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1話 プロローグ~五歳で前世を思い出した俺の独白~

 物心ついてしばらく経つまで、俺はこれといった悩みもなかったと思う。


 生まれたのは金持ちの家で、俺は、使用人に世話をされるのを全く疑問にも思わず過ごし、欲しい物があれば当たり前のように手に入る生活を送っていた。


 変わった子だね、とよく言われたのは、兄たちと全く同じ良い教育を受けながら、俺の素行に荒々しさがちょいちょい見られたからだろう。それについては全く改善されなかった。

 外や対人に関しての礼儀作法は難なく出来ても、私生活ではドカリと椅子に腰を下ろしたり、足を開いて平然としゃがみこみ、言葉使いもまぁまぁ荒い。


 いや、まぁまぁというのは嘘だ。母が特に困っていた。


 俺がつい「ちぇッ」「クソ」と口にすると、今にも気を失いそうな顔をした。


 これで耐性が出来てくれればいいな、なんて考えていたと明かしたら、二人の兄たちにまたしても「冷た過ぎますよ!?」と言われそうな気がしたから、誰にも言わなかったけど。

 正直言って、今だってそう思っている。

 


 五歳になった俺は、制服に身を包んで、金持ちや有名人の子供たちが多く通う幼稚園の入園式に臨んだ。


 兄たちのように「これがしたい」「あれがしたい」という熱意や欲求がなかったから、暇潰しがてらクソ面倒だが通うか――これ口にしたら、母が倒れて入園式どころじゃなくなりそうなので勿論口にはしていない――としか思っていなかった。



 物心付いた頃から、両親に連れられて金持ちのパーティーやら茶会やらには参加していたから、同じ年頃の子供たちが集まる場に緊張は覚えなかった。


 大抵の連中もみんなそうで、初対面だというのに、入園式が行われたホール会場にて、自分からにっこりと笑いかけて「はじめまして」とさらりと交流を持てるくらいには慣れている様子だった。


 俺は、愛想笑いというのがどうも苦手だ。両親や二人の兄たちと全く似ていなくて、威嚇するようなきつい目をしているとはよく言われた。


 まるで違う家の子みたいに、顔立ちが完全に違っている。生まれた際にDNAが一致していたのは確認済みであるので、両親の実の子ではないという疑いの余地さえないのだが。


 でも、どうして顔が全く違っているのか、この直後に、俺は知る事になった。


 同じ環境で育ちながら、兄たちと全然性格が違っている理由も明らかとなる。


 それは、父と母が、同じく入園式に参加していたある夫婦に話しかけたのが始まりだった。先日はどうも、という社交繋がりの馴染みの挨拶がされたと思った時、俺はそこにきてようやく、着物を来たその女性の後ろに隠れている女の子の存在に気付いたのだ。


 彼女は、白い頬を桃色に染めて、どこか憧れの異性でも見るようなくりくりとした大きな目をこちらに向けていた。



「はじめまして、桜羽(さくらば)沙羅(さら)と申しますわ」



 他の女の子たちと同じようにスカートをつまみ、お決まりの口調で、彼女は自分の口から自己紹介してきた。

 しかし、俺はそれに返事をする余裕がなかった。彼女の顔と、まるで小鳥が囀るようなやけに可愛らしい声を聞いた途端、酷い頭痛で脳がガンガンと揺れたのだ。


 それは一呼吸の間の事だったから、俺は倒れずに済んだ。


 頭痛が去った後、まるでこれまで靄がかっていたものが全て取り払われたくらいクリアになって――俺は愕然とした。



 自分が『前世』で悪党みたいな貴族で、目の前の彼女が、ゲームで聞くような『悪役令嬢』と呼ばれていたこと。いずれ婚約破棄されるという噂を聞いて、俺は彼女に近づいた。

 そして彼女が、自分の妻だったと全てを思い出した時、俺はひとまず一つのことを決めた。



 ガキらしい我が儘を言って、まずは幼稚園を変えてもらう。


 そうして俺は、もう彼女に会うこともないだろうと思いながら適当に挨拶を返し、その翌日、私立の幼稚園ではなく、一族初となる一般の幼稚園に通うことになったのだった。

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