1夜だけの恋心
時間は8時を過ぎて、外はもう暗くなっている中。私は布団にうずくまりながら今日の出来事を思い出していた。
「なあ、奈美。聞いてくれよ!」
私の名前を呼びながら、見慣れた男子生徒がこっちに向かって走ってくる。
「なによ、枇々木」
私が枇々木と呼んだ男子生徒が、走りながら近づいて来て机に両手を置いて話し始める。
「お前と出会って早10年。いろんな事があった」
「まあ、小学校の時からだしね」
私が興味がないように髪をいじりながら彼の話を聞く。
「そうだ。その中で一番の事件が起きたんだ!」
「へ~。で?枇々木が留年するとか?」
「なに不吉なこと言ってんだよ。違うって!」
「も~じゃあ何よ?」
「彼女が出来た」
聞き間違ったのだろうか、枇々木はそんな冗談言うやつじゃないんだけどな~
「ん?…もう一回言って?」
「彼女が出来た」
「はぁーーー!」
私は席から立ち上がってリアクションをする。
「彼女が出来た」
「いや、反応してんじゃん!誰!?」
「隣のクラスの吉田さん」
「あの吉田さん!?すごいじゃん!おめでとう」
「おう、それじゃ今日は吉田さんと帰るから」
「う、うん。あ、ちゃんと家まで送るんだぞ」
「わかってるって」
そう言って手を振りながら、枇々木が教室を出て行った。
そこでまで思い出すと、私は頬に温かいものを感じて我に返る。
触れるとそれは不思議と指先が濡れていて、ふっとこれからの事を考えてしまう。
もう、枇々木と泊まりでゲームすることも、二人で買い物にも行けないんだ。それでこれからは、枇々木の横には吉田さんが居て、デートしたりしていっぱい思いで作るんだろうな。
そう思うとさっきよりも水が多くなり枕に零れ落ちる。
なんで?なんで私泣いてるの?おめでたい事じゃん!友達としてお祝いしないとじゃん。なんでよ…なんでこんなに涙が出るの?
そうしているうちに私は一つの答えにたどり着いた。
そっか、私。枇々木の事が好きだったんだ。でも、この恋はもう叶わないんだ。
そう言い聞かせて私は深い眠りについた。
こうして私の初恋は告白をすることもなく終わった。