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人間と機械が織りなす、一つの運命の物語  作者: 春サン。
第一章 それぞれの日常
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再会

「ありがとうございました」

 何か特別に生活が変わる様子もなく、いたって普通な日々がただ過ぎていた。

 国の伝統的な祭りが近づいていることもあり、売れ行きは上々だ。

 この国の祭りというのは、この国が建国されてからずっと続いているもので、年に一度の大きな祭りだ。

 主に行われるのは、王国を支えている王や姫の凱旋だった。数カ月前に新しく座に付いた姫、『べイルス・リリウム』姫が迎える初めての祭りだから、今年は例年よりも盛大なものになりそうだ。

 そんな事を考えながら、花束を抱えて去って行く客を、礼をしながら見送る。

 ふと時計を見ると、正午辺りを時計の針が示していたので、少し休憩することにした。休憩と言っても、椅子に座って、昼ご飯を食べたりする程度なのだが。

 こういう時に店員がもう一人いると、街をぶらつくことができるのだが、生憎とそこまで金に余裕はないので、することはできない。無給でもいいから働かせてほしい、なんて言う人はいないだろうし。だから毎日、大人しくしている。

 店の中にお客がいなくなったところで、椅子を店の前に持ち出してその椅子に座る。朝買ってきたパンを口に運びながら、街から聞こえる音に耳をすませる。

 今自分のいる店は、王国中心部の商店通りに位置していることもあり、準備作業をする人々の姿が見えたり、声が聞こえたりするのは必然的だった。

 作業をする人々の大半は体格の良い男性であり、重そうな荷物を運んでいる。普段から少ししか運動していない私からすれば、到底できない芸当だった。

 昔からずっと穏やかに過ごしてきたし、今思えば随分と怠けていた期間が多かったのだと思い知らされる。

 まぁ、大変だった時期もあったが。

 こうして自分の人生について考え込んでしまっていると、自分がどのくらい生きてきたのか、自分が何歳なのかさえ忘れてしまいそうになる。確か――

「ん・・・?」

 そう考えていると、自分の視線の目の前に、前にも見た姿をした人物が、前にも見た体勢で花を見つめていた。

「・・・姫様?」

「あら、お花の店員さん。またお会いしましたね」

 少し迷ったものの、そう確認するように声をかけると、姫様たる女性は優しい笑みを浮かべながら返答する。

「ええ。・・・今日はどういったご要件で? またはぐれた勢いで此処に?」

 食べかけのパンを小台に置いてある皿に乗せ、彼女に冗談混じりの質問をしてみる。

「あははは。いえ、もうすぐお祭りがあるでしょう? ですから、お祭りの準備をしている人達の様子を見ようと思ったんです。まぁ・・・またはぐれたのですけれど・・・」

 苦笑いを浮かべながらも彼女はそう答える。

 冗談のつもりが的中してしまったので、内心少し驚いた。いつか彼女、誰かに連れ去られるんじゃないだろうかと心配になる。

 しかし、国のためにせっせと働く人々を陰ながら見守りたいというその精神は、姫として相応しいものだろう。

「あと、そんなにかしこまってお話ししなくてもいいんですよ? 貴方そのものの状態で私はお話がしたいですから」

「そうですか・・・では、お言葉に甘えます」

 かしこまった態度をとっていた自分を気にしてか、彼女がそう提案してきたので、少し考えたあとに素直にそれに賛同することにする。

「それで・・・はぐれたのは分かりますが、何故また此処に? 此処には花以外魅せられるような物はありませんよ?」

「私は花が好きですから。それに、あのダリアという素晴らしい花は、此処で頂きましたし」

 あの花を相当気に入っているのか、彼女は嬉しそうな笑みをしながらそう言った。

 それにしても、先程から彼女の返答には迷いがない。話す機会が多いのだろうか、自分よりもはよっぽど会話には長けているようだった。

「気に入ってもらえて何よりです。・・・姫様は、この祭りは初めて・・・でしたよね」

「ええ。お城からは中々出れませんでしたし、お城の窓から様子を見る程度でしたから」

「じゃあ・・・本当に経験するのも初めてですか」

「そういう事になるわね。言ってしまえば、祭りの歴史もあまり知らないわ」

 ニコニコしながら姫様はそんな事を言い始めた。窓から様子を見ているだけと言っていた限り、そういう事も教えられなかったのだろうか。

「そうですか・・・私が知ってる限りですけど、教えましょうか? 祭りの歴史」

「本当? ええ、そうしてくれるなら嬉しいわ」

「じゃあ教えましょう・・・と、その前に・・・」

 少し待ってて下さい、と言ったあとに、店の奥に置いてあった椅子を持ち出して、自分が座っていた椅子と向かい合わせに置く。

「そこ、座って下さい。ずっとしゃがんでるの大変そうだったので」

 彼女の足元を見たときに、微かに震えているのに気がついたので、椅子に座るよう促した。

「あら、親切にありがとう。店員さん・・・いえ、もう名前で呼び合うのも良いでしょう」

「名前・・・ですか?」

「ええ、名前です。なんて言うのかしら?」

 彼女は椅子に腰をかけながらそう聞いてきたので、自分も合わせて椅子に腰をかける。

 そして、自らの名を述べる。


「・・・シータ・フリティラリアです」


 名前を名乗ることはあまりないため、少し抵抗があったものの、少し間を開けた後に、私はそういった。

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