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17.断罪 (前編)

長いです(立縞的に)

 


 翌日、教室に戻ってくると皆がざわついている。


 最近は、サーシャ様や彼女の友人の令嬢達と、昼食を摂るようにしている。その日は、次の講義がサーシャ様が飛び級して受講している科目だったので、令嬢達と別れ、そのままふたりで戻って来ていた。


「何事ですの? 」

「サーシャ様、あれをご覧ください」


 近くにいた令嬢にサーシャ様が尋ねてくれた。その令嬢が指したのは教室の飾り棚に置かれた花瓶だった。


 確か、あれはお昼前に、シェリル様が侍女に命じて活けさせていた花だったはず。

 瑞々しい活けたばかりのお花が何故あんなに枯れているの?


 花はカサカサになるほど乾燥していた。


 

「キャー!」


 何事? と悲鳴があがった方を見ると、シェリル様が泣いていた。

 その足元には、虫食いだらけでボロボロになった彼女の教科書が落ちている。


「マリア様、あんまりですわ」


 そう言って、またさめざめと泣き始めた。


「酷い方ですね! シェリル様が妬ましくて、マリア様は嫌がらせをされたのですわ。この中等部で「気化」とか言う乾燥させる魔法をお持ちなのは、マリア様だけですもの。間違いありません!」


 マリアを指指し、シェリル様の侍女が声をあげる。


 「そんな! 身に覚えがありません!」


 学園で孤独だった頃を思いだし、身体が勝手に冷たくなっていく。怖くて周囲が見られない。



「マリア様はそんなことなさいませんっ!」



 サーシャ様が守るように私の前に進み出た。


 ああ、私はひとりではなかったわ………


 勝手に熱くなる目頭と同時に、冷えて固くなっていた私の身体に血が通う。


 しっかりするのよ

 サーシャ様の信頼に応えなければ!


 一歩踏み出し、サーシャ様の隣に並ぶ。


「シェリル様、私はシェリル様に害をなしたことなど、一度もございません」

 

 いまだに、泣いているシェリル様に向けて、真摯に訴えた。


 侍女がシェリル様を守ろうと、私とシェリル様の間に入る。


「いいえ、今回だけではありません! マリア様はステファン様と親密なシェリル様が妬ましいのです! 何度もシェリル様は酷い嫌がらせを受けています! 皆さま、ご覧ください!」


 そう言ったかと思うと、バサバサッと手に持っていた荷物をぶちまけた。


 枯れた沢山の花や植物、乾きすぎて脆くなった本、光沢を失い、みすぼらしくなったドレス……


 明らかに私の魔法、「気化」と「保存」の影響ではないとわかる品々が転がっている。


「これ等はみな、マリア様のシェリル様への嫌がらせの証拠ですわ!

 これまでシェリル様と私は、マリア様のお立場を憂慮して黙って差し上げておりました。

 それなのに、とうとうこんな事まで!」


 主人を大事に思う侍女は、赦せないとばかりに憎々しげに私を睨んでいる。


「私ではありません! 私はシェリル様のお部屋に近づいたことなどございません」


「なら、こんなに沢山の物たちは一体、誰の仕業と仰るんですか? こういうことが出来るのは、ここにはマリア様しかいらっしゃらないではありませんか! 」


「マリア様、どうか事実をお認めになってください。もう二度とされないと誓ってくださるのなら、私、水に流します」


 泣き止んだシェリル様が、弱々しげに訴えた。


「私ではありません!」


「何と酷い方なのでしょう。赦すと申し上げた私の気持ちがおわかりにならないなんて」


「ステファン様のお心が離れるのも無理はございませんわ」


 シェリル様と侍女は攻撃をやめない。

 美しく、これまで周囲を魅了してきたシェリル様の言葉に、多くの子息や令嬢達が頷いている。


 どうしよう…………

 魔法のせいではないとわかるのは、自分だけ。


 身近に同じ魔法を使える者が多いせいで、「気化」と「保存」の魔法が希少なものであることを忘れていた。

 自分の魔法がどういうものなのか、誰にも説明してこなかった怠慢が、ここに来て私を襲う。

 

 私の魔法ではないと、どうやって信じて貰えばいいの?

 いまここでそれを証明しようにも手立てがないわ


 酷い仕打ちを赦そうとするシェリル様に対し、『証拠』を突き詰けられても頑なに認めない私。

 証明出来ない以上、明らかに私の分が悪かった。

 


「ふん! 馬鹿馬鹿しくてお話になりませんわ」


「「「え?」」」


「マリア様、しっかりなさって? 」


「サーシャ様?」


「お二方、皆さま。それにマリア様も。よくお考えくださいな。シェリル様? こちらのお花はお昼前に、シェリル様がそちらの侍女の方にお命じになって活けられたものですわね? 」


「ええ、ですから、マリア様の魔法でなければこんなに早く乾くはずがございません」


「そんなこと、何の証明にもなりませんわ。

 シェリル様がお認めになったとおり、お花がお昼前に活けられたことは確かです。それは多勢の皆さまがご覧になっております。

 私がマリア様をお昼にお誘いに参りましたときにも、お花は無事でしたわ。そうでしょう?皆さま」


 サーシャ様が周囲を見渡すと、あちこちで頷き、『そうだった』という声がする。


「オラクル侯爵家息女、このサーシャ・オラクルが証言致します。それ以降、私はマリア様と片時も離れてはおりません! 」


 急に皆がざわつき出す。


「ですから、マリア様にこの犯行は無理なのですわ。今回がマリア様ではないということは、これまでの犯行もマリア様ではない、ということですわね? 」


 サーシャ様がにっこり笑ってシェリル様に問う。


 サーシャ様…………自分を信じて助けてくれる友人の存在が、これほど嬉しいものだなんて。

 私は、本当に変わらなければ!


 胸を張り、堂々とシェリル様の前に立った。


「サーシャ様、ありがとうございます。

シェリル様、サーシャ様が仰ったように私はお昼以降、ずっとサーシャ様とご一緒でした。

 ですから、私の魔法のせいではございません。

 それに私は誓って、貴女に危害を加えようとしたこともございません」


 サーシャ様が味方になってくれたお陰で、ひとりにならずに済んだ上に、何人もの生徒達がマリアを信じようという気になってくれたようだ。 


 半分の生徒達はまた泣き始めたシェリル様を見て、マリアを疑っている。残り半分はどちらが真実を言っていっているのか信じかねているという感じだった。


「いいえ!いいえ!」


 また主思いの侍女が声をあげる。


「皆さま、お忘れになってはいけません!

マリア様はステファン様に捨てられてすぐに、ギール第二王子殿下を誘惑した性悪なのです!  オラクル嬢も、ゼノア公爵家に逆らえず、シェリル様を嵌めようと言わされているに違いありません!」


 扇を握るサーシャ様の手が白くなる。侍女の言葉が彼女の矜持を著しく傷つけたのは間違いない。


 否定しようと口を開きかけたそのとき、


「サーシャ様はそんなことなさいません!」


 聞き覚えのある令嬢の声が響いた。

 振り返ると、サーシャ様のご友人の令嬢達が手を握りあいながら、青い顔で立っていた。


「皆さま……」 


 令嬢達は、青い顔のまま私とサーシャ様の周りを囲むように並ぶ。


「私達は、長らくサーシャ様の友人として親しくさせていただいております。ですから、サーシャ様がそんな卑劣なことをなさる方ではないと断言出来ますわ」


「私達も、マリア様の噂を信じて恐れていたことがありました。ですが、ご一緒するようになってから、マリア様がけしてそのような方ではないと信じられるようになったのです」


「お昼休みにマリア様とご一緒だったのは、サーシャ様だけではなく、私達も一緒でした!」


 サーシャ様と手を取り微笑み合う。

 私が涙を我慢出来ず溢してしまうと、まったく!というようにサーシャ様が微笑んで拭いてくれた。

 味方してくれた令嬢達が、クスクス笑いながら私とサーシャ様を見ている。


 風向きが完全に私達に変わった。


 「彼女」が、堪りかねたように吠えた。


「マリアの母親は、身重の母から婚約者を奪った悪女なのよ! 彼女も悪女なんだわ、信じてはダメ!」


 一瞬の静けさのあと、全員がシェリル様の方を向く。




 正確には、シェリル様の側にいる彼女の侍女を見ていた。




「カミラ? 」


 シェリル様が、驚いて自分の侍女を見る。


「お前も! 馴れ馴れしく呼び捨てにしないで!」


 そう言うと、侍女であることを示すお仕着せの帽子を投げ棄てる。同時にきちんと収められていた美しい金髪が流れ出た。


 顔半分を隠すような前髪が避けられ、トパーズの瞳が現れる。そこには、シェリルほどではないが、美人の部類に入るカミラの素顔があった。


 カミラはマリアを指し、シェリルを睨む。


「そこの悪女の母親が、身重のお母様から婚約者を奪わなければ、私こそがゼノア家の娘、カミラ・ゼノア公爵令嬢なのよ?

 本当なら、たかが伯爵家のあなたが軽々しく口を聞ける相手ではないの。その私を侍女扱いしたことは絶対に許してやらないから!」


「カミラ、何を言ってるの? あなたは……」


「うるさいわね! 私に偉そうな口を聞かないでと言ってるでしょう!」


 そこにはもう、主思いの侍女の姿は欠片もなく、暗く、陰湿な瞳で、シェリルとマリアを睨みつける女しかいなかった。








あれ? マリアの成長がサーシャ様の影に霞んでしまいました。

サーシャ=ヒーロー状態……


おぉい、ヒーロー と立縞も思ってはいるのです



お読みいただいてありがとうございます。

またお越しください。

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