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第15話「暗躍」

「粗悪だけど刃物も準備できたわ! ルビー隊の子達は持って行って! トパーズ隊は鉈ができるまでは素手でよろしく!」


 土色のゴーレム達を集め、ルナが号令を発する。

 俺が幻影空間から取りだした山のような量の石製の手斧がルビー隊の面々に行き渡る。

 遠くのほうではエメラルド隊のゴーレム達が地面を均し、トパーズ隊は丸太を木材に加工していく。

 一晩休んだ俺とルナ、そして工房で本格的なメンテナンスを終えたクレイは、留守の間にマッドゴーレム達が集めた木材の処理に奔走していた。


「クロ、石が無くなってきたわ」

「すぐに追加する」


 拠点の奥に戻りながらルナが言う。俺は幻影空間を開いて集めておいた石を取り出す。ゴーレム達の作業効率を上げるため、ルナは朝から道具づくりに専念していた。ルビー隊に配布した手斧も、その一環である。

 木の伐採はゴーレム元来の頑丈さと疲労から無縁の性質を使ったゴリ押しで押し進めていたらしいが、やはり道具のありなしは効率が段違いだ。


「剥いだ樹皮も取っとくのか?」

「繊維質の物は綯って縄にできるからね。焚き付けにも使えるし、とりあえず今は捨てる物なんてないわ」


 物資も人員も乏しい、二人だけの開拓作業。ゴーレム達は基本的には指示がなければ動けない為、必然的にルナの作業量は多くなる。俺は助手として、少しでも彼女の作業を軽くしていくことが仕事だった。

 俺は石をすべて出し終えた後、早速樹皮を集めるために幻翅を展開して製材所へと向かう。

 拠点の周囲、エメラルド隊が踏み固めた土地は、順調に様々な施設に割り振られている。製材所もその一つで、隣に設けられた資材保管所から運び込まれた丸太を、ゴーレム達が流れ作業で様々な木材へと加工している。


「はいはい、ちょっと通してくれよー」


 遮二無二に働き続けるゴーレム達の足下を縫うように飛びながら、地面に落ちた樹皮を拾い上げる。ルナが樹皮を一カ所に集めておくような指令を出していないため、木の粉に混じって地面にわんさかと山になっている。俺の命令は聞いてくれないから、踏まれないように気を付けつつ幻影空間の中に放り込んでいく。ゴーレムの影があるから、入り口を作るのには困らないのが幸いだ。

 一飛びして粗方の樹皮を集めても、その間に作業は進んで新たな樹皮が落ちている。これは定期的に拾わないとだめだな。


「木材も足りなさそうだし、ちょっと貰っていくか」


 製材所の隅に束になって積み上げられた丸い木の棒も数個影の中に放り入れる。これと石材を錬金術で加工して、ゴーレム達の道具を作るのだ。

 しかし錬金術は何でもありだな。


「じゃ、引き続きがんばってくれー」

「……」


 俺の言葉を認識しないゴーレム達に話しかけても、当然返事は帰ってこない。俺は少ししょぼくれて、ルナのいる工房へと駆け戻った。


「ほい、樹皮と木材」

「ありがとう。それじゃあ鉈も作りましょうか」


 俺が工房の床に木材を落とすと、ルナはそれと不揃いな石をいくつか練金陣の中に配置する。あとは練金杖を振って魔力を込めれば、石の鉈ができあがる。


「そろそろ魔力が枯渇しないか?」

「私、そういうのないから」


 俺の心配を一蹴し、ルナは作業を続ける。不死身というのと関係あるのか、彼女が魔力切れになったところを見たことがない。それでも、まだ日が昇らないうちから作業を続け、昼も過ぎるというのに少しの休憩も取っていない。


「はぁ」

「あいたっ!?」


 俺は良心の叱責に苦しみながらも、彼女の頭をぽかりと殴る。


「むぅ! 何するのよ!」

「ちょっとは休め。魔力が無限だろうが、疲れはするんだろ? 何か食べて、少し落ち着け」

「でも、まだ一段落してないし」

「今鉈作っただろ。それで一段落だ」


 有無を言わせない俺の意志を感じたのか、ルナはその後も少し唸ったが最終的にはこくりと頷く。

 俺たちはキッチンに移動して、彼女はコーヒーを淹れた。


「ルナ、なんか焦ってないか?」

「……別に」

「それならもちっとゆとり持って作業してもいいだろ? どうせ次の飛竜便が来るのは一月後だ」

「でも――」

「どうせあの遺跡の事が気になってるんだろ」


 ルナが目を見開く。どうやら図星らしい。


「早く基盤を整えて戦力を用意して、遺跡に挑みたいのか?」

「……アレシュギアは私が管理する土地なの。そこに不安分子を残しておけないわ」

「だからって基本を疎かにするのはダメだ。でないと肝心なところで足下を掬われるぞ」


 俺の説教に、ルナはいじけたように頬を膨らませる。しかしここは俺とて譲れない。いくら不死だろうが魔力が無尽蔵だろうが、彼女は人間で、まだ二十歳の女の子だ。


「一時間でもいいから少し寝て、頭冷やせ」

「コーヒー飲んじゃったから寝れないわよ」


 不満げに反論する彼女を無視して、俺は自室まで彼女の背中を押した。まだ寝床もなくて薄い毛布しかないが、それで十分だ。

 先ほどの言葉も何処へやら、彼女は毛布に倒れ込むと一瞬で静かな寝息を立て始めた。


「さて、ご主人様が寝てる間に俺も色々しとこうかね」


 乱れた毛布を整え、ルナの横顔を見る。黙っていれば可愛い少女だ。

 幻翅を展開して飛び立つ。ゴーレム達は何も言わなくても作業を進めるだろう。俺は俺でしたいことがある。


「ちょっと出かけるぞ」

「……んぅ」


 ルナの耳元で囁けば、彼女は寝言で返事を返す。

 拠点を飛び立ち、上空へと駆け上がる。雲に迫らん程に高さを求め、一直線に蒼天に近づく。空気が少し冷えた所で速度を緩め、滞空する。視線を下げれば、遙か下方に米粒のような拠点が見える。


「これだけ高さがあればそれなりに見晴らしも良いな」


 周囲を眺めれば、かなり広い範囲まで視界が広がっているのがよく分かる。クレイの地図にも記されていない未踏の土地が、まだまだ膨大に横たわっているのが実感できた。


「さて、あるかな……」


 目を凝らして探すのは、魔力の光。もっと具体的に言えば、遺跡の残滓だ。鳥の視点と特別な目を存分に活用して、俺は果て無き荒野を舐めるように見渡す。


「やっぱりいくつかあるな」


 そうして、見つけたいくつかの光。俺の読み通り、この荒野には昨日の物の他にも遺跡が点在していた。

 俺が幽閉されていた遺跡、昨日見つけた遺跡。二つもあるなら三つ目もあるだろう。数は予想以上だが、読みは当たっていた。更に言うなら昨日の遺跡、亀裂から進入した小綺麗な通路は、俺たちが入った部屋の扉の先にもずっと長く続いていた。となれば、遺跡の規模はかなり大きいことが推測できる。


「……規則的な配置。古代文明とやらは随分几帳面だったみたいだな」


 それぞれの光の距離はおよそ等間隔。点と点を線で結べば、自ずと図形が見えてくる。ここ数日で、随分と見慣れたものだ。


「とりあえず、行ってみようか」


 眠り姫に気付かれないように、制限時間はいいとこ三時間と言ったところか。全部を回るにはそれなりに急がないと行けない。あまり深入りせずに、できるだけ素早く用事を終わらせる。

 俺はそれぞれの光の配置を大まかに覚えると、早速そのうちの一つを目指して翅を羽ばたかせた。

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