21.陳情
ユリアとカミラの想いをよそに、ルシェラへの詮議が終わる。
その後、平民の裁判としては異例だけれど、王太后陛下が裁判を監督することになったそうだ。
18年前の事件との繋がりを無視出来ないという王室の判断かららしい。
ジェスキア公爵家、ゼノア公爵家、さらにギール殿下、アイリス殿下が関係者として招集され、ユリアとカミラにも参考人として出廷命令が出た。
初めて母親以外の肉親、祖母ユリアに会うカミラは、遠慮がちだったけれど嬉しそうにしていた。今回のことでそれだけは、ルシェラのお陰だなと思う。
でも、僅かでも和やかだった空気は、ルシェラが廷吏に連行されて来るまでだった。
「復讐して何が悪い! 私は侯爵家の令嬢だったんだ! それを奪ったお前達に復讐する権利が私にはある! 絶対に復讐してやる!お前にも、お前にも、お前にもっ」
両親達を次々に指差すルシェラの姿は、私には狂人にしか映らず、カミラのことだけが心配だった。
「ルシェラ、お前は身勝手な復讐の為に我が子を犠牲にしたのですか? 」
「はっ 私が産んだんだ、どう使おうと私の自由だ。お前達に干渉する権利はない!」
「ルシェラ、18年前に自分がどんな罪を起こしたか覚えてますか? 」
「さすがに耄碌したのか、王太后」
ルシェラがそう吐き捨てて、王太后陛下を指差す。
あまりの不敬に、廷吏がルシェラを押さえつけた。
いつの間にか、皇族用の傍聴席にいらした国王陛下が静かに立ち上がる。
「王太后、委譲した権限を返して貰う」
威厳に満ちた国王陛下の言葉に、最悪の事態が思い浮かんだ。カミラはガタガタと震えてユリアにしがみついている。
王太后と席を換わり、最高審判権者の席についた国王陛下が参考人席を向く。
「先ず、参考人、カミラ」
「…………」
震えて立つことが出来ないでいるカミラを見て、廷吏が動くのを国王陛下が制止した。
「ルシェラの娘、カミラよ。そなたには詫びねばならん。そなたがどのように暮らしてきたかは聞いた。18年前、まだ若かったルシェラの改心を期待して、温情を与えたのは我等の過ちであった」
「……と、とんでもございません……」
「だが、カミラ。そなたも見ていたとおり、ルシェラには酌量の余地がない。そなたが苦しんだことを考慮してさえもだ。わかるな?」
「は……い……」
口を封じられ、拘束されていたルシェラを、冷徹な視線で捉えた国王陛下。
「ルシェラ、温情を無駄にした代償は大きいぞ?
今からそなたの刑を申し渡す。
ユリア同様、18年前ゼノア公爵夫人であるフレデリカに負わせた火傷を『複写』のうえ、ルキア鉱山行きとする。
ルシェラ、よく聞くがいい。
そなたは公爵家と王族を陥れようとした。にも関わらず、平民のそなたが極刑でないのは、温情などではない。
そなたに惨い仕打ちを受けてきてなおもまだ、そなたを想い、案じているカミラへの詫び故だ。
子に救われたな」
「@、@≒≒*!ヾ¥;!’ ◆≒!」
ルシェラは口を封じられたまま、国王陛下を睨み罵っていた。
「この場にて直ちに刑を執行する。カミラよ、辛ければ退廷して構わない」
「いえ……」
「そうか。では、ジェスキア」
国王陛下の合図で、直ちに、お祖父様、ジェスキア公爵の手によって、彼の魔法『複写』が執行される。
お祖父様の魔法は劣化しないし、火傷は治癒魔法でしか癒えない。赦されるまで痛みに苦しむ罰なのだ。
身震いするほどの酷い火傷が、ルシェラの半身を覆っていく。
惨い……でも、あんな惨い火傷をお母様は負わされたのね……どんなにお辛かったことか
ルシェラへの憎しみが一瞬、私を支配する。
彼女が退廷を命じられ、連れていかれるまで誰ひとり口を開けなかった。
「国王陛下、どうか許可なく発言することをお許しください」
じっと耐えていたカミラの祖母、ユリアが訴えた。
「申せ」
「恐れながら、お願い申し上げます。
此度のカミラが仕出かしたことは、ルシェラに罪がございます。ですが、そのルシェラをそのように養育しましたのは私でございます」
「ユリアよ、何が言いたい」
「どうか、私をあの子の代わりにルキア鉱山へやってください。あの子の罪は私の罪でございます。どうか、どうか、お聞き届けくださいませ」
「ならぬ。確かに、18年前はそうであったかも知れん。だがな、此度のことは成人したルシェラが自分の意思で引き起こしたことだ。無論、自身で贖うべきであろう、違うか? 」
「ならば、私も同行させてくださいませ。あの子の罪の源である、この、私が、あの子を諭すべきなのです! どうか伏してお頼み申し上げます。何卒、お聞き届けください!」
自身も、癒えぬ火傷を罰としてその身に受けていながら、痛む身体を折り曲げ、伏して懇願するユリア。
「私からもお願い申し上げます! 私は母に人を憎むよう教えられて育ちました。母も同じでございます。ですが私は救われました。どうか母にも救いをお与えください。お願いでございます。どうか祖母の願いを叶えてください」
ユリアの隣で、ユリア同様、伏して懇願するカミラに、心を奮い立たせる。
彼女の後ろで膝をついた。
「国王陛下」
「マリア嬢、何の真似だ」
「はい。私は此度の最大の被害者でございます。その私からもお願い申し上げます。私の従姉妹の心からの願いを、どうかお聞き届けくださいませ」
「「「陛下」」」
ステファン、ジェリスお兄様、ギール殿下、アイリス殿下が立ち上がり、胸に手を当て頭を下げてくれる。
「はっ まるで余が悪人のようではないか。
…………わかった、もう良い。認めよう」
「陛下!」「なりません!」
「お父様?」「父上」
お父様とジェスキアのお祖父様が立ち上がって声をあげた。
「陛下、ユリアは18年前の首謀者のひとりでございます。そのユリアをルシェラの近くにおくなど、また何を企むか分かりません!」
お父様の怒りに満ちた姿で、癒えたとはいえ、両親の抱えた傷は私が想像も出来ないほど大きかったのだと気づく。
それでも…………
「お父様、お願いです。
私達はもう、ゼノアのお祖父様、ロイドのお祖父様が犯した罪から、いい加減解放されるべきです。
孫である私達も苦しみました。このうえ、この先生まれる子達にも、同じ思いをさせるおつもりですか? 」
「…………」
お父様は口を引き結び、譲ってくださらない。
「あなた、私からもお願いです」
「だが、フレデリカ」
「私ももう、忘れたいのです」
「…………」「あなた」
「……………はぁ、わかった……私もいい加減、忘れたい。叔父上も宜しいですか? 」
「お前達がそれでいいと言うのなら」
「ありがとうございます。お父様、お母様、お祖父様も」
今のところ、救済>恋愛
そろそろ、子ども達が救済<恋愛にシフトしてもらわんと。
お読みいただいてありがとうございました。




