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18.断罪 (後編)

遅い!(サーシャ)

 



「聞き捨てならないな」


 怒りを滲ませた声が、その一言で皆を黙らせた。


 ステファンの鋭い視線がカミラを捉えている。


「スティ……」


「マリア、平気かい?」


「お兄様、殿下………」


  ステファンの後ろに、ジェリスお兄様、そしてギール殿下がいた。

 知らせを聞いて高等部から駆けつけてくれたらしい。サーシャ様のご友人のひとりが、3人の後ろから、ひらひらと手を振ってくれている。



 ステファンが私とサーシャ様を庇うように立つ。


「ステファン様、遅いですわ!」

「すまん、証拠を押さえるのに手間取った。

 サーシャ嬢、マリアを守ってくれて感謝する」

「当然です!」


 ステファンとサーシャ様の遣り取りに驚く。


 彼が片手をあげると、廊下に控えていた従僕達が、次々に荷物を置いていく。


 そこには、新品のドレスと本、少し萎れただけの花など、カミラがマリアの嫌がらせの証拠とした物と同一の品々だった。状態が良ければ瓜二つだったに違いない。



「それにな、俺達の『気化』と『保存』では、ああはならない」


 ジェリスお兄様が頷いて、花壇から採ってこさせた薔薇に、魔法をかけてみせる。


 お兄様の手には、形もそのままに水分だけを抜かれた薔薇が残っていた。


 それを見た令嬢や子息達が、シェリル様の側から離れていく。




「カミラ・レイバン、いや、正しくはただのカミラだったな」


「何を!」


 平民と揶揄されて怒りに燃えたカミラは、矛先を私からステファンに変える。 


「お前も、私とお母様の人生を奪った奴らの血を引いているくせに、正義漢面するな! 厚かましい!」


 カミラがひとり吠えた。

 彼女の側にはもう、シェリル様さえいなかった。


「カミラ、俺はレイバン領に行って来た。お前とシェリル嬢の企みは既に意味がない。それとも、18年前にお前の母親が何をしたのか、ここで披露して欲しいのか? 」


「はっ 馬鹿な奴。

 昔のことが明らかにされたなら、お困りになるのは皆様方のほうではございませんこと?」


 急にカミラが令嬢然として、シェリル様以上の美しい礼をしてみせた。


「哀れな。お前は本当に何も知らないのだな。そこのシェリル嬢はどうやら全部知っているようだが? 」


 ふたりの視線が縮こまるシェリル様に向けられる。


「あんな顔だけの、私が横で指示しなくちゃ会話ひとつ出来ないような女が、何を知っているというの? 」


「残念だな、カミラ。俺はマリアほど優しくない。そこまでお前が言うのなら皆の前で教えてやろう」


「スティ?」


 初めて見る、ステファンの険しい顔と冷たい声に何を言うつもりなのかと、思わず名を呼んでしまった。


 振り返ったステファンが、私に大丈夫だと微笑んで手を繋いでくれる。


 彼はすぐにまた向き直り、カミラを見据えた。


「お前は、ゼノア公爵の血を引いてはいない。

罪を犯し貴族籍を抜かれただけで済んだ母親が、罪を省みることなく、娼婦に身を堕として出来た娘だ」


 教室がまた騒がしくなる。


「嘘を言うな! そのマリア達の母親が、私を身籠ったお母様から、お父様を騙して奪ったのよ!」


「それは違う。マリアの両親は幼い頃から想い合っていた。それを邪魔し、公爵夫人の座につくために、ゼノア公爵を奪おうと画策したのは、亡き元ロイド侯爵夫妻と愛妾の娘であるお前の母親だ」


「そんなこと誰が信じるものか!お前達が正当化する為にお母様に罪を着せたんだろう!」


「それは違うぞ、カミラ。ステファンが言ったことは真実だ」


「ギール殿下、貴方も騙されているのです!」


 尚も反駁しようとするカミラに、ギール殿下が静かに語りかける。


「カミラ、私達は真実を言っているんだ。

 私を含めた王族は全員その真実を知っている。一連の事件で、最初に被害にあったうちのひとりは、私の大伯母である亡くなったアンジェリカ王女殿下だからな」


 誰もが一言も発しない。


 アンジェリカ王女殿下が若くして亡くなったことは国民全員が知っている。亡くなった経緯が秘匿されていることも。


「カミラ、お前が母親を信じたい気持ちはわかる。だがな、お前が聞かされてきたであろう『真実』はすべて母親の虚言だ」


 ステファンも同情を滲ませて語りかける。


「嘘だ、嘘だ、嘘だ、認めない」


 カミラが絶対に認めないと首を振る。


「では、私が王族として名を懸け、ステファンの話が真実であることを保証しよう」


 ギール殿下が、右手を上げ神に宣誓する。


 ステファンの話が虚言であれば、平民となっても構わないという王子の宣誓に、全員がステファンの話を信じた。


「違うわ、嘘よ、お母様がずっとお父様は騙されているんだって仰ったのよ? ふたりでお救いしましょうって仰ったのよ?」


「カミラ、よく聞け。

 レイバン伯爵はお前の母親を監視する王命を受けていたんだ。だが、伯爵に娘が産まれた。幼子ながら美しい娘を見た伯爵は欲を出したんだ。娘を王族に嫁がせたいとな。

 そして、父親のわからぬ娘を抱えたお前の母親に、条件を出したんだ。衣食住を保証する替わりに、伯爵の娘を公爵令嬢にも劣らない令嬢に教育しろと。

 お前の母親は承諾する代わりに、お前を伯爵の籍に入れさせた。断れば、王命に背いたことをばらすと脅したそうだ。

 お前の母親は、その頃から既に今回のことを計画していたんだろう。だから、お前に嘘の恨み辛みを言い聞かせて育て、憎しみを抱えさせたんだ。

 お前と母親は逆恨みの復讐の為に、レイバン伯爵とシェリル嬢の欲を利用して、俺に近づいたのだろう? 俺の次はギール殿下だったか?

 マリアに関するこれまでの噂も、お前が流させ煽動したこともわかっている。

 手始めに、一番陥れやすそうなマリアを標的にしたのが間違いだったな」


 ステファンが視線だけで指し示す。


 そこには財政に苦しい下級貴族の子息令嬢達が、青い顔で俯いていた。


「違うわ、ちがう、ちがう」


 ついには踞り、子どもが嫌々をするように首を振り続けるカミラの姿が切なかった。

 これまで信じてきたものがすべて否定されて、どんなに辛いことか。

 たったひとりで嘘だと耳を塞ぐ彼女を、放ってはおけなかった。


 カミラの側に膝をつき、その小さな背中を抱き締める。


「カミラ、お願い。あなたには幸せになって欲しいの。どうか、聞いて」


 カミラを縛るルシェラの嘘に、とどめを刺すのは私だと思った。

 ここにいる全員が気がついている嘘。

 恐らくカミラ自身も気がついているだろう、嘘。


 カミラにとっては最も酷いルシェラの嘘。



「カミラ、あなたのお母様の話が本当なら…………何故、あなたは私と同い年なの? 」


 やはり気がついていたのだ。

 激しく振っていた首が、動きを止める。


 それでも、気がつかない振りをしていたのは、父親と母親が愛し合って産まれた子どもだと、母親に愛されていると、自分を守りたかったに違いない。


「あなたには、あなたの人生を生きる権利があるわ。誰かの代わりではなくて、あなた自身が幸せになる道を選んで頂戴」


 踞ったまま号泣するカミラに、私の言葉が通じたのがわかった。








お読みいただいてありがとうございます。


やっと、ヒーロー働きました。

お気づきかと思いますが、ゼノア公爵家からの帰り道、サーシャ嬢が会ったのは、ヒーローです。



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