1.迷子たち④ 不吉を呼ぶ風
「じゃあ早速だけど神崎。さっき真っ直ぐ進んでたつもりだったのに迷ったって言ってたよな? 何で自分が迷ってるってわかったんだ?」
「それがね、このダンジョン入ってから真っ直ぐ進み続けて、しばらくしてからそろそろ戻ろうと思って引き返したんだよね。そしたら、いくら歩いても入ってきた入口のところは見えないし、それどころか来たときとは周りの風景が少し違ってたりしてて……。気づいたら道に迷ってたの」
「そうか……」
「ねえ、そう言えば日向君たちはどこら辺で自分たちが道に迷ったって気づいたの?」
「あ、ああ。気づいたっていうか、ロックドッグの群れに追いかけられて逃げてるうちに迷ったというか……」
「うわぁ……。よく逃げきれたね」
「全く持ってその通り、よく逃げきれたと思ってるよ。な? 晃太」
「あ、ああ、そうですね、南さん……」
晃太に話をふると、ばつの悪そうな顔をして視線を逸らす。
それを見た神崎は少し不思議そうな顔をする。
「で、こうやって火を見て風が来てる方向を調べてその方向に進んできてたら、神崎とバッタリ遭遇したってわけだ」
俺は神崎に見せるように右手の人差し指を立てて指先から火を出した。
「そうなんだ……。何か、地道だね……」
「……これしか思いつかなかったんだよ」
悪かったな、地道な方法で。
「でも、理屈はわかった。風が来てるってことは外と繋がってるってことだもんね」
「そういうこと」
さすがというか、話の流れを理解するのが早くて助かる。
俺は指先の火を握り拳くらいの大きさくらいまで膨張させて、そのまま風が来るのを待った。
その間、晃太は息をかけないように火の方から顔を逸らし、逆に神崎は火の方をじっと見ていた。
「……何か、不思議な火だね。普通の火より赤いというか、トマトみたいな真っ赤な色してる」
「……ぷっ。トマトだってよ、南」
神崎の発言に顔を逸らしながら笑う晃太。
「あ、ごめん、バカにしてるとかそういう意味じゃなくて」
「別にいいよ。この火が普通のやつより赤いって言いたかったんだろ?」
「うん。これって魔法?」
「いや。俺が使うのはフォースだ」
フォース。
人が使えるアビリティと呼ばれるものの1つである。
魔法との違いは大きく言えば、使用する際に、詠唱がいらないことだ。
魔法は、詠唱を唱えることで頭の中で使う魔法をイメージし発動する。
魔法自体は詠唱しなくても発動できるが、大体は完成度の低いものになるらしい。
逆に言えば、詠唱が長ければ長い程、イメージが頭の中で強く反映され、魔法の威力は強大になる。
しかし、フォースは一切それがない。
フォースは体内の魔力を練って魔法を使うのと同じように、体内に流れている波動という力が放出されることによって、フォースとなる。
フォースは遺伝的なものが強く、人によって使えるフォースが生まれたときからある程度決まっている。
まあ、中には突然変異みたいなのもあるらしいが。
俺の場合は炎と風の波動が使えるが、逆に言えばそれ以外の属性は基本的には使えないのだ。
その代わり、波動は身体機能の一部のように扱えるため、詠唱などは一切いらず技を放てるのだ。
さらに言えば、魔力や波動の元になるのがマナという物質なのだが、これ以上説明すると、面倒くさいことになるのでマナの説明はまた今度ということで。
とりあえず、ざっくりと魔力や波動の大元のエネルギーみたいなものだって思ってくれてれば問題ない。
「でも、やっぱり不思議な火だね」
「ああ、それは―――」
俺がそう言いかけた時だった。
ビュオオオオ―――
「キャッ!」
「何だ!?」
いきなり突風が俺たちを襲い、指先の火が大きく揺れた。
「今の風は……」
神崎はそう呟きながら風が吹いてきた方向を見た。
「外からの風か?」
「わかんねえ……」
今の風、何となく嫌な感じだったな。
中二病とかじゃなく、何か不吉なものを感じた。
そんなことを思ってると、俺の胸元が急に赤く光り始める。
俺は服の下に着けていたペンダントを取りだす。
ペンダントについているのは、紅色の小さなクリスタルで光はそのクリスタルから放たれていた。
やがて、クリスタルの光は眩しさを増し、思わず目を瞑る。
数秒してから目を開けると、クリスタルの光は収まっていて、その代わりにカラスくらいの大きさの全身が赤く、翼と鶏冠と尾が炎に包まれている鳥のような生き物が目の前にいた。
それは、かつてこの国の東西南北を守護していたという四神、クロスビーストとも呼ばれる内の1体、炎を司る神であるとされる南の守護神・朱雀だった。