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11.兄の恋

短いでございます…



「もう昼なのね……今日は図書館のお手伝いの日だったのに……」


 あれから、サーシャ様に家まで送っていただきながら馬車の中で泣き続けた。ただ、ただ優しく背中を擦ってくれていたのは覚えている。


 お父様やお母様に心配されながらベッドに入り、泥のようになって眠りについた。

 家族や屋敷の皆を心配させて申し訳なかったけれど、何も言う気になれない。


 ベッドから出る気にもなれないでいると、扉をノックする音がした。


「マリア、私だよ。入るね」

「…………ジェリスお兄様」


 ベッドの側に椅子を寄せたお兄様が、溜め息をついて座った。


「マリア、サーシャ嬢から聞いたよ。だから何があったのかは言わなくていい。だけど、ひとつだけ教えてくれ……ちゃんと言えたのかい?」


 止まっていた涙がまた溢れ出す。


「言えないわ、私はステファンに酷いことをしたのだもの」


「なら、なぜステファンに約束のことを聞いたりしたんだい? 私は止めたよね」


「ステファンが遠くなってしまって……」


「自業自得だよ。お前は仕事バカで他のことには鈍い。本当に曾祖母様そっくりだ。

 でもな、曾祖母様がただ仕事が好きなだけでやってこれたと思うかい?

 曾祖母様はね、亡くなられた曾祖父様を本当に愛しておられたんだ。

 国や民の前に、曾祖父様の為に頑張って来られたんだよ、曾祖父様が亡くなられたあとも、彼が大切にした国だからこそ守ってこられた。まあ、今はきっと僕らの為もあるだろうけど」


 ほつれた髪を優しく戻しながら、お兄様が笑う。


「あんなに偉大な曾祖母様でさえ、愛する人の為でないと頑張れないのさ。お前は今まで何のために必死に頑張っていたのかな? 」


 どうしてなのかしら…………


「お兄様は? お兄様もアイリス王女様の為に頑張っているの? 」


 急にアイリス殿下を持ち出したから、お兄様が黙りこんでしまう。


「…………そうだよ」


「どうして? 決められた相手でも頑張れるの? 」


「そういう人もいるだろうね。でも、私はそうじゃない。お前は勘違いしているよ。

 私とアイリス殿下は決められたから婚約したわけじゃない。しかも婚約者といっても仮だしね」


「婚約式もしたじゃない」


「ああそうさ。でもな、殿下と婚約したいとお願いしたのは、私なんだ。私がアイリス殿下を好きになって口説いて口説いて、やっと婚約を承諾してもらったんだ」


「初めて聞いたわ」


「当たり前だろう? 私が妹にこんな話をペラペラ話すわけがないだろう」


「話してくれてもよかったと思うわ。でも、なぜ仮なの? 」


「お前もしつこいね」


 ガシガシと両手で頭をかいたあと、顔を覆って答えてくれた。


「ブーケ」


「ブーケ?」


「アイリス殿下が婚約を承諾してくださった時に条件を出されたんだ。『ジェリス様が私をイメージした私だけの香水を、結婚式までに完成させてください』そう言われた」


「だから、ブーケの香水を作っているの? 」


「ああ、作っても作ってもアイリス殿下のイメージにならなくて、困っているところなんだ。だから、たとえ婚約式を終えてようと私とアイリス殿下の間では『仮』なのさ」


「でも、諦めないのね? 」


「もちろん。お前はどうする?」


「…………まだ、わからないわ」


「そうか。ならもう少し考えるといい。でも、後悔しないようにちゃんと考えるんだ。

 ただステファンが離れていくのが嫌なのか、どうしてなのかをね。

 あまり時間はない。泣いている場合ではないはずだよ」



 お兄様はそう言って笑って、私の髪をもう一度撫でて出ていった。



 









 

読んでくださってありがとうございます。

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