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まだ長いとは言えない私の人生だけど、そのうちで最も美しい光景だった。
冬の早い黄昏、白を基調とした保健室を染め上げる夕日の朱、遠くで聞こえるのは小学校の廊下をはしゃぎながら駈けていく生徒の声。それに重なるもの寂しいオルゴールの音は下校を促す校内の放送だ。
保健室のベッドで眠るのは、まるで人形みたいな愛らしい顔の少女だ。無垢なあどけなさを残していて、女の私が見たって文句のつけようもなく可愛かった。
その脇に腰掛けて深く身をかがめている少年がいる。
……少年、というよりはまるで彼も妖精のように端正な顔をしていた。それは同級生男子の頭悪さとか薄汚さとか、そういった世俗を超越した綺麗な存在みたいに見えた。彼はその少女に口付けようとしていてるのに、まるで童話のワンシーンのようで、性的なものを感じなかった。
私は扉のところでアホのように口を開けて見ていたんだと思う。
一枚の絵として記憶に残るその風景。
で、その少年というのがそりゃあもう、頭のてっぺんから足の先まで外道な人間だったわけだ。