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もう転生しませんから!  作者: さかなの
魔王と勇者 編【L.A 2034】
6/53

してしまったことは、もどらない

 ……あれ?いま、何て言ったの?魔王……ま、おう?王さま?なんの……?

 魔族の、王様?


「あんたはメイドじゃなくて、魔王じゃないのか」

「そそそそんなわけないじゃないですか!わ、私なんて今までの前世はお洋服繕って、お料理して、ちょっと小物作るだけで!」


 男の顔は面白そうににやにやしてるだけで敵意は無さそうだし、この話自体嘘かもしれない。からかってるだけかもしれない。


「ふ~ん、魔王ってのはなぁ、ヒトをさらったり、他人をこらしめたりするんだぞ」

「し、しません!」


 どうして、どうしてそんな意地悪を言うの。私はただ、このツノを見ても魔族だからって酷いことをしないヒトの存在が嬉しくて、次に来てくれたら食べてほしいなってものを育ててただけなのに。せっかくおさまったのにまた泣きそうになる。


「これを見てみろ」


 急に真面目そうな声を出しても、私は悲しいです。


「うぅ……なんですかぁ……」


 男は空間を指差した。別の光景が浮かぶ、遠くを視る魔術。覗きこむと、たくさんの子供たちと悪そうな顔をした大人たちがいっぱいいた。よく見ると、子供たちの顔は憔悴しきっていて、目に生気がまるでない。抜け殻のように。


「なんです、か……これは」


 どうして、いま、私にこんなものを見せたんだろう。いよいよ彼の考えてることが分からなくなり、少し怖くなる。でも、その横顔が苦しそうだったから。


「魔王はな、こういう子供をさらうんだ」

「さらうなんてこと、しません!!そんな……こと……っ」


 視線が子供たちと隣の男を何度も往復する。頭の中で考えることがいっぱいすぎてぎゅっと目を閉じる。大きく息を吸ってから、もう一度切り取られた光景を見た。

 子供には首と手首、足首に枷が嵌められており鎖で繋がれている。そのうちの一人が大人に叩かれている、殴られている。


「……っ、ひどい」


 こんなに怒ったことなんて、今まで無かった。胸のあたりがぐるぐるして、苦しくて、顔があつい。手が震える。そして私は……私は。


「う、うわああああ!?魔族だ!!」


「ちげえ!ありゃぁ……ま、ま……魔王だ……」


 私のいる場所は、お城じゃなかった。あの人に見せられた光景の、場所。薄暗くて、においも酷くて。


(やった!成功してる……!)


 森で万が一、熊とか大きな獣に出会ってしまったときのために幻を見せる魔術を覚えた。熊には大きな熊が見えるようにと練習していたけど、今このヒトたちに見えているのは大きなツノの生えたドワーフと熊を合わせたような大男。まさか魔王だと認識させてしまうなんて……ツノをつけたからかな?このヒトはツノは魔王に生えるって思っているヒトなんだろうか。

 はっ、いけない。考え事なんかしてる暇はないんだ。子供たちを助けないと。


「わ、わた、我は魔王だ!ふぁ、ははは!この子供はいただ、さらわせてもらうぞ!さらば!」


 声も上手い感じに変えられている。獣の声真似の魔術も一緒に覚えてよかった。

 近くにいた子供たちを抱えられるだけ抱えて、すぐに移動する魔術を使う。すごい、心臓がバクバクしていて、汗が止まらない。空から落ちたときより、街で石を投げられながら逃げたときより、ずっとずっと怖かった。城へ戻ってきたけれど、あのヒトがいない。


「……あなたは、なんなのです」


「わ、わたし、いま、ゆうかいを」


 子供が何か言っているけれど、私は大変なことに気付いてしまった。これは、誘拐だ。あのヒトに言われた通り、魔王だと言われた私は、子供をさらってしまったのだ。


「さっきの……でけー魔王はどこいったんだ」

「わたし、です……」


 子供たちは、案外冷静に見えた。私よりも、全然落ち着いている。お城の中と私を交互に見ているようだ。


「オレたち、奴隷……お前は、魔王?オレたちに、魔王の奴隷になれって?」

「そんなことっ、しません!!見ていて……つらかったんです……」

「ツノがあるってことは確かに魔王だぜ……だが、こんな……」


 やっぱり、ツノがあるのは魔王だけなんだ……。それにしても、この子供たちは見た目よりずっと大人びている。前世を思い出した転生者なのだろうか。


「それだけの理由で私たちをここへ連れてきたと」

「はい……ごめんなさい……」

「……私たちは前世を覚えています、きっと、あのような光景だけでつらくなって飛び出してしまうあなたより、ずっと数々の修羅場をくぐっています」


 私、説教されてる……。見た目だけ、ツノだけ生えてる魔王もどきが余計なことしたから怒ってるんだ……。きっと私よりずっと強くて、別に私が助けなくても自力で脱出できたヒトたちなのかも。


「うぅ……」

「泣いちゃうくらい弱いのに……がんばったんだね」


 足がすくんで床にへたりこんでいる私に、銀髪の子供が触れてきた。顔の傷が、腕の痣が痛々しくて私の方が泣いてしまった。頬を撫でてくれた手は私よりも小さくて、枷と鎖がとても重くて。


「まぁ……私たちは生まれた地であるヒトの国では生きていけません。あのまま、あの場所にいても死ぬまで奴隷だったことでしょう。あなたに救われたことは事実です……」

「そおだな、こんなに弱そうな魔王なんざ見たことねぇが……助けてくれてありがとな」


 怒ってない……?ありがとう……?

 張り詰めていた糸が切れてしまって、私は声を上げて泣いた。本を読んでてよかった、勇気を出してよかった、無駄じゃなかったんだ。


「あなたに尽くします、魔王様」

「尽くして頂かなくて、大丈夫です」

「…………えっ!?」


 後ろの二人がすごく笑っている。私が断ってしまった金髪の子は、悲壮感溢れる顔のまま止まってしまった。


「ただ、自由に、好きに生きてくれれば……ここには、まだ何もないですけど、皆さんが不自由しないように私、頑張ります!」


 私のために助けたんじゃない。ヒトをああやって捕らえて、痛めつけるなんてことあっちゃいけない。私の今までの人生では、奴隷なんて出会ったことなかった。こんなに小さくても、酷いことをするなんて。でも私が助けたってここにはまだちょっとの家庭菜園くらいしかない。食糧調達と、掃除もこれから頑張らなきゃ!


「あなただけが頑張ってどうするんですか!い、一緒に頑張れば……いいと思います」

「そおだぜ、世話になるんだから頼りきりでもいけねえ、俺たちも手伝うぜ」

「オレたちのことも、頼ってね」


 寂しくて寂しくてたまらなかった日々が、一変してしまった。でも、悪い変化じゃない。

 これからは、この子たちと生きていく。何もないお城だけど、弱虫で泣き虫な私だけど、新しい人生を始めよう。


「はいっ!よろしくお願いします……!」


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