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15.品格

上からドーン



 翌日、婚約者であるお兄様に会う為に、アイリス王女殿下がゼノア公爵家までお忍びでいらっしゃった。


 アイリス殿下はギール殿下のすぐ下の妹だ。


 大抵、お兄様が王宮にお伺いするのに何故、こんなときに限っていらっしゃるの……


 どんなに気が塞がっていようが、王女殿下にご挨拶しないわけにはいかない。

 精一杯、力を振り絞り殿下をお迎えし挨拶をする。以前は王女殿下とお会い出来るのが楽しみだったけれど、今はもう、苦行でしかなかった。


 早く、部屋に戻りたい


 挨拶を済ませ、辞しようとしたマリアをアイリス殿下が止めた。


「マリア様もご一緒にお茶を戴きましょう」


 殿下からのそれは、否と言わさぬ響きがあった。



「では、私はこちらで」


 しばらく会話をしたあと、しんどさと2人の邪魔をしてはいけないとの思いから、マリアがもう一度辞しようと腰を浮かせた。


「お座りなさい!」


 驚いて、ストンと腰が落ちる。

 いつも穏やかな王女殿下の、こんなに厳しいお声は聞いたことがなかった。


「もう、建前はよろしいですわね。マリア様。私、本日は貴女にお会いしに来たのですわ」


 いきなり、思いがけない言葉を聞いて目を見開いた。


「私ですか?」


「ええ、そうよ。マリア様、私、貴女のお兄様はもちろん、ギールお兄様からも貴女のお話を伺っております」


 私の状況をご存知なのね、恥ずかしい。惨めだわ


「ほら、そこ! そこですわ」


 アイリス殿下が立ち上がり、私を指す。


「そこ?」


「どうしてそこで俯いてしまわれますの?

 貴女は仮にも王族と近しいゼノア家のご令嬢でしょう? 公爵家の令嬢でありながら、何という体たらく! 今の貴女は公爵家の、いいえ貴族としての義務を放棄しているのも同然です!」


 流れる水の如く溢れ出る、アイリス殿下の言葉に圧倒され、何も言えない。


「よろしくて? 公爵家は、王室の次に身分が高いのです。まして貴女は私と同じ曾祖母様を戴く間柄。そんな貴女が何故、誇りをお持ちにならないの?

 私も、貴女が学園でどんな扱いを受けているのかは知っています。貴女は周囲だけが変わったせいだとお思いでしょう? 違うのですわ。周囲は変わったけれど、貴女は変わらなかった。ただそれだけなのですわ。

 

 マリア様? 貴女は幼い頃から夢の為に邁進してこられた。それはとても素晴らしいことですわ。

 ですが、貴女の夢はおひとりで叶えられるものですの? いざ、夢を叶えようというときに支えてくださる方はいらっしゃるの? 」


 俯きそうになる私の顔を、殿下が扇の先で上向かせる。


「いらっしゃいませんでしょう?

私、マリア様には、ご自分のお立場を思い出して戴きたいの。

 貴女は紛れもなく、ゼノア公爵家の令嬢ですわ。

 貴女が下れば、貴女の家族、貴女に使える者達が下るも同じこと。貴女が彼等を守らなくてどうするのです?

 いいこと? 貴女の失敗は、ご自分を理解して信じてくださる方々を作って来なかったこと、ただこの一点だけですわ。

 そうしていれば、今回のような噂など微風のようなもの。伯爵令嬢などケチョンケチョンだったはずですわ」


「ケチョンケチョン………」


「コホン……そこはお忘れになって?

 マリア様、私はいずれゼノア公爵家に臣籍降嫁する身です。けれど、以前は他国の王族との縁談もありました。それでも、貴女のお兄様の元へ嫁ぐのは何故かおわかり? 国王陛下や王太后陛下が、何故許してくださったかおわかり? 」


「…………お兄様が諦めなかったから?」


「ええ、そう。本来、王族は国の為に婚姻するべき立場です。王子であるお兄様達もそうですが、王女である私は、最も有効な外交手段でした。それすらも抑えて、貴女のお兄様は私を手にいれたのです。

 そんな方に嫁げることを誇りに思いますわ。ですから私も、けして俯かず貴女のお兄様にふさわしい女性であろうと決めているのですわ。

 マリア様、貴女のステファン様に対するお気持ちはそんな覚悟もできない程、薄っぺらいものですの?」


 ガタッ と思わず立ち上がる。


 お辞儀も煩わしい勢いで、庭園の出口に向かう。


「アイリス殿下、ありがとうございました!」


 これは言わなければと、振り向いて礼をした私に、アイリス殿下は早く行けと笑顔で扇を振ってくれた。



 





マリアが目を覚ましました。



お読みいただいてありがとうございます。


次回は、ちょっと休憩で閑話が入ります。

22時頃の投稿になります。

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