人間と機械の国
私のデビュー作の序章になります。どうぞ、温かい目でお読みになって頂ければ幸いです。
人間と機械が共に暮らす国があった。
その名も、『キーレス王国』。人口減少、少子高齢化などにより、機械での人口の増加を世界で初めて行った国であり、人口の四割は機械が占めている。
しかしその国には、ある法律があった。それは、「機械は人間のように感情を持ってはならない」、「機械は人間のように名前を持ってはならない」と言った、差別的なものだった。
当然のことながら、その法律に縛られていた当時の機械達は不満が爆発した。
そこで機械達は、国全域で暴動を起こした。丸一年続いたその暴動を王国はどうにか鎮め、被害を最小限に抑えることはできた。しかし生まれた被害は、王国が予想していたものよりも遥かに上を行くものであり、国の壊滅にまで追い込んでいた。
そこで王国は、機械に対する差別的な法律を取り下げ、「人間と機械は共に共存し合うように」と改めた。この頃から、人間と機械との争いは起こらなくなり、平和な日々が送られるようになった。
❁ ❁
「よいしょ・・・」
晴れの日。
土の入った植木鉢を持ち上げ、道を歩く人々に見えるような場所にそれを置く。
置き終わった後に、少し道の方を眺める。昨日は雨が降っていたので、道の凹んだところには水溜りができていた。それに、今日は比較的早く起きたからか、いつも見る空の色とは違った色をしていた。
何故早く起きたかと言うと、運ばなきゃいけない植木鉢やら看板やらが沢山あるからだった。おかげさまで先ほどから欠伸が止まらない。
もうさっさと片付けてしまおうと思い、一息付いたあとに店の奥に置いている物を取りに行こうと踵を返す。
すると、後ろから不意に声をかけられる。
「このお花、綺麗ですね」
「ん・・・?」
後ろへ振り返って自分の眼に映ったのは、しゃがみ込んで花をじっと見つめている女性の姿だった。
頭を覆いかぶすようにフードをしているが、顔ははっきりと見ることができた。
そして何より感じられたのは、ここらに住むような人物ではないということ。僅かにだが、金色の髪がフードから覗いていたので、庶民である自分には、余程の金持ちなのだとすぐに分かった。
「この花、名前は何て?」
そんな事を考えていたら質問されてしまった。彼女は自分を先程の花のようにじっと見ていたので、少し驚きながらも、質問に答える。
「その花は、ダリアって言います。隣の国からつい最近出回ってきたんです。綺麗ですよね」
聞いてきた彼女に歩いて近付きながら、そう花の名前を述べる。
「ええ。太陽のような色が素敵だと思うわ」
彼女の言葉を聞いたあとからその花を見ると、一層輝いて見えるようだった。
すると、自分の視界にもう一人の影が映る。
「姫、ここにいらっしゃいましたか」
低い声が聞こえたので、視界を上にやると、白い鎧を着た男性がそう口を開いていた。
「ディーラ。ごめんなさい、はぐれてしまっていたついでにお花を見ていたの」
「花を見ることは構いませんが、そう簡単に人々と触れ合うのは止しておくと注意したではありませんか」
その会話を聞いている中で、"姫"と言った単語が聞こえて来たので、一人驚いていた。知らぬ間に凄い人物と話をしていたと思うと、自分を讃えたくなった。
「ごめんなさい、気をつけるわ。ねぇ、ディーラ。このお花、買ってもいいかしら?」
「ええ、構いませんが」
「そう、じゃあ店員さん、このお花を頂けますか?お金もちゃんと払いますから」
「は、はい。喜んで」
そう言われると代金を出されたので、それを受け取った後に、ダリアが植えられた植木鉢を持ち、ディーラと呼ばれていた白い鎧の騎士に渡す。
「じゃあ、ディーラはその花を落とさないように運んでください。店員さんありがとう。おかげで素敵なお花に出会うことができました」
「い、いえ、どういたしまして」
目上の人物にお礼を言われたもので、少しかしこまって返答してしまった。
「では、失礼しますね」
そう言うと、彼女はそのまま騎士の男性と並列して歩いて行ってしまった。自分はその後ろ姿に向かって再び声をかけることはできず、ただ見ることしかできなかった。
視界に映る空を見上げると、いつも見る空の色になってしまっていて、早く起きた意味がなくなってしまっていた。しかし、この国の姫様と話すことができた、品を売ることができた、という奇跡に巡り会えたのだから、どうでもよくなっていた。
そう結論付けた後に、作業に戻ろうと店の奥に入って行く。特別な始まり方をした、いつも通りの生活が始まる。
彼女との奇跡的な出会いによってそれが徐々に崩れていくとも知らずに。
――これは人間と機械が織りなす、一つの運命の物語。
私の都合上、不定期投稿になりがちだと思います。ご了承下さい。
ご指摘なども頂けると幸いです。
読んでいただき、ありがとうございました。