうにお笑いになる。
それなら、彼の望みどおりに大好きな気象研究をさせたい。研究者の道を進んで欲しい。
だから、その夢を諦めねばならないような、王になんてなって欲しくない。その為には何としても、貴方に王位について立派な王になって貰わなければいけない。でも、今のままの貴方では無理だ。だから自分が側近として貴方に仕え、あいつの夢を守ると決めたのです』
以上だ。
ステファンは、お前に夢を叶えて欲しくて、俺のスペアとしての役割から、お前を自由にしたかったそうだ。
スペアであることを、お前が苦しんでいるのを知っていたんだろう。
最初の側近以降、とっかえひっかえしていた俺には、そこまで思ってくれる側近がいるわけもない。
あの事件さえなければ、俺にもいたはずなのにと悔しくてね、必ず王になる代わりに、俺の側近になった理由を固く口止めした。
絶対にお前に知られたくなかった。いま思えば、お前が妬ましかったのだと思う。そこまで想って貰えるお前が。
本当に愚かな兄だ。私の愚かさが、お前からステファンを遠ざけてしまった。お前の親友だと知っていたのに。
ずっと、お前に告白して赦しを請いたかった。なのに、なかなか告白出来ず、今日まで来てしまった。前日になってこんなことを言うのは卑怯だということもわかっている。だが、お前の赦しを貰ってからでなければ、私は王太子になどなれないんだ。
ステファンはけしてお前を裏切ってなどいない。全てこの兄の愚かな嫉妬のせいだ。申し訳なかった」
そう言ってまた頭を深々と下げる。
私を研究者にするために?
兄が私に嫉妬としていた?
は? 頭の整理がつかない。
いや、誰かに聞いて欲しくて、研究者になりたいとステファンに打ち明けたのは私の方だ。
愚かなのは自分も同じだ。ステファンを信じきれず、勝手に裏切ったと思い込んで遠ざけた。
「兄さんは本当に愚かだ。お陰で数年無駄にした。
頭をあげてください。
僕も同じです。ずっと日の当たる兄さんに嫉妬して、スペアでしかない自分を呪っていました。そして裏切ったと思い込んで、ステファンを責めていたんです。
僕らは愚かで本当に似た者同士です」
「赦して貰えるだろうか」
「いいえ、条件があります」
眉を下げ肩を落とす兄。
「何でもいい、言ってくれ」
「必ず、賢王になってください」
パッと顔をあげた兄が嬉しそうに破顔する。
数年ぶりに見た、兄の心からの笑顔に何かが解けていくのを感じた。
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