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アビリティワールド-ABILITY WORLD-  作者: イズミ
第1章 出逢いと始まり ―動き出す物語―
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1.迷子たち⑤ 朱雀

「いきなり出てきてどうしたんだよ、ハバネロ」


 ハバネロとは、今出てきた朱雀のことである。

 しかし、ハバネロは俺の言葉を無視して周囲を警戒するように見渡す。


「……消えたか」

「おい、ハバネロ」

「おう、南」

「おう、じゃねえよ。出てくるなり人のこと無視してよ」

「すまんすまん。何か良からぬ気配を感じとってそれどころじゃなくてな」


 やっぱりさっきの嫌な感じは気のせいじゃなかったか。


 ……にしても。


「お前が警戒するってことはちょっとヤバめな感じか?」


「ちょ、ちょっと待って日向君。あの、話が全然飲み込めないんだけど……とりあえずその鳥みたいな子は何なの?」


 俺がハバネロと話を進めていると、神崎が割り込んできた。

 まあ、知らない人から見れば、いきなり燃えてる赤い鳥が出てきたと思ったら、今度は気配を感じるとか言いはじめるから……というか普通に人間の言葉で話すからわけわかんない状況だよな。


「ああ、そうだな。神崎には説明しないとな。こいつは朱雀のハバネロ。一応、神の類みたいなやつ」

「おい南。一応とは失礼だぞ」

「え? ……待って……朱雀って……四神獣(クロスビースト)の守護神の一体、朱雀のこと?」

「そうそう」

「そうそうって……日向君、一応どころじゃなくて普通に文献に載ってるくらい有名なすごい神の一種じゃん」

「お、すごい神ってお嬢さん、私のことよくわかってるじゃないか」


 ハバネロはそう言って少し嬉しそうにする。

 こいつ、誉めるとすぐに調子に乗りがちになるから、あまり持ち上げるようなことは言ってほしくないんだけどな。


「……で、良からぬ気配って何のことなんだよ? 俺も気になるんだけど」


 話が脱線しかけていると、しばらく口を閉じていた晃太が話を戻すようにハバネロに聞いてきた。


「おお、晃太もいたのか。そうだな……さっき一瞬だけ何か良くないものの気配を強く感じてな。思わず出てきたのだが……」

「そうなのか? そんなの特に感じなかったけどな」

「……さっきの突風。あれに俺もだけど何か嫌なものを感じた」


 俺は突風が吹いてきた方を睨み付けるように見た。

 今は何も感じないが、どこか不気味な雰囲気を感じる。


「ところで……そのお嬢さんは誰だ?」

「ああ、この子は神崎美穂。さっきここでたまたま遭遇した高校の俺のクラスメイトだ。で、神崎、改めて紹介する。こいつは朱雀のハバネロ。色々あって今は俺と契約を交わしてる」

「……そう言えば今日は入学式とか言ってたな……よろしく頼むぞ、美穂」

「あ、はい。よろしく……お願いします。……えっとハバネロさん? でいいですか?」

「ハバネロでいいぞ。それに敬語じゃなくても構わぬ」

「……じゃあハバネロ……聞きたいんだけど……」

「うむ。何でも構わないぞ」

「何で名前がハバネロなの?」

「うむ、それは南に聞いた方がいいぞ。私の名前を付けたのは南だからな」

「え? そうなの?」


 神崎は俺の方に顔を向ける。


「ああ。朱雀ってのはあくまで種族名だからな。犬を犬って呼ぶのはおかしいだろ? それと同じだよ」

「まあその理屈はわかるんだけど……何でハバネロ?」

「……こいつと初めて会った時、ちょうどハバネロチップス食べたあとだったから、何となくそれで」

「……すごい安直だね。神獣なんだからせめて、もっとちゃんとした名前付けてあげればよかったのに……」

「それ、俺も昔思ってたわー」


 神崎は俺を少しガッカリしたような目で見て、晃太はくすくすと笑う。


「……1つ言っておくが、名前ってのは割と安直に決めたほうがいい。良い名前を付けようと一生懸命考えると、逆に変な名前になることがあるからな」


 カッコいい漢字を使おうとして読み方が変になったり、名前に意味をたくさん詰め込もうとして最終的に意味がわかんない名前になったりな。

 逆に、太郎や花子くらいシンプルな名前のほうが俺は良いと思う。

 まとまりがあって分かりやすいし、人からも覚えられやすいしな。


「でも、ハバネロは……ねえ……」


 その名前はないだろと言わんばかりの神崎。


「私は気に入ってるけどな。この名前」


 ハバネロがそう言うと、「え?」みたいな顔をする神崎。

 そして、またも笑う晃太。


「はははっ、やっぱり南とハバネロって似てるよなー。感性とか」

「いや、似てねーよ

 いや、似てないぞ」


 否定しようとすると、同時に声を発したハバネロと声がハモった。

 そして笑う晃太と笑いを堪えてる神崎。


「……ごほん、とりあえずどうする? 風の吹いてくる方向に進むって話だったけど、俺的にはあっちにはあまり進みたくないな。何となくだけど嫌な予感するし」

「うーん、じゃあどうしようか?」


 神崎がそう言うと、晃太は一つの方向を指差した。


「あっち行ってみればいいんじゃね?」


 晃太が指差した方向は、俺たちが歩いてきた方向でもなく、神崎が歩いてきた方向でもなく、突風が吹いてきた方向とも違う四つめの道だった。


「まあ、それが妥当だよな」


 神崎が来た方向の道に行くという選択肢もなくはないが、それならまだ誰も通ってないところを進んだほうが、この洞窟のマップを把握できるし、迷いそうになったら引き返せばいい。


「じゃああっち行ってみるか。それでいいか? 神崎」


「うん。このままじっとしてるのもあれだし……とりあえず進みながら色々と考えようよ」


「よし、じゃあ行くか」


 こうして俺たちは、俺と晃太が進んできた方向から見て、右の方向の道を進んで行くことにした。

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