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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

百合シリーズ

萌える恋心

作者: SchwarzeKatze

リクエストが多かったので、佳代子で書きました。

よろしければどうぞ♪


前作はこちらです♪

https://ncode.syosetu.com/n2066fh/

 先輩は今頃部活かな……。

 そんなことを考えながら、私 鈴木すずき 佳代子かよこは、手芸部の部室に居た。


 「鈴木さん、エプロン完成しそう?」


 部活の先輩が声をかける。


 「はい、今日には完成するかと」

 「鈴木さん、器用だからね。羨ましいよ」


 そういって、部活の先輩は笑う。


 「もう、私たちなんで抜かれちゃってるよ……」

 「そ、そんなことないです!」

 「でも、私ならそのエプロン作るの、何日かかるか……。

 それ、3日くらいで仕上げてない?」

 「つい夢中になっちゃって……」


 先輩は、ため息をつきながら、言う。


 「もう、次の部長は鈴木さんに、なってもらおうかな」

 「え?」

 「もうね、どちらかというと、私たちが教えてもらってるような、感じだし」

 「そんなことないです! 私も教わることが多いですし。

 それに私、1年生ですよ?」

 「1年生が部長でも、全然問題ないし!」


 部活の先輩は、笑って言う。

 ……でも、目がマジだ……。


 「でも、そのエプロン、鈴木さんには大きすぎない?」

 「はい、これは、柊先輩ので……」

 「あぁ、聡子のね! 幼馴染なんでしょ?聞いたよ~」


 『聡子』……私の胸に、ちくっと刺さった。

 部活の先輩は、私の幼馴染 ひいらぎ 聡子さとこのクラスメイトだ。

 でもなぜだろう……先輩の事を名前で呼ばれると、胸が苦しくなる……。

 理由は簡単かもしれない。

 私も……いつか、そういう風に呼びたいからなのかも……。


 「あ、邪魔してゴメンね。今日中に仕上げたいんでしょ?」

 「はい、出来れば」

 「じゃあ、もうすぐ時間だから、片付けの時間も考えて作業してね」


 先輩は、そういうと自分の作業場に戻っていった。

 でも、先輩はデザイナー志望なので、部長話もあったけど、私は先輩が部長なのが一番いいと思ってる。

 私なんて、単なる趣味……というか、柊先輩の服を作るのが趣味というか……。

 ……柊先輩、服には無頓着だからなぁ。

 私がこうして、服を作ったり、ショッピングにでも連れ出さないと、ジャージ姿で過ごしそうだし。


 私は、エプロンに最後の仕上げをして、片付けを始める。


 「お?できたの?見せて!!」

 「はい、見ていただけますか?」


 服を先輩に手渡すと、先輩は服を広げ、まじまじと見る。


 「うん! いい出来だね! 私も鈴木さんの腕が欲しいよ」

 「ほめていただき、ありがとうございます!」


 やっぱり、デザイナー志望の先輩に褒められるのは嬉しい。


 「けど……」

 「けど?」

 「これ、聡子が着るの?」


 言葉に反応して、胸にちくっと刺さる。

 先輩はそんなことないだろうけど、私の嫉妬なんだろうなぁ……。


 「聡子、これ着るのかな……。着たら、写真ちょうだい!」

 「……来てくれると思いますが、写真見せたら殺されます」

 「だよね~。私も見たかったなぁ……。

 良いよね~、鈴木さんにはいいモデルが居て」

 「え?」

 「だってほら、聡子って身長高いし、モデル向きだと思うんだよね。

 私の服も着てほしい~!」

 「そう……なんですか?」

 「うん、この間頼んだら、断られたよ。くやしい~!!」


 そういって、先輩は私にエプロンを手渡すと、自身の作品を持ち出す。


 「これなんだけどさ、聡子に着せたら似合うと思うんだよなぁ……」


 先輩は作品を広げて見せる。

 先輩の作風は、ちょっと露出度高めのものが多い。

 ファッションショーなら映える作品だ。

 けど……。


 「柊先輩の趣味に合わないかと……」

 「……だよね。一度着て写真撮らせてほしいのに……。

 鈴木さんからお願いできない?」

 「……私から頼んでも、無理かと……」

 「そっかぁ……残念」


 肩を落とす先輩。


 「仕方ない、モデルは私が探そう……」


 先輩はそうつぶやいて、名残惜しそうにする。


 「じゃあ、時間だから解散ね。片付け終わってない人は、早く片付けること!」

 「「はーい!」」


 片付けの済んでいた私は、一番乗りで部室から出る。


 「お疲れ様~。聡子にもよろしくね~」

 「…何をかわかりませんが、わかりました」


 こうして、私は、先輩……柊先輩と、いつもの待ち合わせの場所に向かう。


 「やっぱり、寒いなぁ……」


 冬の寒風が身に染みる。

 部活の終了時間は大体同じ。

 部活が長引いたのか、柊先輩は10分ほど遅れて、待ち合わせ場所に来る。


 「かよ、待った? 部活長引いちゃって……」

 「ううん。全然!」


 柊先輩 ひいらぎ 聡子さとこ、1つ上の幼馴染。


 「かよの部活は、もう終わったんじゃないの?」

 「ううん。あたし手芸部だから、残ってても作業はあるの」


 嘘。

 待ってたことは悟られたくないから。


 「へぇ……。で、何作ってたの?」

 「先輩のエプロン♪」


 私の自信作を披露する。


 「……それを、私に着ろと?」

 「え……。似合うと思うけど?」


 普段は喜んで来てくれるのに……。

 私は、反論に思わず立ちすくしてしまう。


 「……ねぇ……。それって、私のキャラ壊さない?」

 「そうかなぁ……。たまにはかわいいのも、着てみてほしいな……。」


 私の自信作が、お気に召さないようで……。

 私は若干拗ねる。


 「うん……。わかった。

  次の週末に、これ着て二人で何か作ろう」

 「ありがとう! じゃあ、お揃いのエプロン作らなきゃ!」


 着てくれる!

 私は、体の芯から喜びを感じた。

 そしてつい、お揃いのエプロンを作る提案をしてしまう。


 「ところで、なんでお揃いにするの?」

 「……お揃いがいいんだもん……」


 ……ちょっと、前言撤回したいかも……。

 自分で言って、照れてしまう。

 でも、お揃い着てくれるなら、私も嬉しい。

 勢いで行っちゃったけど、週末に向けてエプロン新調しなきゃ。


 「あ……、お揃い、良いね。」

 「でしょ♪ お揃い、お揃い♪」


 私はすっかり、高揚していた。

 張り切って作るぞ♪


 「じゃあ、そろそろ帰ろうか?」

 「うん♪」


 私と先輩の家は、近所。

 だから、いつも一緒に帰っている。

 それに私は……この時間が一番好き。

 だって、私は……。


 「……」

 「……♪」


 特に会話はしなくても、私は浮かれてしまう。

 だって、一緒に帰れて、一緒の時間なんだもん。

 私にとっては、ささやかな幸せな時間。


 「かよ、良いことでもあったのかい?」

 「ううん、何でも♪」


 ま、先輩はこういうの、鈍いからね……。

 女の子に告白されて、私に相談する始末だし……。

 私としては、傷つくんだけどね……。

 先輩は、私の気持ちになんて、気づいていないだろうなぁ……。

 あ、そうだ!


 「ねぇ、先輩♪」

 「ん?」

 「今日、帰りに先輩の家に行ってもいいですか?」

 「ああ、良いよ!」


 今日出来立ての、エプロンを着せたい♪

 あわよくば、写真撮って、宝物にしたい。


 「今日はどうしたの?」

 「う~ん…なんとなく?」


 さっきエプロンは見せたけど、サプライズアタックってことで。

 楽しみだなぁ♪

 ……ちょっと、寒空で待ったせいか、体が冷えてきた…。


 「寒い……」


 思わず口走ってしまう。


 「コーンポタージュ飲む?」

 「え?」


 私が返事をする前に、先輩は行動に移す。

 自販機から、コーンポタージュを取り出し、私に手渡ししてくる。


 「冷たっ!」

 「こんなに冷えてたの? 手袋しなきゃダメじゃない!? これでまず手を温めて?」

 「……」


 先輩の言葉は私には届かない。

 先輩の手……暖かかった…。

 私は余韻に浸る。


 「かよ?」

 「あっ、はい!?」

 「どうしたの?」

 「いっ、いや、何でもないです!」


 ……手のぬくもりの余韻に浸ってたなんて、言えない……。

 私は、体がかぁっと熱くなる。


 「え? 熱? おでこ出して?」

 「えっ! だ、大丈夫です!」


 な、なにをする気??

 私、熱ないよ?

 ……あるとしたら、先輩に熱を上げただけで……。


 「いいから、おでこ出して?」

 「……。」


 覚悟は決めた。

 この後、先輩がとる行動は、大体予想できる。

 はたして……。


 「ひゃう!?」


 先輩は私におでこ同士で体温を測る。

 私は、思わず変な声を出してしまう。

 ……覚悟はしてたつもりなのに。

 ……先輩のいい香りが……。


 「熱は無いみたいだけど……、顔赤いよ?」

 「だっ、大丈夫です!」


 ……きっと、私の目、泳いでるだろうなぁ……。

 いっそのこと、目で背泳ぎしたい……。

 私は気を紛らわせるために、コーンポタージュを一気飲みしようとする。


 「熱っ!!」

 「……そりゃそうよ……。なんで一気飲みなんか……」


 はい、先輩のおっしゃる通りです……。


 「だい……じょう……ぶです……」

 「全然大丈夫じゃなさそうだけど……」


 はい、先輩のおっしゃる通りです……。

 付け加えるなら、先輩が心配している以上の所を、心配してほしい。


 私はもう少し、コーンポタージュを握りしめ、手を温めてからもう一度口にする。


 「どうして、そんなに急いで飲んだの?」

 「だって……。コーンが残るから……」


 嘘。

 さっきのおでこの余韻を残しながら、落ち着くために一気に飲んだ。

 ……てか、コーンポタージュのコーンって、食べにくいよね?

 無難な会話で、逃げ切る。


 「おかげで温まりました! ありがとうございます。」

 「じゃあ、早く帰ろうか。」


 ま、いろんな意味で……ね。

 私たちは、先輩の家に向かった。


 「着いたー!」


 先輩は安堵の声を出す。


 「で、今日は何しようか?」

 「えっと……。」


 ……ここまで来て、言いにくい……。

 先輩にエプロン着てほしいって……。


 「どうしたの? いつもみたいに気軽に言って?」

 「じゃあ……。」


 お言葉に甘えて、遠慮なく。



 「きっ、今日作った、エプロン着てください!!」

 「……え?」

 「あれ?」

 「これです!」


 遠慮はしない。

 だって、気軽に言っていいって言ったもん♪


 「これかぁ……。制服のままじゃ……着れないかな?」


 ……当たり前。

 まぁ、上着脱げば、入る寸法にはしてあるけど。


 「じゃあ、着替えるね。 ちょっと待ってて。」


 そういうと、先輩は制服を脱ぎ捨て、下着姿に。

 先輩にとっては、普通なんだろうけど、私にとっては刺激的なんだよなぁ。

 そして、先輩は普段着に……じゃなく!?


 「どう?」

 「……」


 し、下着の上にエプロン!?

 これが世にいう、裸エプロンの一歩手前!?

 え? でも……こ、これは……ちょっと……。


 「先輩!! 服着てください!!」

 「……ダメ?」

 「はい! 刺激が強すぎます!!」


 心の中で、押し倒したい気持ちと葛藤する。

 ……目に焼き付いた……。

 今夜は眠れなさそう……。


 「どお?」

 「……さっきよりは、刺激がなくなりました」

 「え?」

 「い、いや、何でもないです!!」


 思わず、さっきの絵と、残念な気持ちを漏らしてしまう。

 先輩……鈍感すぎます……。

 私は深呼吸をして、先輩に告げる。


 「とても似合ってます……素敵です……。」


 先輩用に仕立てた服……。

 やっぱり似合うなぁ……。

 私は少しの間、見入ってしまう。


 「もういい?」

 「できれば…写真撮らせてください!」

 「ダメ~!」

 「ふにゅう……」


 いっそのこと、下着エプロンを不意打ちで、写真撮っとけばよかった……。

 少し後悔してみる。


 「じゃ、じゃあ、今度の2月13日に、お菓子作らない?

 その時に二人で写真撮るなんてどう?」


 あ、そういえば、バレンタインデーも近かったかぁ……。

 その時までに、私のエプロン作ればいいかな?

 うん♪ いい口実が出来た♪


 「えっ、はい!! 嬉しいです! じゃあ、私の分もエプロン作りますね!」


 先輩の表情も緩む。

 一つひとつの表情が、私にとっての宝物……。


 「わたし、今から13日が楽しみです!」

 「そっ、そう?」

 「はい♪ 今日の用事は、エプロン姿の先輩が見たかったんです!」


 今日の目的は達成。

 家で、ゆっくり堪能しよっと♪


 「じゃあ先輩、約束ですからね♪ 今日は失礼します♪」


 そういって、準備をして……。


 「では、失礼しますね。先輩♪」

 「うん、また明日ね~!」


 私は足早に家に帰る。

 そして、制服姿のまま、部屋のベッドにねころむ。


 「先輩のエプロン姿♪」


 さっきの姿を思い出して、堪能する。


 「……下着エプロン……」


 ふと、思い出す。

 ……今日は眠れないな……。


・・・・・・


 約束の日を指折り数えて……。

 私にとっては、千夜に近く時間の流れが遅かった気がする。

 とうとう、約束の日。

 2月13日になった。


 「かよ、お待たせ!」

 「いえ、全然待ってませんよ?」


 嘘。

 けっこう待った。

 でも、その待つ時間も楽しかった。

 先輩が来てくれるって……。


 「いや、待ったはずじゃない?」

 「いいえ、全然待ってません!」


 先輩の言葉に、私は反論。

 そして、先輩はおもむろに私の手を握る。


 「ひゃ!!」

 「手、冷たいじゃん。やっぱり待ってたんだ! でも、手袋しないとダメだよ?」

 「……。」


 先輩の手……暖かい……。

 余韻に浸る私。


 「かよ?」

 「な、何でもないです!!」


 私は、ハッとわれに返る。

 先輩はいつものように、優しい笑顔。

 見惚れる……って、そうじゃなくて!!


 「じゃあ、とりあえず、買い出しに行く?」

 「は、はい!!」


 邪念と戦う私は、思わずどもってしまう。


 そして、お菓子のお店に二人で向かう。


 「混んでるね…」


 まぁ、確かにこの時期混むけど……。

 先輩は珍しいように、言葉をこぼす。


 「ここで買っていく?」

 「うん!」


 多分、どこも同じ状況だと思う。

 私がよく通う店なので、ここで買い物をすることにした。


 「じゃあ…何作ろうか?」

 「マシュマロにチョコ付けて、デコレーションするのは、どうですか?」

 「あ、簡単そう! それにしよう!」


 先輩と作るなら、この辺が無難かなと。

 私は、必要になる材料をカゴに入れる。

 材料は……マシュマロと、お菓子用チョコレート、バニラエッセンス、砂糖、シュガーペースト。これで足りるはず。


 「あ、先輩! ラッピングも置いてあります!」

 「お、どこで買うか悩んでたから、ちょうどいいね!」


 普段は無いけど、シーズン用にコーナーが設置されている。

 本当は、普段からおいてほしいと思ったり。


 「じゃあ、買い物も終わったし、帰ろうか?」

 「はい♪」


 私は浮かれて、返事をする。


 「料理と言えば……かよの家でやりたいんだけど……。今日は大丈夫?」

 「うん! 大丈夫ですよ! じゃあ、先輩も準備してきてくださいね!」


 まぁ、料理するなら、私の家なんだけどね。

 私用の道具も揃えてるし。

 ……前に先輩の家に行ったとき、お菓子作りの道具が無くて、結局私の家で作ることになったのも思い出す。


 「そういえば、かよは友達出来た?」

 「うん、居るよ~!」

 「あまり、私以外と遊んでる話、聞かないけど……。」

 「ん~、私、おねえちゃ…先輩と一緒にいるのが、楽しいから♪」


 何気ない先輩の会話。

 思わず、お姉ちゃんと呼びそうになる。

 いつからだろう……そう呼ばなくなったのは……。

 中学に入ってからかな?

 さすがに気恥ずかしくなったから……かな?


 「たまには友達とも遊びなよ……」

 「大丈夫! クラスや部活でいっぱい遊んでるから!」

 「いや……、そうじゃなくて……」

 「なぁに? 先輩は私と居るのが、不満なんですか?」


 私は、ぷ~っと膨れる。

 私は……先輩と……お姉ちゃんと一緒にいるのが……。

 そう、好きだから。

 いろんな意味で。


 「そういえば、かよって彼氏いないの?」


 先輩からの不意打ち。


 「い、居るわけないじゃないですか!!」


 だって、私は……。


 「え~、かよって可愛いから、彼氏の一人や二人いても……」

 「二人いたら、ダメでしょ!!」


 とりあえず、ノリで突っ込み返す。

 でも……そういえば……。


 「……」

 「ん?」

 「先輩は?」

 「へ?」

 「先輩は、彼氏や好きな人いないんですか?」


 ついでだ!

 勢いで聞いてしまえ!!

 もし、好きな人が居れば……。

 私の胸に、とげが刺さる。


 「居るわけないじゃん」

 「じゃあ、彼女は?」


 ……勢いで、何言ってるんだろう……私。


 「……女の子からは、時々告白されるよ……」


 え?え?

 いや、確かに、私に相談しに来たこともあったけどさ……。

 そんなに!?

 じゃ、じゃあ!


 「それを受けたことは?」

 「あるわけないじゃん!!!」

 「……♪」


 一気にご機嫌になる私。

 ……でも、何安心してるんだろう……。

 それは……理由は分かってる……。

 話をしているうちに、分かれ道に。


 「じゃあ、準備したら、かよの家に行くね!」

 「はい、待ってます♪ エプロン、忘れないでくださいね!」

 「うん……、わかった。」


 私は足早に、家に向かった。


 家に帰ると、さっそく制服を脱ぎ捨て、着替え。

 そして、エプロンを付ける。

 あと、この日のために作った、カチューシャも。

 この姿で待機。


 家のチャイムが鳴る。

 ここで私は、サプライズアタック!


 「お帰りなさいませ、お嬢様♪」

 「え? 何??」


 ……先輩じゃ無かったら、どうしようかとも思ったけど……。

 とりあえず、成功♪


 「……何してるの?」

 「ちょっと、やってみたかったの♪」


 私は、ご機嫌になる。

 そして、私と同じ格好になる、先輩の姿を想像すると、思わずにやけてしまう。


 「……ねぇ……。そのカチューシャ、私も付けるの?」

 「え? なんでそんな普通のこと聞くの?」


 ちょっと強引だけど、自然体で答える。

 はい、決定事項ですよ~、先輩♪


 「わかったよ……。」

 「うん♪」

 「じゃあ、さっそく作ろうか。」

 「はい♪」


 先輩は、持ってきたエプロンに着替える。

 ……やっぱりきれい……。

 思わずにやけてしまう。

 ……先輩には顔を見られないように……。


 ここからは、私のレクチャー。


 「何から始めようか?」

 「……チョコ溶かすに決まってます!」

 「じゃあ、溶かそう」

 「……先輩? いきなり鍋に入れたりしませんよね?」

 「ゆ、湯せんでしょ? それがぐらいわかるって!」

 「先輩、目が泳いでます……」

 「じゃあ、鍋にお湯作って……」

 「……箸で、溶かそうとしてません?」

 「……。これ、何に使うか知ってます?」

 「……見たことない……」

 「はぁ……。先輩、全然お菓子作りしたこと、ないんですか?」

 「うん……。」

 「これは、お菓子作りには、必須アイテムです!」

 「そうなの?」

 「そうです! 例えば、ホットケーキだって、本当はこれで混ぜるんですよ?」

 「え?」


 ……疎すぎる……。

 なんか、チョコ溶かすだけなのに、こんな……。


 「こう?」

 「う~ん……。ちょっといいですか?」


 私はかこつけて、先輩の後ろから抱き着いた形で、手を取る。

 あいにく、先輩はチョコレートに目が行ってる。

 ……多分、この時の私の顔は、だらしなくなってたと思う。

 声だけは、しっかりと。


 「こうやって、混ぜるんです。だいぶ溶けてきましたね。」

 「うん……。じゃあ、マシュマロを入れて……」

 「違います!!」


 また、私のレクチャーが始まる。


 「これ、何のために買ったと思います?」

 「え? それ、よくわからなかったんだけど……。」

 「今回は業務用のチョコレートを買いました。甘くないんです。砂糖と入れて甘みと、バニラエッセンスで風味を出します」


 ……まぁ、ここからは私の出番かな?


 「じゃあ、ここは私がやりますね♪」


 先輩に教えるように私は、話す。

 まずは砂糖を入れて、加減して……。


 「ちょうどよく、甘みが出たので、バニラエッセンスで、風味を付けます」


 バニラエッセンスで風味をつけて……。


 「じゃあ、後はマシュマロを入れて……。ここからは時間との勝負です!チョコが固まらないうちに、どんどん作りましょう!」


 私は、マシュマロに爪楊枝を刺して、チョコレートに浸す。

 それを皿の上に盛り付けていく。


 「先輩、シュガーペーストを飾ってください!」

 「あっ、はい!!」


 私と先輩は、チョコが固まらないうちに、作業にかかる。

 あっという間に、マシュマロは無くなった。

 先輩がシュガーペーストを、付けてくれたのを見てみると、奇麗に彩られている。


 「完成です!」

 「余ったチョコはどうするの?」


 ギクッ。


 「後で私が使います。」

 「独り占め?」

 「……違います!!」


 ……先輩……。

 どこまで私が、食い意地張ってるって思ってるんだろう……。

 ちょっと、ショックなんですけど……。

 余ったチョコは……ちょっと……ね。


 「じゃあ、ラッピングして……」

 「先輩、一つ約束を忘れてませんか?」

 「え?」


 この反応、絶対忘れてる!


 「……えっと……。」

 「……二人の写真を撮る。です!」


 写真を撮るなら……。


 「できたチョコと一緒に写真撮りたいです!」

 「うん……。わかった」


 私はチョコレートマシュマロをリビングのテーブルに置いて、スマホを取りした。


 「じゃあ、並んで撮りましょ♪」


 先輩の手を取り、並ばせる。


 「はい、撮りますよ!」

 「うん。」

 「先輩、もっと可愛らしく笑ってください!」


 ちょっと無茶ぶり。

 でも、応えてくれる先輩が好き。


 「先輩……。いい笑顔です……。」


 撮れた写真にうっとりする私。


 「は、恥ずかしいから!!」

 「わかりました……。あとで堪能します……。」


 堪能するのは、後回し。


 「じゃあ、ラッピングしちゃお。 夜も遅くなると、うちの親もうるさいし……」

 「はい♪ じゃあ、きれいにラッピングしましょ♪」


 ラッピングの作業を終えると、時計の針は9時。


 「いけない! 親に怒られる!!」

 「先輩のご両親、厳しいですもんね。 片づけはわたしがやるんで、早く帰られていいですよ♪」

 「うん……。ごめんね。ありがとう!」

 「では、また明日!」

 「じゃあ、また明日ね!」


 先輩は挨拶を交わして、帰っていく。


 「よし♪」


 私はここからが本番。

 残ったチョコレートを、湯せんでもう一度溶かし、型に流し込む。

 そして、ある程度固まったら、冷蔵庫に1時間。

 空いた時間で、オーブンの予熱。

 程よく固まったチョコレートを、一口サイズのバーの形に切って……。

 オーブンで焼く。


 それをこっそり買った、箱のラッピングに入れる。

 そして……手紙を……。


 「う~ん……」


 たった一言書けばいいのに、なかなか字が書けない。

 やっぱり……勇気がいるよね……。


 「負けない!!」


 私は勇気を振り絞って、手紙を書く。


----

 先輩の事が好きです。

 ずっと前から……。

 どうか、付き合ってください。

 返事、お待ちしております。

----


 敷き詰めた、ベイクドチョコレートの下に、手紙を入れる。


 「あとは……渡すだけ!」


 その日、私はあまり眠れなかった。



 翌日の2月14日。

 私は、寝不足と緊張で、まともに授業が耳に入ってこない。

 その日は、ずっと、渡すことを考えていた。


 「渡すなら……あの木の下がいいな……」


 私は部活も休み、校舎裏の木の下に居た。

 先輩にショートメッセージを送る。


 「校舎裏の、木の下で待ってます。」


 私にとっては、とても長い時間だった。

 でも……寒くはなかった。

 それだけ。

 それだけ、緊張した。

 怖い……。

 何が?

 こんな手紙を読んだ、先輩……お姉ちゃんの反応が……。

 私は葛藤と戦いながら、木の下で待っていた。


 「かよ?」

 「あっ……。先輩……。」


 まだ、葛藤から冷めやらぬ私の元に、先輩が声をかける。


 「どうしたの?」

 「これを……。」

 「ん?」

 「……!?」


 わ、渡した!!!

 私はもう、逃げ出してしまった。

 怖かった……。

 でも……もう後には戻れない。


 私は家のベッドで泣いていた。

 もう、昔の呼び方で……。


 「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」


 もしかしたら、今までの関係が崩れてしまうかもしれない……。

 もしフラれたら……今まで通りにできるだろうか?

 いや、出来ない……。

 もう、後戻りはできない……。


 「私は……お姉ちゃんの事、大好きなの……。」


 涙が止まらない……。


 「ねぇ……お姉ちゃん……」


 言葉を漏らすと、また涙が漏れる。


 「私の気持ち……もう、止まらないの……。」


 今まで通り、仲良くしたい。

 でも……もう、私の気持ちは止まらない。

 お姉ちゃんを……誰にもとられたくない。


 「お姉ちゃん……この気持ち……お姉ちゃんが止めて?」


 昨日の疲れもあってか、私は泣きつかれたのか、眠ってしまった。



 翌日。

 泣きつかれたのか、思いっきり寝たのか、私は吹っ切れていた。

 お姉ちゃんのどんな返事でも……受け止める覚悟ができていた。

 授業も終わり、部活に行って……。

 緊張してない……というと、嘘になるけど、お姉ちゃんと会う時間が、少しずつ迫ってくる。


 「じゃあ、これで解散! 片付け終わってない人は、早く片付けてね?」


 部長の声。

 私は、いつもの場所に向かった。


 お姉ちゃんは……いつもの場所に居なかった。

 念のため、スマホを見てみる。


 「待ち合わせは、昨日と同じ場所で」


 昼休みに送ってたみたいだった。

 私は急いで、昨日の場所に向かう。

 お姉ちゃんは……もう木の下に居るみたいだった。

 私は、ダッシュでお姉ちゃんの元に、駆け寄る。


 「……先輩?」

 「ひゃい!!」


 お姉ちゃんが、変な声を出す。

 私は、走ってきたので、呼吸を整える。


 「あっ……」


 ……そうだった。

 私、昨日告白してたんだった……。

 ……吹っ切れすぎだったなぁ……。


 「かよ……。」

 「先輩……。」


 お姉ちゃんから、どんな言葉が出るかわからない。

 でも、この木の下は……。

 私は、黙って、お姉ちゃんの返事を待つ。


 「ごめん……。私、好きって気持ちが、わからないんだ……。」

 「……。」


 ……そうだよね……。

 お姉ちゃん、鈍感だから……。

 わからないよね……この気持ち……。

 私は『ゴメン』の言葉に反応してしまい、涙ぐむ。


 「でも、かよだったら、良いなって思えたの。」

 「!?」


 次の言葉で、私は固まる。

 涙も……。


 「先輩……。」

 「だから……その……。かよの気持ち、受け取りたいんだ……。」

 「はい……。」


 違う涙に変わった。


 「先輩……」

 「なあに?」

 「私たち、恋人同士って、ことでいいんですか?」

 「うん、でも私、恋はよくわからないけど…」


 お姉ちゃんったら……気持ち受け取ったくせに、相変わらず鈍いなぁ……。

 私は、いたずらな笑みを浮かべて、先輩に告げる。


 「先輩、目を閉じてください。」

 「わかった……。」


 お姉ちゃん……。

 もう、私の気持ちは止まらないんだからね?

 じゃあ、しっかり受けっとって?

 私は、唇を重ねると、お姉ちゃんの頭の後ろに回し、口を下でこじ開ける。


 「!?」


 お姉ちゃん、びっくりしてる……もう、わかるよ?

 お姉ちゃんの事は……。


 私はゆっくり、お姉ちゃんの口の中で、舌を絡める。

 これが……これだけ……私が好きって証拠なんだから!

 もう離さない……離れられないようにしてやる!!

 私は、少し乱暴に、お姉ちゃんの体を抱き寄せる。


 そして……私が堪能すると、唇を離す。

 お姉ちゃんは……背が高いから、抱き着いてる格好だけど……。

 私は、首筋から手を離し、お姉ちゃんの胸元を指でなぞる。


 「大好きよ……聡子……。恋がわからないなら、私が教えてあげる……」


 聡子……私があこがれ、焦がれた呼び方。

 もう、私たち、恋人同士なんだから……。

 いいよね?


 「もう、私が居ないとダメな身体に、しちゃうんだから……」


 絶対に……。

 離れられないようにする……。

 心も身も……。


 「じゃあ、聡子。一緒に帰りましょ♪」


 私は満面の笑みで、聡子に返す。

 私以外を見られないように、してあげるんだから♪



--- 完 ---


…メイン作の方、進めます…(汗)

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― 新着の感想 ―
[良い点] はじめまして、御作読ませてもらいました。一つの作品でも、二つの視点でお話が進むのが、面白かったです。 二人とも可愛かったし聡子ちゃんも、佳代子ちゃんも可愛かったです。
2019/02/15 15:37 退会済み
管理
[良い点] 「私」も先輩もかわゆすです。 青春ものって感じがして大好きです。 キュンキュンしました。いいですね。青春って! [気になる点] 2人のこれからの進展が気になります!www [一言] 私もこ…
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