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もう転生しませんから!  作者: さかなの
建国 編【L.A 2064】
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つぎはぎのこころ

 ベネットが使うことのできる、動物の視点から風景を見る魔術の準備。そして奪還作戦の面々は己の装備を確認する。だがそれは最低限に抑えて。あくまで目的は奴隷にされた者たちの奪還なのだ。他者を無意味に傷付けることではない。


「ヒトが増えても大丈夫なように、色々準備を進めておきます……絶対、怪我なんてしないでくださいね」

「必要以上に戦わない、絶対にみんなと、新しい家族と一緒に帰ってくるね」

「はいっ……!」


 空気は重かった。本当に成功するのか、誰かを失うのではないか……求める家族が、生きているのか。その確認が一番難しいのだ。しかし、既に出立の準備は整っている。そう、探しものはとっくに見付かっているのだ。


「私はアラルに連れて行かれたとしか言っていないのに……よく探せましたね」

「転生者ではないとのことだったので、手掛かりなんかどうやってと思いましたが……まったく」


 皆が覗きこんでいるのは、以前アオイの作った『敵襲コンパス』によく似た円盤の上にある針がクルクルと回るもの。しかしその針はピッタリと一定の方向を差し示し止まっている。


「作っておいてよかった、血から家族を探すコンパス~」

「名前は変えてください」


 『ちょっと部屋に行ってくるね』と姿を消し、あまり時間が経たないうちに何かを手にして戻ってきた。それがくだんの血から家族を探すコンパスなどとやや物騒な名前のものだった。一体どんな仕組みなのか、そもそも正しく機能しているのかも分からない。だがこれに頼るしかできないのだ。


「奥さんの親戚さんが一緒でよかった。娘さんはすぐ見つかるだろうけど奥さんは君と血が繋がっていないからね」


 男に手を出すよう告げ、ナイフを取り出したときはさすがに驚き止めに入ったことを思い出し、トーマはため息を吐き出す。彼らは元より三つほどの近隣の村々の民が集まった集団だという。親族の多い彼らは、コンパスの針が動く様子を見て自分の娘も、孫も、と一時騒然としたものだ。そしてまた幸運なことに、全ての者たちに針が反応を示し、同じ方向を差していた。


「……生きていて……良かった……ありがとうございます、本当に、何から何まで……ッ」


 男は耐えきれなかった涙を溢し、肩を震わせながら腕で顔を拭う。他の者も同じように、涙をこぼしていた。


「まだ助けてない、お礼はもっかい、ここにみんな揃ったらゆってね」

「はい……」


 震えたままの両肩をしっかり握り、ジェイソンは微笑む。だがその表情はほんの少しだけ陰りが見えた。ただ一つの不安。ただ一つの殺気をその背に感じながら……。



「ベネット様の人助けのきっかけは分かります……しかし、彼は……あの魔導師は、なぜ……」


 方向が分かれば後はベネットに任せ、移動魔術を展開しやすそうな場所を見つけてもらうだけだ。幸い、トーマたちはアラルに赴いたことがある。路地を完全に把握はしていないが、建物の特徴や人通りの少ない路地がどういうところにあるかという目安は覚えていた。


「長生きとは言ってたがどれくらいの歳かも、今までどう生きていたかも、転生者なのかそれすらも……あいつに至っては何も分からねぇ、だが……奴隷に対しての意見は一致してそうだな」

「あからさまに怒っていましたね、というか、怒れるんですね」

「いつもヘラヘラ……まぁ、顔は分からねぇが。あんな態度だから、急に怒ると迫力あるな」


 あのジェイソンが口を噤み、アオイの背をチラチラ見るだけになってしまっている。当のアオイはベネットの隣で様子を見ていた。

 信用はしていないが頼ってはいる。自分たちだけでは不十分であることを理解しているから。顔を隠しているから、素性が知れないから、それだけが理由ではないのだ。彼には……アオイには、あまりにも感情が少なすぎる。軽快な口調でも、穏やかな所作でも、それに感情がついていない。そして初めて見たアオイの怒りという感情は、よく知ったものでありどんな危険があるかも分かっていた。


「ある意味、危険です。強さの程度から言って、私たち四人、あの魔導師一人で分かれても問題はないでしょう。ですが……私と魔導師、あとは君たちにお願いします」

「そこでジェイソン付けないのが、すげぇよ」

「彼に懐いているジェイソンが止められるとは思えません。サイロンは以ての外です、放っておくでしょう」


 その会話にはジェイソンもサイロンも参加しているが、ジェイソンはアオイを見てばかりで話を聞いている様子ではないし、サイロンも警戒はしているが特に興味が無さそうだった。


「……分かった、娘の方は任せろ。母親の方は……娼館だってこと、忘れんなよ」

「えぇ……」


 ベネットによると、娘の方は同世代の娘たちと共に馬車に乗る前だという。母親の方は、大きな屋敷でたくさんの女性と屈強な男たち、金銭のやりとりをする男たちが見えたと言った。ベネットは分かっていなかったようだが、トーマたちはその屋敷がなんなのか察するに時間は掛からなかった。

 だったら、娼館の方にトーマとドレアス、サイロンを向かわせ娘たちの救出にアオイとジェイソンを付ければいい。けれどそうできないのは、アオイがベネットにそれ以上見ないようにと魔術を止めさせ、自分がそちらに行くと宣言してしまったからだ。場所が把握できた以上、救い出す者たちを集めれば移動魔術を使わなければならない。トランシーバーで連絡を取ることも可能だが、建物内で移動魔術を展開しなければ誰かしらが危険に晒されてしまうだろう。自在に魔術を使えるアオイが、確かに適任なのだ。



 ギシギシと床板が軋む。従来の乗車可能人数を越えた数を乗せているぎりぎりのところなのだ、仕方あるまい。


「こちらは移送中で良かった、無意味な戦いを避けられたからね」


 街の中はやけに閑散としていて、賑わっているとは言えなかった。そのおかげで裏路地から奴隷売買の館へとすんなり向かうことができたのだが。その後も滞りなく作戦を遂行し、商人や護衛たちには気絶してもらっている。


「みんな、大丈夫だよ、奴隷なんてもののない場所に行くんだ」


 未だ怯える娘たちはサイロンたちのことをしっかり見ることができていない。もしかすれば奴隷を乗せた馬車を襲った盗賊だと思われているのかもしれなかった。そんな中で、子供のように彼女らをあやすジェイソンの存在はドレアスにとって助かるものだ。自身も女という性別はあるのだが、この場合どう接すればいいのかがてんで分からない。馬車に同乗せず、外の見張りと称して傍を歩くのはそれが理由でもあった。

 一番幼い女の子にジェイソンは話しかける。そして頭を撫でたり、その小さな手を包み込むように握ってやったりしていた。するとその少女や、周りにいた娘たちの強張っていた肩はすとんと落ち、その視線はジェイソンに注がれる。


「よし、ジェイソンはそのままそこにいろ、お前は適任だ。あたしはトーマと合流する、サイロンは先に移動魔術の展開場所に向かって城へ戻ってくれ」

「了解」


 まだ安心はできない、ベネットと打ち合わせしてあった場所に着くまでは。けれどその任務をサイロンに押し付けてでも向かわなければならない理由ができてしまったのだ。


「ったく……なんで血のにおいがこんなにすんだよ……!!」


 わずかな風でもそのにおいはあまりに強すぎる。この方向は、トーマとアオイが向かった娼館のはずだ。

 必要以上に戦わない、あくまで奪還作戦を第一優先にすると、そう決めてあったじゃないか。しかし思い出してみる……そうだ、アオイは、それに頷いてはいなかった。


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