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第6話「廉価版ゴーレム」

「無事に拠点も完成しました。というわけで、次なる活動の為、役割分担していきたいと思います」


 場所は工房のリビング。

 何もない殺風景な床で、俺とクレイはルナの話を聞いていた。


「これからしなきゃいけないことは労働力の確保と周辺の状況確認です。これは大丈夫?」

「ああ。俺も異論は無い」


 俺を肩に乗せたクレイも、コクコクと頷いて反応する。

 そんな聴衆に満足したのか、ルナは大仰に頷く。


「それじゃ、役割分担するわね。まずクレイ!」


 ビシリ! とルナが指で白いゴーレムを指し示す。

 クレイは機敏な動きで腕を曲げ、敬礼の姿勢を取る。どんどん動きが俗っぽくなってきてるな。

 ルナはツカツカと歩み寄り、クレイの額の赤い石に指先を触れる。ゴーレムに命令を与えるときの動作だ。


「命令、周辺の地形を記録して地図に描き起こしなさい。紙とインクは用意しておくわ」


 彼女の言葉がしみ込み、クレイは両足を揃えて背筋を伸ばす。大げさな動きでもう一度敬礼をして、クレイは任せろとばかりに胸を叩いた。


「じゃあ、次はクロね」

「はいよ。俺にできることなら、なんなりと」


 俺はクレイの肩から立ち上がり、指示を待つ。


「お前は私と一緒に行動よ。労働力生産を手伝って貰うわ」

「りょーかいであります」


 つまりは今までと一緒ということだ。


「それじゃあクレイ、この紙に地図を描いてきてね。範囲は拠点を中心にして五キロくらいでいいからね」


 ルナがトランクから大きな紙とペンを取り出し、クレイに渡す。クレイはそれを恭しく受け取り、早速工房から飛び出していった。


「それで、労働力の確保っていうのは何をするんだ?」


 二人だけになったリビングで、俺はルナの肩に飛び移る。


「簡単よ。ゴーレムを作るの」

「ゴーレムって言うと、クレイみたいなのをか?」


 数時間前の荒々しい風を思い出す。

 確かに、クレイほど優秀なゴーレムが何体もいたら開拓作業も捗るだろう。なんといっても、疲労を知らない無限の労働者なのだ。


「流石にあんなのをぽいぽい作れないわよ」

「む、そうなのか」


 しかし、俺の予想に反してルナは首を横に振った。


「今から作るのは下位互換、というか廉価版かしら? とりあえず能力が低い分作成コストで勝る量産型ゴーレムよ」

「ほう。そういえばクレイは高級ゴーレムって言ってたな」

「そういうこと。それで、材料にありったけの土が必要なのよ。岩があればそれでもいいんだけど」


 憂鬱な顔でルナが言う。土や砂ならば足下にいくらでもあるが、あいにく岩となるとこの真っ平らな土地には殆ど見当たらない。


「ということは……」

「頑張って掘ってね♪」


 可愛い顔で無慈悲な命令を下すルナ。俺は助手という立場もあり、渋々頷いた。


「掘る場所はどうするんだ?」

「整地もかねて工房の周りが良いわね。将来的にここはアレシュギアの最初の村になる予定だし」

「はいよ。それじゃあやりますよ」


 俺たちは工房の外に出て、おおよその土を集める範囲を決める。色々な事情を鑑みて、工房の前方にある土地――村の中の道となる予定の場所を平らに整地することになった。


「ふむ……。太陽があんまり傾いてないな……」


 空を見上げて呻く。影さえできれば、幻影空間で削り取ることもできたんだが……。仕方がないので、別の方法を考えることにする。幸い、一体でもゴーレムが作れたら、それに作業を任せることで指数関数的に作業効率は良くなっていく。つまり、はじめの一歩が一番大変。


「まだ精霊具にはなれないしな……。仕方ないか。――『蝕む影(グレイ・グー)』」


 俺の足下にできた僅かな影に手を翳し、魔力を籠める。黒い影は波打ち、薄い灰色に変わる。それは徐々に周囲を侵食するように増大し、地表を覆っていく。


「おお!? 面白いわね、この魔法!」

「何でも取り込む魔法だ。幻影空間を攻撃とか破壊の方面に特化させた感じだな」


 蝕む影を操作しながら答える。

 俺の意思によって移動するこの灰色の影は、触れた対象を飲み込んでいく。餌食となった物は全て、俺の幻影空間の中へと直行するという寸法だ。

 見学に徹するルナは面白そうに俺が地表を削り取る様子を見る。妖精の使う魔法が珍しいのだろうか。


「ん、これくらいでいいだろ」


 数分ほど魔法を使い続け、工房の前の土を平らに削り取る。薄く草も生えていた地面は、今は茶色い湿った土が露わになっている。


「土はどこに出せばいい?」

「それなら工房まで運んで頂戴」

「はいよ」


 それくらいならお安い御用だ。

 俺は幻翅飛行で工房の中に戻る。

 屋外だと日が傾いて影ができなければ色々と使いにくい影魔法だが、室内では比較的使いやすい。屋根という遮蔽物のお陰で、全体的に影しかないから、どこにだって魔法を使えるからだ。


「天井でも壁でも、好きなところに開けて良いわよ」

「はいはい。じゃあちょっと気をつけてろよ」


 ルナが後ろに下がったのを確認して、壁の影に幻影空間の口を作る。そこから中に入って、集めた土を掻き出せば、ルナの腰くらいの高さの小山になった。


「うんうん。これだけあれば一体は作れるわね」


 満足そうに頷いて、ルナは早速地面の陣に模様を描き足す。星のような図形や、丸や四角、文字などなど。よくもまああんなに複雑な物がすらすらと描けるものだと感心する。


「それじゃあやりましょっか」


 コン、と杖で石の床を突く。硬質な音が響き、魔力溜りから陣へと魔力の青い光が流れ込む。

 風が吹きすさび、赤と青、黄色と緑が混じり合う。傍らに盛られた土が巻き込まれ、次第に形作っていく。


「はい完成。簡単なもんね」


 風が止んだ頃、陣の中心には、クレイと同じような体格のゴーレムが一体立っていた。ほっそりとした体付きも、つるりとした表面も、額の石も同じだ。ただ一つ、その表面はクレイの純白ではなく、土そのままの茶色だった。


「命名、マッドゴーレム一号。命令、指定範囲の整地。さあ、ついてきなさい」


 ルナが名前と命令を与え、ゴーレムを工房から連れ出す。マッドゴーレムはぎこちない足取りだが、確かに自律歩行して建物を出る。

 俺は彼女の肩に飛び乗って、それに同伴した。


「随分簡単にできるんだな」

「廉価版だからね」


 驚く俺に、ルナはあっけなく答える。

 確かに廉価版とは聞いていたが、予想以上のお手軽具合だ。クレイの時はもっと、金属やらエーテルやら色々と高価そうな魔法素材も陣の周りに配置していた。だというのに、このマッドゴーレムはただ純粋に土だけだ。


「マッドゴーレムはとにかく安くて丈夫で使いやすい労働力よ。自然の魔力でエネルギーを補給するから、特に手入れも必要ないし」

「それは凄いな。ただの土だってのに」

「それが錬金術の凄いところなのよ」


 ルナはふふんと鼻を鳴らして、マッドゴーレム一号を工房の前に配置する。そうして外套のポケットから鉄製のピンのような物を取りだして、四角く範囲を定める。ここの内側が、マッドゴーレムに与えられた指定範囲という事らしい。


「それじゃ、作業開始ね」


 ゴーレムの額に再度触れて、命令を下す。

 そうすると、マッドゴーレムは相変わらずぎこちない動きだが、範囲内へと入る。そうして身をかがめると、素手で地面を掘り始めた。


「って、素手で掘るのかよ!」

「当然でしょ。道具もないんだから」


 何を突然と言いたげなルナ。

 確かにゴーレムは手先も硬質で、摩耗する心配も殆ど無いだろう。しかし、端から見ているだけでも腰が痛くなりそうな光景だ。


「そのうちスコップでもクワでも作るわよ。そのうちね」

「全然やる気ないじゃないか!」

「ほらほら、クロも土を集めて頂戴。二体目も作るわよ」


 ルナはひらひらと手を振って言うと、自分だけ工房の中へと戻る。

 その背中を見届けた俺は、小さくため息をつくと、哀れなマッドゴーレムの隣で蝕む影を生み出した。

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