閑話 続 兄の恋
マリアが駆けていったあとの二人です
マリアが駆けていく姿を見て、空気のように黙っていた兄のジェリスが嬉しそうに笑う。
「フフ、君もずいぶん、手厳しいね」
「あら? ジェリス様がお頼みになったはずでしてよ?」
「そうだった」
「それにマリア様は、ギールお兄様と同じなんですもの。私、ギールお兄様が大好きですの。ですから……つい力が入ってしまっただけですわ」
「そういうことか…………まぁ、それよりさ、さっきの告白はマリアにではなくて、直接、私に言って欲しかったな」
「何のお話かしら」
先ほどまで王女然とした顔はどこへやら、その手に持つ扇がハタハタと忙しなく動く。
「“ジェリス様の元へ嫁ぐことを誇りに思いますわ” だったかな? 」
王女の手を掴まえ、じっと彼女を見つめる。
「言葉のあやですの。マリア様を叱咤する為のあやですわ、あ・や」
「そうかい? 私としてもその方が助かるけど。
女性から先に言われるのもね」
そう言って、王女の手を離すとジェリスが小瓶を取り出す。
「ジェリス様、それ……」
「お待たせ致しました王女殿下。
七年前、王宮で貴女に初めてお会いした時から、私には貴女だけなのです。
受け取っていただけますか?」
そう言って、ようやく完成した王女の名を持つ、そのブーケの香水を差し出した。
膝をつく彼の顔と香水瓶を、交互に見つめていた王女殿下が、年相応の笑顔と涙と共に、ジェリスの首にしがみついた。
そんな恋人同士のやり取りをマリアは知らない。




