おこごり様
「と言うわけだ、時代は変わっても代々受け継がれたことに変わりはないからな」
父親は持ち前の明るさで机の上にひとふりの剣をおく、
日本刀の様に反りはなく真っ直ぐな剣と言うもので天叢雲剣と親父は言っていたが確か神話に基づく話で三種の神器と呼ばれたが壇之浦で海に沈んだはずだけど、そう思いながら手に持ってみると何だろうこの感じと思い鞘から剣を抜こうとするが抜けない、
「代々認められれば抜ける。本来正統な後継者である御方以外はな我々にも血は受け継がれているが薄れているのさ」
そう言うと私の手から剣を取り抜くと耳鳴りがした。
「共鳴している。まあがんばれ」
嬉しそうに剣を返すと役目は終わり、じいさんからの重荷にようやく解放された。
そう呟き部屋から出ていこうとしたとき、
「体から離すな、何が起きるかわからんからな」
とどめをさして笑って飲みに行ってしまった。
タブレットで天叢雲剣を検索したり画像を見る。
今ある三種の神器のは草薙の剣と言い、熱田神宮から奉納されたと言い天叢雲剣は記憶通り平家の天皇と共に入水して行方知れずとなっていた。
ため息をつきながら机の上には刀を入れていた革製の肩かけ袋と登録証がありこれがないと捕まるからなと笑いながら父親が置いていたのだが、
「授業がやばい」
時計を見て慌てて鞄とヘルメットを準備して少しだけためらいながら背中に背負うとXXに乗って大学へと走らせた。
授業を終えて何時ものように光一が予備のヘルメットをかぶり後ろにのる。小学校からの幼馴染みでまあオタクなのだが、甲州街道を走りぬけ何時もの主不在の先輩の家に上がり込んだ。
「先仕事終わらして遊ぶぞ」
そう言うと分厚いファイルからデータをキーボードで打ち込んでいく作業をする。
医療系のサービスマンをしている先輩の会社の依頼で学会にプレゼンで使用するデータの入力と解析を行って小遣い稼ぎをしており、時給換算ではかなりの高級をもらっており入力が早ければ時給も上がると言うことで光一の早さは驚異的だった。
早々に自分達がそれぞれ決めたノルマを光一は終え録画していたアニメを見始める。
そうしていると光一の高校時代の友人である山田と戸波が起きてきて来週から始まるコミケの事を話始めた。
普段は日がかなりのぼらないと起きてこない連中が始発で乗り込むと聞きながら入力を終え夕食を何にするかと考える。各自で行うので光一の分だけと思いながら考えていると戸波が私の持っている物に気がついた。
「それって危ない物入ってるんだよな」
どうやら妄想が始まったのか眼鏡の奥の目がくりくりと動き見せてほしいと訴えている。
ため息をはきながら中から取り出すと飾りのない直刀に少しだけ残念と思ったのか興味を失いコミケのことに話は戻った。
何時ものことに何も言わず光一に夕食いるかと聞くと何でもと何時ものごとく言い近くのお店で買おうと思い炊飯器のスイッチを入れてから買い物に出掛け料理をした。
何時ものように美味しいと言いながら何でも美味しいと言う光一に苦笑いをする。
光一に任せるとご飯の上にウインナーが乗っているだけのが毎回出るので野菜を一緒に炒めただけでもよろこんでくれた。
「そうそう、うちの親の実家って山梨の奥なんだけど、先月に寺の住職が亡くなってからあわてて親が会社を休んで戻ってるんだけど俺にも戻ってこいと言うんだよな」
戸波が行きなり話始め来週のバイト休まないといけないしと山田と話していて光一が、
「なおが週末は毎週あっちに行くだろう乗せてけば」
冗談とも思えない発言をしてくれ戸波は交通費が浮くと喜んでいる。
世話をやくのは良いけど人巻き込むなと思いながら了承して場所の確認をしながら夕飯を食べ終え自宅へと光一の家を経由して戻った。
翌日も大学へといき先輩の家で入力をして今月のノルマを終わらせる。光一以外は他の大学だが行く様子もなく寝てるかアニメを見ているか食べてるかなのだが入力のノルマは全然こなしておらず来襲するのかと思いながら課題をして過ごした。
「出掛けるぞ」
何時も混むのが嫌いなので朝方早くに家を出るので戸波をおこす、寝ぼけながらおはようというと美少女戦士のキャラクターが描かれたジャンパーを着てヘルメットをかぶる。
乗せたくないよなと少しだけ思いながらXXにタンデムで乗ると甲州街道を西へと走り始めた。
「けつが真っ二つに割れる」
戸波が山梨に入った道の駅でようやく休憩すると転がり落ちる。
「けつは元々二つだ、まだ楽勝だな」
そう言うとデリケートなんだぞ痔になるわと言いながら自販機でコーヒーを買うと極楽極楽とじじい的になるので出発を宣言するとあわてて後ろに座りサイドカーが良いと関係ない事を言い始めたので加速をして静かにさせ朝早くに戸波の実家の山のさらに奥まった過疎になりつつある村で若い人は見えずに指示通りの家に到着した。
「うちは本家なんだよな、帰ると面倒があってこのご時世にななんつって」
そう言いながら少し休んでいけばと言われたので朝焼けの中大きな門をくぐった。
「おかえりなさいまし」
中には使用人のトキさんと言う老女に出迎えられ少々びびる。昔の有名な戦国武将の家臣の末裔と日頃からいっているのも納得できる門構えと建物に感心しながら縁側に座った。
「親父達は」
戸波が聞くとトキは一番奥にある菩提寺にずっと行っていると言い到着したら来るようにと言う言付けを伝えたのをめんどくさそうに頷きながらどうせついでだから見て帰れよと言い同意した。
何故かと言うと背中に背負っている天叢雲剣がこの屋敷に来た時点で共鳴していて戸波には聞こえてないのだが何かがあると言うのを知らせたくているのか鳴り止まなかった。
菩提寺はさらに古い感じで登った太陽が山でさえぎられて曇っていたのでさらに暗い感じがする。
「陰気な感じするだろう、中なんてもっと感じるからな引くなよ」
何時もと同じ軽い感じで笑いながら本堂へ入るとおつとめなのか村人が総出でお経を唱え戸波の父も一緒に唱えており共鳴はさらに大きく聞こえてきたので中から取り出して持つと鳴り止んだ。
「保国、知らん人を連れてくるとは何を考えてる」
縁もゆかりも無い私が勝手に入ってくれば当然の反応と思いながら戻ろうかと思ったので帰ろうとすると本堂が不意に揺れ始めふすまを閉めろと言われ閉める。
集まっている人達を見ると不眠不休でいるのか目の下にくまが出ておりそれでもお経を唱えるのを止めなかった。
「だめじゃ押さえられん」
そう言うと数人の男達が多分住職の遺体が入っている棺桶を担ぎ上げ庭に出ると裏へと皆で歩いていく、戸波は呆れた顔で肩をすくませるとついていき井戸の前に移動した。
井戸は使われてないのか入り口を竹をわたし更に何かをのせており、よく聞くと何かの声が聞こえる。
棺桶をその上にのせると皆必死にお経を唱えてた。
どのくらい時間が経過したのか知らないが不意に幾重にも重ねられていた竹が折られ井戸の中へ引き込まれ村人は悲鳴を圧し殺しお経を唱え続ける。
手の中の鞘は熱くなり警告をしているのかと思いながら抜けない剣でどうしろって言うのか思いながら次々消えていく竹が無くなりのせていた蓋を引っ掻き始めやな音が回りに響き村人は必死に唱えていたが蓋が不意に吹っ飛び棺桶と共に宙を舞った。
「駄目だおごこり様が出てくる」
戸波の父親が諦めた様に呆然と言い放つと井戸から長い髪の毛が伸びて棺桶を空中で受け止め木製の棺桶をへし折り井戸へと引き込んだ。
「今だ、もう一度封印を」
その掛け声と共に竹を抱えた男達が走りより井戸にのせようとした瞬間はね飛ばされた。
「保国、何を食べた」
父親から言われ少し考え手のひらに握った拳で叩くと、
「あっ、牛丼食べた朝御飯で」
ここに来る途中でお腹がすいたと後ろで言われ24時間営業のお店に入り私は納豆定食を、戸波は特盛を豪快に食べたのを思い出した。
井戸から髪の毛が伸びてきて戸波へと真っ直ぐ向かってきており本人はこの状況でも変な性格を全壊にして、
「おっとおごこりが出てきたぞ、ファイターピンチ」
暇なときにつきあわされているテーブルトークRPGのひとこまのごとく緊張感無しでおどけておりこちらを見て、
「どうしましょ」
と、力の抜ける一言を言う。
私は試しに剣が抜ければと思いながら居合い抜きの要領で抜きながら伸びてきた髪の毛を途中から両断した。
悲鳴と言うか何か怨念の塊が井戸の髪の毛から放射され戸波とその父と私以外はその場に倒れ気絶してしまい起きている二人も血の気の引いた顔で口をパクパクさせている。
何をどう思ったか自分でもわからないがそのまま井戸へと駆け寄り髪の毛を切る。
それは井戸の中へと金切り声をあげて引っ込むと私は天叢雲剣を持って中を覗いた。
井戸の中には髪の毛がのたうちまわりその下は暗く光が届かないような闇であり、背筋が震える。
その瞬間、雲の切れ目から光が差し込みそれを天叢雲剣の表面に当たると眩しいほどに光り井戸の中を照らした。
髪の毛はその光に当たると瞬間に蒸発した様に消えその下の底を照らし出す。
底には無数の手とこちらを怨めしげに見上げる顔が一瞬見えた後、光に呑み込まれ消えててなくなりただの井戸の底になった。
戸波親子を正気に戻すと親子で村人を起こして本堂へ戻り村人を全員集める。
あらかじめ準備されていたのか朝食にしては豪華という膳を前にしながら戸波の父親が口を開くと村人全員から礼を言われた。
「おこごり様とはわしらの祖先がある年の大飢饉で苦しんでいた時に一人の娘が自らの美しく長い髪をおこごり様に差し出し雨の恵みを頂き乗りきったにだが、それからしばらくして外から攻められ国が滅ぼされた年に同じ様な飢饉があり、地主である私の先祖が娘に髪を差し出して雨を降らせるように言ったのだが、地主に襲われ生娘で無くなっていたので無理と言ったのを強引にさせたが雨は降らず、娘に余計なことを言われないようにするためあの井戸に娘を放り込んだ」
そう苦渋の顔をしながらさらに、
「それからしばらくして地主は髪の毛に巻かれて変死し、飢饉が来ると誰かの命を取ったのだ。困った次の当主が寺に相談したが得体の知れないものをどうにも出来ぬと言われ困っていると旅の雲行者が現れて封じる事は出来ると言われた」
「村人総出でお願いをすると井戸に封印を施してくれ寺を建てるようにと言い去った。去り際に寺の坊さんが亡くなったときにおさえが効かないので再度封印をするようにと言い、1週間はお経をあげ断食を行い特に殺生から獲た食事は禁止と言われたのだが、このバカ息子が」
戸波は父から言われ、
「いや、忘れてたすっかり。でもなお連れてきて良かったろもう封印もしなくて良くなったし、うんうん」
そう言われ皆は苦笑いをするしかなかった。
その後は食事を頂きXXに乗ってツーリングを続けようと思ったが気力が無くなって家に帰る事にして遠くに見える富士山を見ながらアクセルを開けた。